まだまだブスとひとつ屋根の下

7人+αの暮らし。更新情報等つぶつぶ中@b3_ribbon


テーマ:

こんにちは、
最近どうにも放置気味ですみません

なかなか書く時間がないのです
そしてちゃんと書き進めてますよ(>_<)
と言い訳になります・・・
一応生存報告と言うことで

ホルモンとアイどると二作連載中ですが
それでもアイデアとか以前にどんなのが読みたいのかお聞きしたときのコメントとか見てると
色々と他にも書いてみたくなっちゃいます・・・
ひとつ屋根の番外編も書きたいし

まぁそれは置いといて
総選挙が始まってますね
速報の梅ちゃんの順位に驚きました
他にも支店のランクインの多さと言ったら・・・
そろそろ自分も誰に投票するか決めないとなー

なんて思いながら間もなくファン歴1年を向かえるのであります
同じテーマの最新記事

テーマ:

Program 2

"Daybreak of AIdol"





-M-



「この度は、本日より日本に配備されるAI-Dollシリーズナンバー0018・MYW-Ιの発表記者会見にお集まりいただきましてありがとうございます」


 報道陣や政界のお偉方、芸能関係者等、多くの見物がホールの中に集まってる。そこまでして見たいものなのかって聞けば、私だって当然見たい。もう一人の『私』とか関係なく、AI-Dollシリーズの新型機お披露目なんだから。絶世の発明だ。まるで人間にしか見えない超高性能アンドロイド。今までのAI-Dollシリーズだけを見ていれば、まさかあれが機械だなんて思う訳がない。だってただの人間だもん。


「けど、次のAI-Dollがまさか自分の分身だなんてねぇ」
「うん……」


 ホールの後方、出入り口の傍に立ちながら一人のタレントと話す。私より一つ年上。昔はヘタレヘタレなんて言われていたけれど、タレントとして、アイドルとして、そしてプロデューサーとして第一線で活躍してる。アイドル好きだからこそのプロデュース力。AKB48の新ユニットのプロデュースにも参加していて、四十手前とは思えないぐらいに元気だ。


「34歳もとっくのとうに過ぎてしまった!」
「麻里子様に思いっきり祝ってもらったじゃん」
「もう5年も前とは……」


 時が過ぎるのは早い。本当に早い。時間に比例するように、あの頃のメンバーとの仲はどんどん深まっていくばかりだった。さっしーこと指原莉乃もその一人。今でもたまに、一緒に食事に行ったり旅行に行ったりする。
 さっしーは年老いた秋元さんの右腕的存在としてその辣腕を振るっている。これがなかなかのプロデュース能力で、本当にヘタレのさっしーと同一人物なのかどうか怪しいところだ。


「まぁ作詞はりっちゃんに任せっぱなしだけど」
「きたりえ、元気?」
「うん、元気みたいよ」


 さっしーのプロデュース能力は並み外れているものの、しかし秋元さんのようにプロデュースと作詞の両立までは出来ていなかった。昔一度行った一年間の作詞企画のことを思い出すこともあるらしいけど、なかなか上手くはいかないみたい。そこで協力を求めたのが心友、北原里英。女優にしてアイドルにして作詞家。40歳になっても人見知りのきたりえに誰かのプロデュースは難しいみたい。けれど、芸能の仕事と作詞の勉強を両立してきて、今となっては48グループの曲の作詞をするまでになった。現在は外国の48グループの元を廻りながら、歌詞を考えてるとか。


「りのりえは凄いねー」
「麻友だって今度ミュージカル出るんでしょ?」
「まぁ」


 と、ホールのステージにスモークが巻き上がった。報道陣のカメラが一斉にフラッシュを光らせる。MYW-Ⅰ……、イチガタがついに全世界に向けて公開される。……なんて思うよりも先に、カメラのフラッシュってものもあまり進歩しないなーということを考えてる私だった。イチガタもAI-Dollなんだから、アンドロイドなんだからカメラとか録画機能とか内蔵されてるのかな。
 隣ではさっしーが前の席にまで乗り出して、食い入る様にステージを見つめていた。


「……そんなに大したもんでも」
「でも麻友がAKBに戻ってくる!」


 さっしーの目が思いっきり輝いていた。活き活きしてる時の秋元先生みたいな……。アラフォーとは思えないぐらいに子供っぽい。こんな風に心に余裕を持ちながら生きたいもんだ。まぁさっしーはさっしーなりに苦労はしてるんだけどね。何かあれば人気低迷だとか、プロデュース失敗だとか責められるのだから。


「これは大きいよ!何と言ってもRevival of Mの企画名は私が考えたんだから!」
「お前かー!」


 一気にホールの中が湧いた。私がさっしーに向かって吠えたからではない。ステージにイチガタが現れたからだ。アンドロイドとは思えない滑らかな動きは、本当に人間みたいだ。本当に……私だ。

[みーんなの目線をー頂きーまゆゆーッ!]

 あぁ、またやってるよ。私ってあんなことしてたのか。この歳になると、あんな風にはしゃいでる頃の自分がある種の黒歴史にも思える。もちろん若気の至りとも言うけどさ、自分もあんなことしてたんだなーって思うと、顔が熱くなる。






-Ⅰ-



ワタナベマユ本人ノ静脈ヲ確認...
起動準備完了...
システム確認中...
認証システム正常...
感情システム正常...
記憶メモリー容量0.1%...
言語システム...


itadakimayuyu x
イタダキマユユ x
いただきまゆゆ o


システムオールクリア...
AI-Doll No.0018 MYW-Ι 起動...



[みーんなの目線をー頂きーまゆゆーッ!]



 私コトMYW-Ιハ目覚マシタ.失レイシマシタ.言語しすてむヲ再確認中...ベ、別ニおんぼろジャナインダからネ!何と言ッテも世界最高峰のAndroidの最新型なンだかラ!おッとッと、しッかりシステム確認しなくちャ.
 なんて言ッてる間に確認OK!いやー、さすがはMYW-Ι!最新機種!私ッてば凄いね.とか自惚れちャうような性格は、起動している私を見つめる渡辺麻友様本人の和華かりし頃の性格なのです.失礼.若かりし頃の性格なのです.私は麻友様をモデルに作られた、言わば麻友様の分身.まァ分身とは言え、全てが違うのですけど.金属製の身体.皮膚も筋肉も全てが人工.身体中に血液なんて流れていない.流れるのは繊維型ソーラーセル、私の髪によッて蓄えられた電気.電気信号と、たまにオイルが身体中を駆け巡る.
 今現在語ッているこの言葉の羅列でさえ、全てはプログラムされたもの.麻友様の行動パターンから計算された言葉の羅列.数列.


「こ、これが私……」
「厳密に言えば、渡辺様を模した人工知能搭載超高性」
「説明は良い」


 『私』…….17歳の身体の私とは違う、年老いた本物の『私』.渡辺麻友様.オリジナルまゆゆ.年老いても綺麗だ.美人.機械に美意識がわかるのかッて?わかるよ.簡単だ.顔のパーツの配列やバランスを計算すればわかる.麻友様は綺麗だ.


[お初にお目にかかります、麻友様]
「いや……お初じゃないだろう」


 真ッ白い壁や床に囲まれた部屋の中で、麻友様は表情を無くしていた.笑顔率2%.楽しそうではない.嬉しそうでもない.隣にいるこれまた真ッ白い服を着た女性の方が笑顔率は高い.82%.目が笑ッているとは言えないので、営業用の笑顔と言えます.


[確かに麻友様は、この姿はお初ではないでしョうね.むしろ麻友様の身体ですから]
「様は止めろ、イチガタ」
[イチガタ……]


 『イチガタ』をキーワードに検索中.ヒットワード、『一型糖尿病』.うーん……、私は糖尿病?いや、麻友様がそのような言葉を知ッているとは思えない.糖尿病の経験は診断したところ無いようだし.


[イチガタ……?]
「あぁ、お前と私を区別するための名前だよ」


 名前……?私は、MYW-Ι.そして渡辺麻友だ.しかしそれとは違う、また別の名前…….イチガタ.麻友様の思考パターンから計算すれば、MYW-ΙがMAYU WATANABE型AI-Doll初号機であることから初号=壱、そして型をとッて壱型.つまりはイチガタということだろう.さすがは麻友様.なかなか安易だ.


[様はお嫌いですか?]
「17の頃の私が様を付けてたのはアニメのキャラクターぐらいだ!」
[まァそうかもしれません]


 麻友様の思考パターンならそうでしョう.誰かに敬われるとかも、好きかと言えばそうではないと思います.とにかく負けず嫌い.可愛らしい容姿からは想像もできないくらいに負けず嫌い.


[では、なんと及びすれば良いのですか?]
「及びじゃない。お呼びすれば、だ」
[失礼.変換ミスです]


 まァ最新機種ッて言ッても、今の技術じャこんなもん.計算と会話、そして動作を同時に行うと多少ながらエラーが発生してしまう訳です.言ッても想定の範囲内なので問題はありません。問題はあり得ません。


「様じゃなきゃ何でも良い」
[麻友ちャん]
「ふざけんなっ」
[様ではないです]
「渡辺様は別の呼び方をご所望よ。イチガタ」


 白い服の女性もそう言ッた.それに女性も様を付けて呼んでいる.……いつまでも女性では失礼.しかし名前を知らない.知らないからシロイさんで良いや.服が真ッ白ですからね.シロイさんからすれば麻友様はクライアントに当たるのだから仕方ないと言えば仕方ない.
 では、私は麻友様をどういう風に呼べばいいのでしョう.麻友様……麻友様……麻友様…….『渡辺麻友 呼び方』で検索中.……最適なワードの検索結果0件.再検索……、いえ、ここは自分で思考しましョう.そうでなければ人工知能搭載である意味がありませんから.
 シロイさんは麻友様を渡辺様とお呼びします.何故か.そういう関係だからです.なら私と麻友様の関係は……オリジナルと複製.麻友様を模した、機械で出来たレプリカ.麻友様がいるから、私は作られた.麻友様から作られた…….


[ママ……]
「マ、ママ……!?」


 私にとって、無くてはならない存在.母親のような存在.母であるべき存在だ.私……、いや、麻友様にとってのお母さんは実のお母さんと、そしてゆきりん.柏木由紀.麻友様を見守る優しい人.優しくて素敵な人.お母さんと呼ぶのでは、ゆきりんと同じになってしまう.だから……






-M-



[ママ―ッ!!]


 ステージの上で、イチガタが思いっきりはしゃいでいた。はしゃぎながら、こっちに向かって手を思いっきり振っている。ブンブンと激しく。本当に機械の動きとは思えない。何度でも言おう。あれが私と同じ容姿でなければ、アンドロイドだなんて信じない。
 会見の途中に急にママという単語を叫んだイチガタに、報道陣やお偉方、ホール中の人が振り返った。止めてくれ、イチガタ……。今注目を浴びるべきなのはお前なんだよ。


「あははははっ!」
「笑い過ぎだ、指原ー」
「だって……ママって!」


 お腹を抱えながら笑うさっしー。私だって、自分がそっち側の立場だったら笑うだろうさ。爆笑だったね。床に転げても良い。どういう思考回路してるんだって怒ってやりたいけど、結局イチガタの思考回路は私の性格を模したものらしい。昔の私は、確かにゆきりんを見てあぁ言う風にはしゃいでいた……ような気がする。
 
「イチガタちゃんはダンスも踊れるんでしょ?」
「聞いてないけど、AKBに入る以上は踊れるんじゃない……」
「そっかそっか。こりゃ話題になるね!」


 ウキウキしてんなー、さっしー。まぁ話題作りとしては申し分は無いだろう。しかし、オリジナルの自分としては複雑な気分だ。機械のくせに、本当に私を真似しやがって。技術の進歩には称賛を与えても良い。けど、あれは人工物なんだから。人工物で組み上げられた、レプリカなんだから。ママなんて呼ばないでくれ……。


「すんごいサプライズ演出でも考えよっ!なんならシンクロときめきをカバーさせるかっ!?サバどるをリメイクとかね!」
「カバーもリメイクも、結局私の顔なんだから意味ないじゃん」
「38歳役は麻友本人がやれば良いし!」


 ナイスアイディアだねっ!なんて褒めてやるかっつの。イチガタでカバー?リメイク?機械なんだから何でも出来るに決まってるじゃんか。どんな踊りだって、計算式をプログラミングすればそれで一発じゃないか。私があれだけ苦労してきたことを、高性能のあの子は何でもこなすんだ。機械の身体で。人口の思考で。私の性格で。
 38歳独身。現在恋人無し。そんな私に、もう一人の『私』という17歳の子どもがいきなり出来てしまった。機械の身体をもつ、特異だらけのアイドルが、その日デビューした。




テーマ:

新作公開しましたということで


[アイどるの夜明け-Revival of M-]


です。20年後のまゆゆとAKB48とアンドロイドの話。

AKB0048前提でもあるということで。

まぁ0048の3型目がまだどういう存在なのかわからないんですけど。

というかまだ0048見ていないんですけど(´□`)


20年後にそこまで技術が進歩しているかと聞かれれば

していないと思いますけど、さばドルの麻友と同じ年齢。

ある種、さばドルのパロディみたいなものですかね。

あんまり長い話にはしない方向で、よろしくお願いします。


テーマ:


Program 1

"Overture"




-M-


 何年経ったって、電車と言う乗り物の形状は大して変わらない。それはそうだと思う。変わる必要が無いのだから。もちろん車内は乗客が過ごしやすいように座席や空調などは改善される。それでも電車そのものは変わることは無い。今日もまた同じ線路の上を走る。私の乗る自動車の頭上、高架線を山手線が走り抜けて行った。秋葉原発、白いリムジン。
 自動車と言うものも大した変わりは無いな。いつまでも車輪が無くなることは無いし、空を飛び回ってる訳でも無い。しかしつい最近は外国で研究が進んでるとか。


「この度、渡辺麻友様にはお忙しい中、貴重なお時間を割いていただきましてありがとうございます」
「貴重という程でも無いわ」
「いいえ、時間は何時だって貴重です。Time is Moneyとも言うぐらいですから」


 私と向かい合うように座っている女性。無機質なぐらいに真っ白なスーツを着てる。スポンサーというか、研究員というか、美人秘書というか。まぁその存在は謎でいい。結局のところ私だって彼女が何者なのかわからないんだから。ただただ営業用と言わんばかりの笑顔を浮かべている。


「相変わらずお美しい」


 そうは言うものの、どうせ外交辞令に過ぎないのだ。何時だってそうだ。何時会ったってそうだ。これで会うのは何度目かわからない。何度目かはわからないが、会う度にそう言ってくるのだ。外交辞令にしか聞こえない。
 都内のビル群を縫うようにして、リムジンは進んでいく。見慣れた光景。ずっと芸能界で働き続けてきたのだ。都内のビルなら、どれがどういうビルなのかぐらい何となくわかる。この20年、いや、もっと長い。もうすぐ30年か。長い間芸能界にいるのだから。
 AKB48の名を知っている人間は少なくないだろう。きっと全世界の人間が知っているはず。かつて日本で"国民的アイドル"と称されたAKB48は、20年でさらに知名度を広げ、今や全世界にまで名は知れ渡っている。インドネシアのジャカルタから始まった海外拠点の姉妹たちも続々とその数を増やしている。
 AKB48の黄金時代と呼ばれたあの頃から、20年。私ももうすでに38歳。三十路なんてとっくのとうに過ぎ去って、四十路手前。あのころ流行った言葉をあえて使うなら、アラウンド・フォーティー。いわゆるアラフォーになってしまったわけだ。20年あれば全てが変わる。変わり続ける。変わることはできる。時代は流れ、世界は変わり、そして技術は発展した。まぁ私は、私達のような今を生きる人間は変わり続けることになれてしまったせいか、大した技術には大した驚きをすることは無くなってしまった。だって今を生きているのだから。
 充実した人生を送っている。送れていると思う。ドラマや歌、番組、舞台、沢山の仕事がある。元AKB48のメンバー達とももちろん連絡を取り合っている。しじみのように地味では無い。もちろん、しじみはしじみなりに充実していただろう。輝いていたろう。しかし私はそれ以上に輝いている。
 その内、リムジンはとあるビルの地下駐車場へと進入していく。都心の某所にあるビル。一見、周りにあるビルとは何の変わりも無い。何の変哲もない、普通のビルだ。しかしそうでは無いことを私は知っている。ただのビルで無いことを知っている。
 内部はビルなんかじゃない。研究所のようで、工場のようで、はたまた普通の会社のよう。フロアによっては学校のような錯覚に陥る。リムジンを降りて、白い女の後に着いて通路を進む。白いスーツと同じくらいに、ビルの中も無機質な印象を受ける。人の気配もほとんどない。もちろんこんなに大きなビルだ。まさか二人っきりなんてことはないだろうけど。


「こちらに手を」
「わかってる。急かさないで」


 エレベーターで別のフロアへ移動し、そして大きな鋼鉄製の扉の前に立ち止まった。私の身長よりも1メートルほど高い。静脈認証。虹彩認証。声紋認証。一つ扉をくぐる度に生態認証を繰り返す。いつ来てもこのシステムは面倒くさいな。それだけの重要機密でも無いだろうに。


「いいえ、もちろん最高機密です。国家的。世界的。兵器への悪用も十分に考えられる代物ですので」
「……時代はそんなに進んじゃったわけか」


 SF映画のような未来ははるか遠くのことだと思っていたのにな。……と、危ない危ない。私がもう年老いたみたいな発言じゃないか。そういうことは言わないようにしなくては。


「では……どうぞ」
"ポーン"


 女性が言うと同時に、真っ白な部屋の中に高い音が響いた。部屋に入ったという合図みたいなもの。真っ白な部屋。壁も床も天井も全てが真っ白で、まるで360度、全体が私達を照らしているかのようだった。
 そこ彼女はいた。彼女と言うか、『私』がいた。まるで梱包されたフィギュアのように透明の箱で覆われ、目の前の『私』は固い表情でそこにいる。鏡映しという訳ではない。鏡映しなら、その鏡には38歳の私が映るはずだ。そうじゃない。そこにいる。『私』がいる。38歳の私の前に、17歳の頃の『私』がいるのだ。肌はやわらかそうで、滑らかそうだ。背格好はあのころの私とまるで一緒。キュッと真っ直ぐなツインテール。今思えば恥ずかしいぐらいに固めていた前髪。見ていると懐かしくて、私ってこんなところに黒子があったんだななんて、自然と笑みが零れてしまう。


「いかがでしょうか」
「いかがも何も、すごい……」


 17歳当時の私の顔。驚きも驚きだ。マネキンや作り物、デスマスクなんかではない。私の顔。私の身体。高い位置で結んだツインテールに、「Everyday、カチューシャ」で着ていたマリンルックの衣装。今更この衣装ってどうなんだ……とは思うものの、17歳の頃の私にはそれがとても板に付いていた。
 私に飛び込んできた一つのお仕事。仕事?企画?プロジェクト?今でも健在であり、業界では長老とも呼ばれている秋元先生からの伝えられたのは、モデルだった。モデル……?どう言って良いのかわからないな。今でも芸能界で活動しているAKB48への、サプライズ。



"Revival of M"



 Mの復活。現在のAKB48へのお達しは、そう銘打たれたサプライズだった。襲名メンバーと呼ばれる、現代のたかみな……たかみなさんやあっちゃん達。3代目や5代目が続いている中で、唯一つの空席があった。私だ。あの頃のメインメンバーの冠が継承されていく中で、『渡辺麻友』だけは襲名されることは無かった。何故か。サプライズの為だ。


「まるで死体みたい……」
「渡辺様はお亡くなりになっておりません」
「当然じゃん」


 白いスーツの女性は『私』を見つめる私を見て、微笑んでいた。掴めない性格だな。秋元先生の知り合いとのことだけど、やっぱりよくわからない。私と同じ年齢……いや、もう少し若くも見える。


「渡辺様も相当お若く見えますが」
「でも、この子には勝てない」
「我が社、そしてこの国の技術の結晶。人工知能搭載の超高性能自立式アンドロイド・AI-Doll。シリーズナンバー0018。MYW-Ι」
「それが……この子の名前」


 真っ直ぐに、スラッと伸びた細長い手足。柔らかそうな肌と唇。何から何までが、当時の私そっくりの、もう一人の『私』。私をモデルにしたアンドロイド。まさかAKB48にアンドロイドを送り込むだなんて、秋元さんの考えることは突拍子もない。


「えぇ。渡辺様の性格や癖、口調などの全てを17才当時のまま人工知能に集約しました」
「……私の性格の全てを数式、プログラミングで表せるとでも?」
「失礼しました」


 あの頃の私は、確かにCGだとか言われていた。もちろんそんなのは冗談の域であって、私の笑顔をコンピュータなんかで再現出来るわけがない。もちろん技術は進歩している。あの頃の技術とは比べ物にならないぐらいに進歩して、進化している。
 自立式アンドロイド・AI-Dollシリーズの評判は私も聞いている。全世界が知っている。シリーズナンバー最初の3体は稼働実験の際に異常を来たし廃棄。現在世界各地に14体の存在が確認されているAI-Dollシリーズ。人間そのものの動きを再現したと言われるAI-Doll。本物を直に見たことはないけれど、起動しているAI-Dollの動画を見たことがある。アンドロイド?何を言っているんだ。動いているのはただの人間じゃないか。そう思わせるぐらいに人間の動きを忠実に再現していた。


「何かご質問は?」
「いいえ……、特には無いわ。AI-Dollの機能なんて世間の皆が知っているし」
「説明不要で助かります」
「……強いて言うなら」
「はい」
「この子をどう呼んだらいいんだろ」


 この子もまた、渡辺麻友なのだ。私も渡辺麻友であり、同姓同名でなく、同じ人間。いや、アンドロイドを人間と呼ぶのはおかしいか。同じ存在。18才当時の私の再現。再生。誰かがこの子を『渡辺麻友』とか『まゆゆ』と呼ぶのは構わないが、しかし私はどう呼べばいい。結局は自分なのだ。自分を呼ぶのはおかしいだろう。子供じゃあるまいし。


「お好きなように呼べばよろしいかと」
「MYW-Ι?」
「MAYU WATANABE型初号機の略です」


 初号機って……。まるでこの子が使徒とでも闘うかのようだ。AI-Dollに戦闘用兵器が積んであるなんて話は聞いたことがない。それにまさかとは思うが弐号機や参号機の登場フラグにならないだろうな……。って、いつの時代の話だ。フラグなんて言葉も今となっては死語みたいなもの。口に出すのだけは止しておこう。


「壱型……」
「イチガタ?」
「この子は壱番目のMAYU型。壱型」


 まゆゆ壱型。この子の名前。私が呼ぶ、もう一人の渡辺麻友。人間ではない、機械の体を持つ渡辺麻友。憧れていた、憧れ続けていたSFがここにある。目の前にある。人工知能。人工筋肉。動力はもちろん電気だし、髪の毛にしか見えない10万本もの細い繊維はそれぞれがソーラーパネルの役割を果たす。最長2週間は充電不要。防水はもちろん防熱、防寒。防げないのは人間と同じく拳銃や兵器、武器類。そして高熱。つまりは火。それぐらいと聞いている。


「ナノマシンの導入による傷の自然回復も考案されましたが」
「さすがにそれはな……」
「えぇ」


 正直言って、機械が自動的に修復するなんて気味が悪い。データの復旧とは訳が違う。機械は……いつまで経っても機械のままで良い。治すではなく直す。治療ではなく、修理。人間の手による修理。機械は機械だ。


「起動しましょう」


 女性がそう言った。この女性の名前、そう言えば聞いていないな。今更どうでも良いけど。しかし女性と呼び続けるのもどうだろうな。真っ白なスーツなだけに、通称シロイで良いか。名前を知らないスタッフにあだ名を付けてる気分だ。
 シロイが真っ白な壁の一部分をスッと撫でた。するとそこにコンピュータの画面が表示される。細く長い指でスッと操作をするその姿は、随分と手慣れている。むしろ慣れていなかったら困るが。


「お下がりください」


 言われた通りに一歩下がると、壱型を覆っていた透明の箱が崩れるように消え去った。溶けるようにして。もちろんただのガラスやプラスチックがそんな風に消えるわけがない。透明な箱に見える、ただの立体映像。解除する前に触れれば警報が鳴る。そうなってるらしい。
 さらにシロイは壁に表示されているコンピュータを操作し続ける。システムに異常は無い。起動実験はもうすでに終了しているとも聞いてる。ついに……もう一人の私と出会う時が来た。


「どうぞ」
「え?」


 さっきまで起動画面が映し出されていたその場所に、入口にあったのと同じ静脈認証の画面が表示されている。


「本日この場より、MYW-Ⅰ……、イチガタの起動権限を渡辺様に委譲されます」
「その権限は誰から……?いや、聞かなくても何となくはわかるけど」


 48グループの全権限を手中に収めている人間なんてただ一人しか考えられない。今でも長老として、その手腕をふるい続けているのだから。凄いなんてものじゃない。そんな安っぽい言葉じゃ全く持って足りない。未だに掌の上で踊らされているようだ。そんなあの人から権利を譲り受ける……か。なら躊躇してる場合じゃない。


「ポチッとな」


 画面に触れると同時に、ワーンと部屋の中に音が響いた。置いた掌から、画面から、部屋全体に向かって幾何学的に光が走り抜ける。やがて光は一点に集中していき……


[みーんなの目線をー頂きーまゆゆーッ!]


 目を開き、全身で部屋の真ん中に飛び出す壱型は、かつての私のキャッチフレーズを叫んだ。満面の笑みで。満面の、機械的な笑みで。それがかつての私との、もう一人の『私』との……初めての出会いだった。



テーマ:


side W



「何であいつが付いて来んだよ……」


 アキチャとウナギが呆れた顔をするのもわからなくはなかった。私……俺れらのチームに妙な因縁を付けては追いかけ回してきたんだからな。殴られもしたし暴言も吐かれたし、そりゃ呆れもするだろう。むしろ俺がこいつらの立場だったらキレるとも思う。きっとキレる。多分キレる。絶対にキレる。


「まぁ良いじゃねぇか」
「良くねぇよ!ヲタ、お前はあいつに偉い目に合わされただろうが!」


 いやいやいやいや、ウナギさん。偉い目も何もあいつとタイマン張ってる時にラッパッパが乱入してきたって話であって、別にあいつのせいじゃない。単に運が悪かった。俺の運が悪かった。入学初日から矢場苦根に絡まれて、3日目にはトップ集団から目を付けられる。そしてついには集団リンチだ。運が悪いと言わずして何と言えば良いんだか。
 とは言え、良いことだってその分あったんだ。ウナギとムクチとアキチャという仲間ができた。と……友達って言って良いんだろうか。一緒にいる仲間ができた。優子さんのような人達にも出会えた。そして、素直じゃないけど。不貞腐れてるけど。バンジーが俺達4人の少し後ろを付いて来ていた。


「俺はお前を仲間だなんて認めねぇぞ!」


 ウナギが立ち止まって、バンジーを指さした。右手の人差し指を真っ直ぐバンジーに向ける。橋の上。入学式の日に、優子さんが降ってきたあの橋の上。矢場苦根の溜まり場が近くにあるってのは分かってる。けど、何となく今日は大丈夫なんじゃないかなって野生の勘がそう言ってる。


「知るかっ」


 バンジーはそっぽを向きながら、吐くようにそう言った。うわー。バンジーはバンジーで愛想悪いなー。なんでそこまで愛想悪いのに俺達に付いてくるんだか。まぁ誘ったのは俺なんだけどさ。こんなにも素直に……素直に?素直かどうかはわかんないけど、付いてくるもんだとは思いもしなかったんだ。
 いばらの城から抜け出して一週間。騒動は想像以上に沈静化していた。まるで何事も無かったんじゃないかってぐらいに。俺達が無関係であることを優子さんが言ってくれたからだろうか。この一週間、ヤンキーに絡まれること無く普通に学校生活を送っていた。


「何だと、こらっ!」
「止めろっての」
「喧嘩なら買うぞ」
「バンジーも落ち着けって!」


 何でこいつらはここまで気が短いんだか。俺と違って根っからのヤンキーなのかもしれない。……って、ウナギは俺と同じビビりだったはずじゃないか。それにバンジーよぉ、少しは性格丸くなっても良いじゃんか。一週間も休んだんだからよ。
 バンジーはこの一週間学校に来なかった。ラッパッパの猛攻に恐れをなしたのか、それとも猛攻によって負った怪我が酷かったのか。一週間ぶりに学校にやってきたバンジーを見れば後者であることは明らかだった。袋叩きにされて残った顔の腫れは引いていなかったし、右脚には包帯を巻いている。見てると少しだけ歩き辛そうだ。


「よ、よぉ……」


 今朝、バンジーはゆっくりと歩きながら、不貞腐れたような顔をして教室に入ってきた。窓際のムクチに席の周りに集まっていた俺達の4人のすぐ傍を不機嫌そうに通り過ぎる。そんなバンジーに、俺はダメ元で声をかけてみた。いや、何となくさ。ここは声かけるべきかなって思って。別に敵じゃないし。もちろん味方でもないけど。一緒にラッパッパにやられた仲なんだから、何となくそんな意識が芽生えちまった。どうせバンジーのことだし、こんなことしたって無視されるんだろうとムクチ達の方に向き直って


「おぅ」


 小さな声でバンジーがそう返事をした。まさかバンジーが応えるなんて思わなくて、呆気に取られたまま今日一日を過ごしてしまった。一週間前は、結局ほとんどなにも話さないままだったから。喋るのもやっとなぐらいにボコボコにされたから。
 で、何処行く宛ても無く4人で帰ろうとしてたら今度はバンジーの方から声をかけられた。


「……お前、何でそんなピンピンしてんの」
「えっ?」


 ピンピンって、そんなにピンピンしてるか?これでもまだ傷とか残ってて痛いんだけどな。痣も沢山あるし。まぁバンジーみたいに歩きづらいとかそんなことは全くもってないんだけど。


「てめぇの身体はどうなってやがんだ……」
「ヲタが丈夫なんじゃね?」

 そう言ったのはアキチャだった。アキチャはウナギと違って、バンジーが話しかけてきてもいつもみたいに能天気にしていた。まぁアキチャだしな。沸点が低いのはウナギとあんまり変わんねぇけど、沸騰しにくいらしい。と言うよりはどうやったら沸騰するのかがわかんねぇ。


「ていっ」
「ひゃんっ!」


 アキチャが急に俺の脚を掴んだ。スカートの下から露わになってる俺の脹脛を。急に触られたせいか、奇声が出てしまった。奇声過ぎて周りの4人が俺をマジな目線で見つめていた。恥ずかしい……。
 奇声が恥ずかしすぎて、逃げるように小走りのまま帰り道。バンジーが付いて来て、そんでウナギがキレてる。素直じゃないけど付いて来るバンジーが嬉しいし、俺のことを心配してくれるウナギの気持ちが嬉しかった。喧嘩はしないでくれたらありがたいけど……まぁそうもいかない。


「本当に仲間にすんのかよ!」
「あぁ」


 何か騒動に巻き込まれる時に、一人でも仲間が多い方が頼もしい。バンジーなら腕っぷしも強いし、俺達に無いような度胸だってある。俺達が変われるかもしれない。そして一匹狼のバンジーが、もしも、もしかして心を開いてくれたらそれも嬉しいなって。……ヤンキーらしくねぇな。


「……勝手にしろ!」


 そう言うとウナギは一人早足で先を歩いていく。おいおい、一人で行くんじゃねぇよ。また矢場苦根さんに絡まれたらどうすんだっての。バンジーが早く歩けないんだしよ。


「アキチャ、ウナギを一人にすんな」
「りょ!」


 アキチャはまた能天気に敬礼をしてウナギの後ろを付いていく。まず了解を略すなってことと、敬礼は左じゃないぞ。ちゃんとやるなら右でやれって。


「……っ!」


 振り向くと、バンジーがちょうど道端の小石に蹴躓く瞬間だった。小石なんかに蹴躓くなんて、一匹狼が可愛らしいじゃん。なんてことを考えている場合でなく、なかなか危ない状況だった。右脚ケガしてて不安定なんだから、危ないに決まってる。
 と、俺が手助けに入る前にムクチがバンジーの上体を抱きこんだ。


「……わりぃ」


 バンジーはムクチに助けられて、決まりが悪そうな表情だった。人に助けられ慣れてないんだろう。少しだけ、頬が紅くなってる。





side Y



「な、なんでシブヤがいるのっ……!?」
「いちゃ悪ぃのかよっ!」


 トリゴヤにつっかかるシブヤの声が教会の礼拝堂に響いた。ブラックの家である教会。町の片隅に教会はあって、そこが私達5人、いや6人の溜まり場になっている。神聖なとこでヤンキーが集まるなって?何言ってんだ。神聖なとことか髪とか仏とか言う前に、ここは友達の家なんだから良いじゃんか。ブラックだって、気楽そうに長椅子に腰掛けて本読んでるし。ゲキカラなんて祭壇の上で寝てる。何かしらの罰が当たるなら、きっとあいつが一番だろう。いや、ゲキカラだけはどうにも許されるような気がした。それぐらいにあいつは純粋だ。


「それにしても遅かったじゃん、サド」
「すみません」


 トリゴヤと一緒に礼拝堂に入ってきたサド。いつも通りのポーカーフェイス。息を切らしている訳でもなく、汗を掻いてる訳でもなく、ただただ冷静。トリゴヤなんて、サドと正反対に汗だくだし息を切らしてる。まぁトリゴヤの場合はそれが常だな。何かあればその辺のヤンキーに追いかけまわされてる。それぐらいに隙だらけ。基本的にボーッとしてるし、ほんと鶏みたいだ。
 けどトリゴヤはこれで強いんだ。信じられないだろうけど、パンピーぐらいならぶっ飛ばせると思う。それに変に勘が鋭かったり運が良かったり、異常なぐらいに変で、異常なほど面白い。ドジな様子は見てて飽きないんだよなー。


「別に謝ることじゃねぇけど」
「す……みません。コマに遭遇したもので」


 コマなー。ありゃラッパッパの中でも色々厄介だ。何気に優秀な手駒が多い。あれは、ただの木っ端と訳が違う。一人ひとりならまだしも、人数が揃えば私だって苦労する。まぁ勝てないことはないけど。結局は人海戦術なんだから対処できないこともない。


「うちのサークルは使わせ」
「使う気は無いっての」


 シブヤは結局、素直に私らのとこに来てくれるようになった。まぁここに来るのは今日が初めてなんだけど。シブヤはシブヤでこの一週間、ギャルサーのメンバーと色々話したようだ。上下関係を気にしないつっても、名目上は私の下に付くのと同義だもんな。スタッズをちりばめた真っピンクのパーカーを身にまといながら、長椅子に腰かけてトリゴヤを睨みつけている。シブヤを追いかけてたのは基本的にトリゴヤだからな。まぁシブヤの性格じゃキレるかもしれんな。


「タイマンと多人数で戦い方変えねぇと。なぁ、ブラック」
「私は……いつも同じ」
「あはは、そかそか」


 ブラックのオヤジさんは私達が来ると部屋に引っ込んでしまう。そんなにビクビクすることでもねぇだろ。そりゃ確かにムカついて一発殴っちまったけどさぁ。お客さんが来たらお茶とかお茶受けだすもんだろうが。って、私客やないかっ!
 ブラックは相も変わらず暗い。暗くて黒い。サドと同じに寡黙なタイプ。基本的には黙って本を読んでる。聖書とか詩集とか。そういうのが好きなんだろうな。身体を動かすよりは文化系なタイプだし。でも結構ノリは良かったりして、私の冗談に乗っかってきてサドやトリゴヤをイジることもしばしばある。顔はいつだって無表情だけど、楽しいんだと思う。信頼がおける奴だ。ゲキカラも妙に懐いてるから任せられる。


「コマが動いてんの?」
「いえ、そうではないと思います」
「トリゴヤはどう思う」
「うーん、嫌な予感はしない……かな?」


 唇を尖らせて、明後日の方向を見つめながら首を傾げるトリゴヤ。なるほどなるほど。トリゴヤの予感、いや、それはもう予言の域だろう。トリゴヤの予言がそう言うんなら大したことは起きないんだろう。しばらくは動きが無いと見て良さそうか。とは言ってもたまに外れるんだけどな。
 と、そんなトリゴヤとのやり取りをシブヤが唖然とした表情で見つめていた。


「シブヤのかくれんぼを見つけてたのも全部トリゴヤなんだぜ?」
「意味がわかんねぇ……っすよ」


 無理やり敬語に変えてきた。もちろん敬語って言うにはまだ無理があるけど、それでもシブヤなりに敬意を込めている。私は別に良いって言ったんだけど、下に付くって言うのはそう言うことだからってよ。そこまでプライド曲げなくて良いのにな。シブヤはシブヤなりに偉そうにしてりゃ良いんだ。


「私もトリゴヤのことはよくわかんねぇよ」
「優子さんってばひどーい!」
「だってわかんねぇもん!」


 サドは……何か知ってるらしい。サドとトリゴヤは小学校の頃からの幼馴染ってやつで、付き合いもそれなりにあったらしい。トリゴヤを紹介してくれたのもサドだ。すっとぼけてるけど使える奴とか何とか。初めて見た時は私もシブヤと同じような気持ちだった。こんな絵に描いたようなドジっ子で大丈夫かよ……って。まぁそんな不安は付き合いを重ねて行くうちに払拭出来たから良い。トリゴヤに何があるのかも聞かない。別に知りたくもない。見ていて面白けりゃ、それで十分。


「ま、ラッパッパのことは置いとこ」
「置いていいのかよっ!……良いんすか」
「そんな無理すんなって。おい、ブラック。例の物」
「もうそこに」
「えっ?」
「はっ?」


 シブヤと2人して長椅子の方に振りかえった。さっきまでそこには何も無かったはずなのに、置いてあった。何がって紙袋が。何時の間に……。何時もなら何となく付いていけるブラックのスピードなのに、油断した。ってか私の隙を付くとはなかなかやるじゃないか。


「ほい、シブヤにプレゼント」
「プレ……、はっ?」


 シブヤの好きそうなピンク色のスカジャン。スカジャンはうちに結構あるんだ。ちっちゃい頃から、着るわけでもないのにさ。多分両親の物だったんだろう。両親が着ていたんだろう。顔も知らない両親。祖母ちゃんには死んだって聞かされてる。どうせうちにあっても着るもんじゃないし、それならいっそ誰かに来て貰った方が嬉しい。ブラックが身に付けているように。ゲキカラが身に付けているように。トリゴヤが身に付けているように。シブヤにもスカジャンを上げたかったんだ。
 一応サドにも銀色のやつ上げたんだけどさ、あいつはあいつの信条として毛皮のコートを羽織ってる。私を慕うあいつが唯一断ったことだ。それならそれで良い。


「スカジャンって……」
「嬉しいだろっ!」
「これから夏になんのに……っすか?」
「あっ!」
「あっ!って!!」
「優子さん……スカジャンは暑い」
「本当に暑いよー」


 静かに無表情のままのブラック、そしてスカジャンを着崩しているトリゴヤの頬に汗が流れていた。そういや今日は暑くなるとかサドが言ってたっけ!サドを見ると、静かなに真っ直ぐ立ちつくしてるけど、どう見ても毛皮のコートは暑そうだった。


「お前ら、暑かったら脱げよ!」
「一人だけ制服で涼しそうにしてるのは優子さんじゃーん」
「こればっかりはトリゴヤに同意……っすよ」
「麦茶、取って来ます……」


 爆睡してるゲキカラだけは、暑さを感じさせないぐらいに気持ちよさそうだ。





side W



「ちょうどここで助けられたんだ。優子さんに」


 橋の欄干に寄り掛かって、下のランニングコースを見下ろす。矢場苦根に絡まれてたムクチをここで助けたんだった。もうそれも1か月前のことか。結構早かったな。あっという間だった。まぁその間に何度ヤンキーに絡まれたかはわからないし、自分がどう変わったのかもわからない。


「それでも優子さんとの出会いは大きいと思う。な、ムクチ」


 俺と同じようにして橋の下を見下ろしていたムクチがニッコリと頷く。そういやムクチは出会ってからと言うもの、全く喋ることは無かった。たまにメールを打つこともあるけど、メールの中だけは超絶と言って良いぐらいに饒舌だった。今日はこんなことしたよねとか、こういうのが嬉しかったとか、ラッパッパにやられた時も心配のメールをくれたし。声は聞いたことないけど、何となく繋がってる気はする。


「大島優子……」
「バンジーも優子さんに憧れてる口?アキチャが憧れてんだよ」
「結局お前は大島優子と繋がってんのか?」


 あー、そこから聞くんだ。まぁ聞きたくもなるんだろうな。一応これでも学校の話題にはなったらしいから。シンデレラといばら姫に目を付けられた新入生。大島優子と繋がりを持つ新入生。作りたくもない噂や伝説を絶賛制作中。本当にそんなものはいらないんだけどな。


「入学一ヶ月で大島軍団、シンデレラ、いばら姫と接触だ。注目されるのも無理はねぇ」
「でももう弱いのはバレてんだろ?」
「だろうな」


 一週間で全くと言って良いぐらいにヤンキーに絡まれなかったのが良い証拠だ。注目株も大暴落ってわけだ。それで良いよ。別に優良株ってわけじゃないし、優子さんの名前で上に行っても面白くは無い。迷惑はかけられないだろ。


「繋がっちゃねぇよ」
「まぁお前なんか助けても仕方ないもんな」
「他人に言われると何か腹立つ。お前も慰めんな!」


 俺の肩をポンポンと叩きながら、何か良い笑顔のムクチ。こいつは何様なんだよ、全く。調子に乗ってるんじゃねぇぞ。バンジーも口が悪いのは変わらない。憎まれ口で目つきが悪い。ヤンキーになる為に生れて来たような奴だな。


「逆にバンジーは、よくラッパッパの部室に一人で行こうとか思うよな」


 姉ちゃんが取れなかったものを取るって言ったって、入学して早々に上るもんでもないだろう、あれは。人が降ってくるんだぜ?人間技じゃねぇよ。優子さんやサドさんだって、あんな細い腕であれだけの力を出せるってどうなってんだよ。身体の構造が気になって仕方ない。


「自分を試すにはちょうど良いだろ」
「試すにもレベル高すぎんだろ!」
「馬路須加に入ったくせにチキンな奴だな、お前」


 うぐっ……。今更そこに触れるんじゃねぇ。チキンなんてのは自分でもよくわかってんだ。一ヶ月でやっとこさ慣れたところなんだよ。人が飛んだり、瞬間移動したり、血塗れだったりしてさ。それでもそういう人間はマジ女のほんの一部なんだってようやくわかった。最低でも俺達のクラスには優子さん達やラッパッパみたいなヤンキー、それに学ランや着物を着たような妙な奴もいない。冷静に見りゃ、少し粋がってるぐらいの高校生だ。俺らと同じ、中学卒業したばかりの高校一年。


「私の見立てじゃ、1年C組で最強と言えるのはお前らだ」
「へっ」
「お前の言う通り、クラスの奴らは少し粋がってるだけだ。どうせ中学で問題児とか言われて調子に乗ったんだろ」


 あはははは……はは。正直に言えば、俺もその口だった。中学で粋がって、人もまともに殴れねぇのに馬路須加にやってきた。今にして思えば、ただ持て囃されてただけだろう。ヲタクのくせにな。まぁ語るほどのものでもない。中学時代のことなんか別に興味ないだろ。


「大島優子やその類みたいな人間じゃなきゃ、人数が物言うだろ」
「クラスじゃ俺らのチームが最多ってことか」
「それだけじゃねぇ。アキチャとウナギって野郎も、その辺の奴よりは腕っぷしはある」


 へぇ。こいつって、短気なくせして結構冷静に周り見てんだ。まぁウナギはどうか知らないけど、確かにアキチャは強いと思う。私に比べたらな。タッパはあるし、何か慣れたような動きだし。


「お前も大概変だし」
「変とは何だ!」
「シンデレラにあんなに攻撃喰らって普通に立ってたじゃん。なぁ」


 バンジーに同感と言わんばかりにムクチが頷く。あー、そういやそんなこともあったっけ。あの時は……何で立ち上がれたんだろうな。俺自身訳わかんねぇや。


「ムクチだっけ?お前はよくわかんねぇや」
「こればっかりは何もフォローできねぇよ、ムクチ」


 バンジーにせせら笑いされてプゥッと頬っぺたを膨らませるムクチだけど、膨れるのは違うだろ。膨れるぐらいなら何か喋れっつの。キャラ付けって言っても徹底しすぎだろうが。


「そういやウナギとアキチャはどこまで行ったんだか」
「どっかで絡まれてんじゃねぇの?」
「……不吉なこと言うなよ」


 そんなこと言われると何か心配になってきた。追いかけるか?いや、けどバンジーを置いていくわけにもいかないし。あいつら、ケータイ持ってるはずだし掛けてみた方が早いかな。
 ポンポンと、またムクチが俺の肩を叩く。今度は励ましとかじゃなくて、向こうを見ろって言う合図。振り返ってみると、ウナギとアキチャがこっちに向かって駆けて来ていた。


「おー、お前らー……って」
「めんどくせぇもん引き連れてんなぁ」
「おめーら逃げろー!!」
「待てやごらーっ!!」
「糞ガキッ!!!!」


 俺もムクチも思わず一歩引いた。一か月前にここで出会った矢場苦根のヤンキー達だった。ですよねー。俺の野生の勘なんて当てにならないことぐらいわかってるよ。相当怒ってらっしゃるし。そりゃそうだ。ウナギが倒したヤンキーもその中にいるんだ。
 全部で7、8人。見た感じ木刀とか鉄パイプみたいな危なっかしいものは持ってない。せいぜい鞄ぐらいか。学校帰りと見た。


「早く行け」


 バンジーが涼しい顔でそう言った。行けって言っても、お前が逃げらんないじゃんか。走れないからって囮になろうとでも言うんじゃねぇだろうな。つか絶対にそのつもりだろ。マジ女の制服着てんだから、ただで見逃して貰えるわけもない。自己犠牲のつもりか?囮になる私カッケー!みたいな?いやいや、それがマジならカッコ良すぎんだろ。漫画や小説じゃあるまいし、そんなカッコ良いことさせるかよ。


「てめぇ一人残していくか、バーカ」
「あっ?」


 馬鹿って言ったら睨んだ。本当にこの子ってば短気で困るわー。なんて怯むかよ。怯んでる場合じゃないだろ。いつもの俺なら逃げるけどよ、逃げるのがダメなら拳握るだろ。頭垂れて謝るのだって、プライドが許すわけがない。ちっぽけなプライドだけどよ。


「ウナギ!アキチャ!回れ右!」
「えっ!?」
「そう言ってくれると思ったぜ、リーダー!」


 アキチャってば良い笑顔だなー。やっぱりそれなりに喧嘩好きなんだな。キュッと橋の上でブーツを鳴らして、瞬時に構える。呆れ顔のウナギだけどこの際関係ないね。腹括れ、腹!
 本当は泣きそうな俺だけどさ、虚勢張るぐらいしか出来ないんだ。物凄い形相で迫ってくるヤンキーはマジで怖いけど、それでもラッパッパに遭遇するより何倍も、何十倍もマシだ。つーかムクチよぉ、喧嘩の直前なんだからもう少しそれっぽい表情作れないのかよ。キョトンとしやがって。あー、吐きそう。







「いってぇ……」
「無闇に突っ込むからだろ」
「ヲタもウナギもへっぴり腰なんだよ」
「うっせぇっ」


 矢場苦根のヤンキーとの喧嘩は結局勝った。勝ったんだと思う。興奮してたし、よく覚えてない。ただ、気付いた時には「覚えてろ!」ってヤンキーの一人が声を張り上げていた。まともに喧嘩できるのがアキチャだけだってのに、よくぞまぁ勝てたもんだ。もちろん、こっちも被害はゼロだったわけじゃなくて、それぞれ顔とか身体とか殴られて怪我してる。バンジーなんて見るからに怪我してたもんだから右脚ばかり狙われてた。


「大丈夫かよ……」
「人の心配してる場合か。唇切れてんぞ」


 一人じゃ歩き辛そうだったからバンジーに、肩貸しながらゆっくり進む。バンジーのことだから拒否されるもんだと思ったけど、案外素直に応じてくれた。それぐらいに一人で歩くのが辛いんだろう。
 いやいや、そんなことあるわけないやろ。なんて思いながら空いた右手の甲で口許を拭ってみると……ほんまやん!ほんまに血が出てるやん!と、エセ関西弁で驚いてみる。
 実力としては拮抗してたのかな。苦戦と言うほどの苦戦では無かったし、善戦と言うほどの善戦では無かった。数が少なかった分、善戦だったと思っておこう。勝ったわけだし。


「完全に顔覚えられてんな……」


 そう呟くウナギ。アキチャ曰く、橋の先の方までしばらく行ったところで矢場苦根に絡まれたらしい。ウナギの顔を覚えていたんだろう。あの時だってたった2人の新入生に倒されたわけだから、因縁の一つも抱いてて可笑しくない。もうこの辺を一人で気軽に歩くなんてことはしない方が良いな。ビビりのウナギに関しては、絶対にそんなことはしないと思うけど。


「どんだけビビりなんだよ」
「ビビりじゃねぇ!慎重に生きてんだよ、てめぇと違って!」


 噛みつくようにウナギはバンジーに言い返した。慎重に生きてるか。その言い方は良いな。俺もそれ使うようにしよ。


「で、何処だよ。お前ん家」


 先導するように俺らの少し先を歩くアキチャだけど、もちろん道を知らないままに歩いてる。そりゃまぁそうだろう。知り合って間もない同級生の家なんてそう知ってるもんじゃないし。俺だってこの中じゃウナギの家しか知らない。アキチャもムクチも帰り道が結構違うから。そんな俺達は今、バンジーの家に向かってる。このままバンジーを一人で家に返すわけにもいかないし、どっかで傷の手当てでもしたいなってことでバンジーが


「家……来るか?」


 って。断る理由も特に無し。ウナギだけはちょっと意地を張ってたけど、俺らが行くって決めた時点で断れなかったようだ。バンジーを一人にするわけにもいかないし、まさか自分が一人になれるわけもない。結局満場一致で可決。
 橋から少し離れた住宅地。俺やウナギの家とも大分離れてる。アキチャも家は学校挟んで逆側らしい。ムクチは……よくわかんなかった。色々伝えようとしてたけど、手の動作だけじゃ誰にも理解出来なかったし、揃って「いや、喋れよ」って突っ込んだ。また頬っぺた膨らましてたムクチだけど、今は呑気に一番後ろを歩いてる。


「もうすぐだ。そこの教会んとこ、左に曲がれ」


 この街には似つかわしくない古びた教会だった。古びてるけど、外観はとても立派だ。この街にこんな所があったのか。まさかヤンキーが踏み込んで良い場所じゃなさそうだし、構うものでもない。
 左に曲がるとごく一般の住宅が並んでいる。その中に仁藤という表札の家があった。ちょっと小綺麗なクリーム色の外壁。協会とは別の意味で、ヤンキーが住んでるとは思えない。何て言うか、絵に描いたような綺麗な家だもん。案外と良い家のお嬢様か何かだったりして。


「まぁ可愛らしいお家ですこと」
「あぁっ?」


 ウナギの馬鹿にしたような含み笑いに、バンジーが眉根を寄せる。ウナギの隣でムクチも震えてるし。まぁ似つかわしくないって言う意味で言えば……俺も笑ってしまいそうだ。けど、家は家だし。そういうので人のことを笑っちゃいけないんだぞ。


「バンジーって良いとこのお嬢様か何か?」
「んなわけねぇだろ、この街に住んでて」
「ふーん……」


 ただ、裕福そうではある。うちはパパ……親父はただのリーマンだし、そこまで裕福ってことは無い。マジ女に入ったのだって、学費が安いって言うのも一つの理由だし。私立であるはずなのに、学費は格安なマジ女。さすがに騙されてるんじゃないだろうかってぐらいの。まぁ授業をちゃんとやってる訳でもないし、何となく理由はわかるけどもさ。あの校長のことだから、考えはわかんねぇ。


「とりあえず上がれよ」


 そう言いながら、バンジーは玄関扉を開けた。片腕は俺の肩に回してるから手伝ってやらんと大変そうだ。右脚がこれじゃ踏ん張りも聞かないだろうし。開けてみると、またまた小綺麗な玄関。花とか飾ってあるし。てっきりこんな目つきの悪い短気な子が住んでるもんだから、外観は綺麗でも中は荒れ放題……とか思ってたのに。


「姉ちゃんもマジ女だったんだろ?」
「あ?違ぇよ」
「え?でも姉ちゃん、マジ女のテッペン目指してたって」
「中学の時にな。姉貴は優等生だからよ。そう言うのに憧れてたんだよ」


 えー。思ってた話と違う!姉ちゃんがマジ女のテッペンを前にしてトップに敗れたものと思ってたのに!こんな子の姉ちゃんだから相当の人だと思ってたのに!


「ただ単に姉貴に自慢できると思って」
「騙されたー!!」
「御帰りなさい。萌乃ちゃん」


 急に現れたその人は、多分バンジーのお母さんだろう。バンジーに似た感じの清楚なお母さん。美人。ただ、釣り目ではないから優しそうな印象を受ける。俺もウナギもアキチャも揃って口にした。


「お邪魔します」
「あらあら、お友達?」
「まぁ……」


 お母さんに向かってまぁって何だよ。真っ直ぐ顔も見ないし。何だ?反抗期か?親孝行したい時に親は無しとか言うだろ!ちゃんとしなきゃダメだぞ!って言おうとして、でも言わなかった。バンジーの耳が真っ赤だったから。バンジーが照れてる。バンジーなりの強がりで、素顔を見せた瞬間だった。






「ほら、テキトーに使えよ」


 そう言って、バンジーは救急箱を部屋の床に置いた。バンジーの部屋。玄関や外観に比べたら普通の部屋。家具は最小限って感じで小ざっぱりしてる。ベッドと机と本棚。ちょっと大きめのテレビは床に直置き。一人ぐらしの大学生か何かかよ。本当に小ざっぱりって言葉がよく合ってる。


「何か淋しいな」
「漫画とかねぇし」
「あんまジロジロ見んなよ……」


 ウナギもアキチャも俺も、傷の治療よりも部屋を眺めることを重要視してた。ヤンキーって言っても、こういうところ女子だね。バンジーはやっぱり恥ずかしいんだろう。まぁジロジロ見るって程見るものねぇんだけど。本棚も縦に細長いタイプで、難しそうな本と、映画かドラマのDVDが並んでる。大草原の小さな家。シリーズ1から……いくつまであるんだか。


「……好きなの?」
「見ちゃ悪ぃかよ」


 やっぱり耳を真っ赤にするバンジーだった。へぇ……バンジーってこういうの好きなんだな。ぬいぐるみとか置いてあってもあれだけど、これはこれで可愛いとこあんな。DVDをボックスで揃えてるし。
 ムクチはベッドの傍に腰を下ろして、いつのまにやらそこにいた猫を撫でてる。膝の上に乗せて。多分この家のペットなんだろう。可愛らしい首輪付けてるし。バンジーに似た目付きの銀色の虎柄。何だっけ……。アメリカンショートヘアだっけ?わからんけど、雑種とかではなさそう。


「へぇ、そいつが懐くなんて珍しい」


 そう言いながらムクチの隣に腰を下ろすバンジー。ペットが飼い主に似るのであれば、多分気性の荒い猫なんだろう。いや、でもムクチに懐いてるようだし。しかもウナギも平気で撫でてる。ん?ウナギさんはさっきまで意地っ張りじゃなかったか?


「おー、可愛いニャンコだねー!おりゃおりゃおりゃー!」


 猫を平気で撫でまくるウナギだけど、そんな勢いで撫でたら毛とかふけとか飛ぶだろ……!くそっ!


「ハックション!!ブアックション!!」
「くしゃみすんなら口押えろよ!!」
「わ、悪ぃ!ハックション!ただ、俺、猫アレル……ヘクシッ!」
「猫アレルギー?」


 ウナギの目がキラキラと輝いた。ひーっ!こいつ、俺で遊ぶ気だっ……!という予想の通り、猫を抱き上げて俺に向かって真っ直ぐ突き出した。バンジーもムクチも止める様子もなく冷静な顔して見てる。アキチャは……何でベッドで寝てんだしっ!


「や、やめろ、ウナギ!!」
「ひっひっひ!人の不幸は蜜の味ってなっ!」
「鬼!悪魔!ろくでなしーっ!!」
「何とでも言えー!!」


 ウナギがふはははは、と大きな笑い声を上げて駆け寄ってくる。やめろ!結構真面目にやめろ!これは一旦部屋の外に避難するしかないっ!部屋のドアを思い切り開けて廊下に転がり出る。大きな音で迷惑とかこの際どうでも良い!と、大暴れしてるのに住人であるはずのバンジーは冷静にこっちを見ていた。


「外行くんなら何か食えるもん買ってきてくれよ、来る時スーパーあったろ」
「待て待て待て!リーダーをパシリにする気かっ!!」
「買ってこないと大変なことになるぞっ!ふはははは!」
「戻ってくるまでにどうにかしとくから」


 人の不幸が本当に楽しそうなウナギと、案外優しく対応してくれるバンジー。もうこいつらがチームのメンバーだなんて……どうすりゃいいんだよ!
 どうするもこうするも、ウナギが猫のふけを撒き散らしてる以上は部屋から避難するしかなかった。しょうがない。しょうがないから買いに行ってやるよ、食えるもん。俺だってさっきの喧嘩のせいでお腹が空いたとこなんだ。一人で外に出て絡まれようと知ったことか!こうなったら自棄だよ。自暴自棄だよ。


「あ」
「え」


 バンジーの家から出て、ちょっと歩いたところで出会った。何でそこにいるのかは知らないけど、大島優子と出会った。優子さんが教会から出てくるところだった。制服の裾からお腹が見えるくらいに伸びをしながら。何で教会から優子さん……?優子さんってそっち系の人?しかも一緒に出てきたのは、ゲキカラさん。いつも着ているスカジャンを肩のあたりまで下ろして、その下には黒いタンクトップ。大きく欠伸を吐きながらこっちを見ていた。


「優子さん……」
「おぉ、ヘナチョコじゃん。何?お前、この辺住んでんの?」


 優子さんは、さも俺が知り合いであるかのように話しかけてくる。一応マジ女でもトップクラスの実力持つような人だぞ。俺なんかが何でこの人みたいな人に普通に話しかけられてるんだろ。


「い、いえ……友達ん家が近くで」

「へー、そうなんだ。私らもだぜ?ここ、ブラックん家」


 そう言って優子さんが指さしたのはすぐ後ろの教会だった。え?ここ?ブラックさん家が……ここ?ヤンキーとは無関係に近そうな印象を受けたはずのここが?


「どうせ誰も来ないし。って、おい。ゲキカラ」
「ひっ!!」


 いつの間にやらゲキカラさんが目の前にいた。おいおい……ブラックさんじゃないんだからさ、そういうのは止めて下さいよ。そして、初めて出会った時のことを思い出して身体が固まる。蛇に睨まれた蛙状態。ゲキカラさんはスンスンと鼻を鳴らして俺の身体中を嗅ぎ回ってた。


「血の匂いだぁっ」
「え」


 俺の口元を真っ直ぐに見詰めて、ゲキカラさんがニヤリと笑う。ひぃぃぃぃぃぃ!バンジーん家の猫と比べ物にならないぐらいに怖ぇ!何なんだよ、この恐怖体験!真っ直ぐに細い腕を伸ばしてきて、その指で口元を拭ってくる。まだ乾いていなかった俺の血液がゲキカラさんの左手に付いていた。


「……違う?」


 手に付いた俺の血を嗅いで、ゲキカラさんがそう言った。違う……?違うって何が?俺の血は血じゃないとでも言うのか?


「こらこら、ゲキカラ。後輩ビビらすなっつの。行くぞっ」
「けど……んー」
「じゃあなー、ヘナチョコ」


 これでもかってぐらいの角度まで首を曲げて傾げるゲキカラさん。何だってんですか、ゲキカラさん。物凄い気になるんですけど。
 左手の血を見つめたままのゲキカラさんを連れて、優子さんはそのまま行ってしまった。





side G


 暑い。
さっきまでぐっすり寝てて、起きたら暑かった。
ブラックのお家、好きだけど涼しくない。
優子さんが何か買いに行くって言って


「私も行きます」
「良いよ、サドは休んでろ」
「じゃー私行く」
「おぉ、起きてたのかよ。ゲキカラ」
「うん」


 サドさんは優子さんが大好きだなー。
私も大好きだ。優子さんは強いもん。
喧嘩が強くて、頭もよくて、温かくて、大好き。


「シブヤー、オセロやろー」
「やるわけねぇだろっ!!」
「えー、どしてー」


 最近仲間になったシブヤ。
匂いがよくわかんない。
まだ慣れてないからなのかな。
でも悪くは無いと思う。嫌いじゃないな。
トリゴヤも普通に話してるみたいだし。


「私が相手になるよ」
「わーい、さすがサドー!」
「けっ」
「怒ってる?」
「あ?」


 シブヤが怒ってるみたいに見えた。
怒ってる。怒ってる。怒ってる。怒ってる。
怒ってる人を見ると、喧嘩したくなる。
小さい時からずっとそう。喧嘩。血。


「行くぞー、ゲキカラ」
「あー、うん」


 優子さんと一緒に外に出る。
外にはマジ女の制服きた子が一人でいた。
優子さんはそいつに普通に話しかけてる。
どっかで見たことある。良い鼻だ。
パンチしたら、すぐに折れちゃいそうな鼻。
それに優子さんの匂い。血の匂いもする。


「血の匂いだぁっ」
「え」


 鼻の子は、口に血が付いてた。
まだ乾いてないそれを指で取る。
ん?違う。血の匂い。
沢山する。これだけじゃない。


「何が違うんだ、ゲキカラ」


 1年が見えなくなって、優子さんが言う。
いつもみたいに笑ってない。マジな顔。
何が違うって。この匂いだけじゃない。


「もっと沢山、匂いがする」
「沢山?」
「優子さんが喧嘩したときみたいな」


 沢山と喧嘩した時の、匂い。
どこからかはわかんない。でも匂いがすごい。
血と違う匂いもちょっとする。


「心当たりは?」
「学校で嗅いだ」
「確かか?」
「うん」


 学校で嗅いだことある。
学校のどこかで嗅いだことある。
優子さんの匂いじゃない。
サドじゃない。ブラックじゃない。
トリゴヤじゃないし、シブヤじゃない。
学校のどこで嗅いだ匂いだっけな……。


「近くにいんのか……?」
「わかんない」


 この辺りが沢山匂いする。
よくわかんないけど、この匂い。
あんまり好きじゃない。





side W



 優子さん達との遭遇率、俺ってば結構高いよな……?何だろう。野生の勘が何か言ってる。何か怒る気がしてならない。いやいや、勘弁しろよ。一人でラッパッパに絡まれるとかマジで無理。心細いなんてもんじゃない。どうする?このまま進むか?道を引き返して優子さん達に用心棒でも頼む?
 アホかっ。そんなこと出来るわけねぇだろ。それこそ優子さん達に迷惑かけてんじゃねぇか。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。それに野生の勘が当たるとも限らねぇじゃん。さっきだって大丈夫と思いこんで絡まれた訳だし。バンジーが言ってたスーパーも目の前だ。ゲキカラさんの言ってたことがかなり気になるけど、大丈夫だ。絶対に何も無いって。どうせ私……俺の勘なんて当たりやしないんだからさ。


「ちょっとそこのお嬢ちゃん……!」
「ひっ!!」


 誰かに声をかけられた。へ、変質者か!?いや、女の人の声だった。まぁ女の人だからって変質者じゃないとは言い切れないんだけどさ。その場に立ち止まって周りを見回す。スーパーは目の前。その辺には普通に自転車に乗ったおっさんとか、店先で井戸端会議してるおばさんとかはいるけど……。


「こっちだっつの」
「えっ!?」


 振り向くと、スーパーと隣の床屋のちょうど間。細い路地の間に一人の女がいた。マジ女の制服を着た、見るからに怪しい女。見るからに怪しいって、ゲキカラさんのように血塗れだとか、ハナさんみたいに変な格好してる訳ではない。普通の格好。普通にマジ女の制服。アクセサリーとかもちょいちょい付けてたりして、ヤンキーの一人なんだろう。


「ちょっと助けて……!」


 そんな普通の格好の女の人の何処が怪しいかって言えば、お尻からゴミ箱に嵌っていた。お店とかによくありそうな大きなゴミ箱に。何で路地裏でそんなことになってんだか知らないけど、どうにも怪しい。


「だ、誰……?」
「いいから助けてっての!」
「は、はいっ」


 弱弱しい笑顔がとても素敵な美人。俺の好きなアイドルグループとかにも普通に居そうなぐらいに。ただ少し眉間に皺を寄せるだけで怖い。妙な威圧感を感じる。まぁ良いや。身動き出来なくて困ってるみたいだし、ここは助けても良いんだろう。
 多分マジ女の先輩であろう女の人の伸ばした手を掴んで引っ張る。


「えっ……」


 掴んだ瞬間、さらに怪しさが増した。掴んだ女の人の右手一杯に、赤い液体が付いてた。赤黒くて、多分血だ。ヌルッとして、引っ張りづらい。っていうか俺の手を掴むこの人の力、結構強いんだけど。まるで締めつけられてるみたいな。何なんだよ……この人。絶対にヤバい人だ。


「ふんっ!」


 女の人の気合いの声と共に、スポッと軽々抜けた。抜け出た。ゴミ箱はガラガラと音を立てて地面に転がった。女の人は、八つ当たりのつもりなのか、そのゴミ箱を思い切り蹴り飛ばす。蹴り一発でゴミ箱は簡単に割れ、路地の奥に向かって勢いよく転がっていく。


「いやぁ、助かったよ、お嬢ちゃん」


 何も言えなかった。言えるわけがなかった。もう何を言って良いのかわかんないし。声も出てこない。喋ったら殺されるんじゃないかってぐらいに、身体が緊急信号を発してる。ホイッスルなんて吹けるわけねぇ。吹いた瞬間に、俺の身体があのゴミ箱と同じ状態になってる気がした。


「何か道に迷っちゃってさ。ここ、何処かわかる?」
「あ……い……え……」
「よく道に迷っちゃうんだよ。さっきも矢場苦根の奴らとやり合ってさー。帰ろうかと思ったら転んでハマっちゃって」


 ドジっ娘……?いや、ドジっ娘が手を血塗れにしてるわけない。やり合ったって……もしかしてさっきの矢場苦根じゃないだろうな。いや、結構離れてるし違う。本当に何なんだよ、この人。


「まぁ良いや。学校ってどっち?」
「あ……」


 あっちって、簡単な言葉も出なかった。ただ、何とか学校の方向と思われる方を指さすことで精一杯だ。多分向こうの方。方向感覚には自信ないからあっているかはわからないけど。


「ん、向こうね。あんがとー。お礼にあげるよ」


 あどけない顔をして、血塗れの右手で俺の手に何かを乗せて行った。紙。クシャクシャになった……一万円札。いやいや、こんなのいらねぇっすよ!って、拒否することもできない。無駄に口を滑らせて、殴られるような気がした。


「じゃあねー、お嬢ちゃん」


 あどけない表情で去っていく女。俺が指さした方向とは真逆に歩いていく。腰にぶら下げたアクセサリーの束をチャラチャラと鳴らしながら。実はちゃんとした方向をわかっているのか、それともただ頭が可笑しいのか。優子さんとゲキカラさんを足したようなその人が残していったものは、血塗れの諭吉と、音符型の銀色のアクセサリーの印象だった。







 その後、普通にスーパーで買い物をした俺ってば、なかなかの精神力の持ち主だったと思う。誰だか知らないし、関わりたくないし、とにかく忘れたかった。記憶を自在に操れるんだったら、早く消し去ってしまいたいぐらい。実際はスーパーでの記憶もほとんどないに等しい。ほとんど無意識だったんだ。
 バンジーの家の前に戻ってきて、一万円札が無いことに気付いた。代わりにお釣りと思しき金が、商品と一緒にビニール袋の中に入ってる。あんな血塗れのお金で支払いしたんかよ、俺。店員に怪しまれただろうな。俺があの人を怪しんだように。


「おい」
「え?」


 スーパーからひたすら顔を上げずに地面だけを見つめて来た俺に、誰かが声をかけた。顔を上げると、そこにはバンジーがいた。たった2、30分程だったのに、バンジーの顔が妙に懐かしく思えた。


「おう、バンジー……」
「何かあったのか……?」
「あ、あぁ……まぁ色々」


 一目見りゃ何かあったことぐらいわかるだろう。あの人に掴まれた俺の右手も、血塗れになってんだから。あの人が誰だかもわからない。この血が誰のものかもわからない。


「大丈夫か?怪我しての?」
「いや……大丈夫」
「何があったんだよ」


 話せば長くなる。長くなりそうだ。たった数分の出来事だったけど、色々と整理して話すとなると長く掛かる。俺だってよくわかんなかったんだ。しょうがないじゃんか。


「はぁ……」


 バンジーの顔を見て、一気に力が抜けた。ずっと強張ってた身体中の筋肉が一気に緩むみたいだった。目付きが悪いバンジーでも、あんなのに比べたら遥かに安心感がある。怖かった……。


「すぐそこにしちゃ遅いからよ」
「悪ぃ……」
「とりあえず行こうぜ。ちゃんと掃除もしてあるから」
「あぁ」


 何も言わず、俺の荷物を持ってくれるバンジーだった。結構良い奴だな。猫アレルギーにも気遣ってくれるし。歩きづらいくせに外まで見に来てくれるし。頼りになるんじゃないか。


「なぁ」
「ん?」
「あいつらと仲良くしてくれ」


 ウナギとかアキチャとか、挑発するとすぐカッとなるからさ。バンジーが下手しなきゃ意外とバランス良いと思うんだ。もちろんあいつらが下手しなきゃもだけどさ。ウナギは言えばわかると思うし、今日一日一緒にいればそれで済むだろ。


「仲良くっつかよ、チームなんだろ」
「うん」
「一緒にいなくちゃいけねぇだろ」
「バンジー……」


 本人としてはらしくない台詞だったんだろうか。それはそうだ。この一ヶ月を一匹狼としてやってきたんだから。仲間を作るのが恥ずかしかったのか、バンジーの耳が紅くなってた。素直じゃないなー。意地っ張りで強がり。それぐらいしかまだよくわかんねぇけど、どんどんわかってくるだろ。仲間も友達も、最初はよく知らないもんなんだから。


「つかよ」
「ん?」
「何で醤油何か買って来てんだよ……」


 ガサガサと、ビニール袋からバンジーが取りだしたのは醤油だった。1リットル入り。あー、無意識だったから変な物買っちまった。何だよ、醤油でも一気飲みしようとでも思ったか?


「……お母さんにあげてくれ」


 返しに行くの何か無理だ。しばらくはバンジーの家で、皆で遊んでいよう。どうせ明日からゴールデンウィーク。休日は遊ぶに限る。




テーマ:


 さて、ひとつ屋根の下が終わりましたということであとがきです。


 掲示板で書き始めた頃から半年と終了までとても長くなってしまったのですが、皆様のコメントを見て書いてきて良かったなと心から思いました。コメントなどでいつも応援してくださり本当にありがとうございます。


 書き始めた頃はちょっとしたネタのつもりだったんですけど、何か起きた方が面白いんじゃないかということで作詞と卒業という企画を話に盛り込みました。本当に歌詞を書くのか読者の方から質問もありましたが結局書くことはなかったですね。まあ現実にりえこちゃんが作詞を始めてるということで、そちらに期待しましょう(笑)


 最初に考えていたのはたかみな不在辺りまででした。あとはじゃんけん大会のみゃお。(一応考えていたエピソードとしてたかみながじゃんけん大会を勝ち進む、というのもありましたが総選挙とともにボツにしました。)それより後は何も考えず、とにかくひとつの山場としてそこまで書いてからでいいやと。あともともと倒れれるのはたかみなでなく優子さんで進めていたんですけど、色んなメンバーが出てくるうちに48グループの代表であるたかみなにシフトしました。たかみなも優子さんもそちらの方が弱味が見えて結果として良かったと思います。で、たかみな不在終わってからもう一度読み直して、それでも特に何も思い付かず後半は基本的に出したいメンバー出すためだけに書いてます。テレビやラジオで「あ、このメンバー良いな」って思ったメンバーです。ゆかるんは有吉AKBを見て、亜美菜はANN聞いて、わさみんはソロデビュー、かなちゃまはリクエストアワーでのランクイン、咲子さんやはるきゃんはぐぐたすでの活躍、って感じですね。お陰で推しが随分と増えました。さしこのありがたい言葉わ「推しは変えるものではなく増やすもの」を実感してます(笑)


 後半の優子さんを思い付いたのは前半で出番の無かったゆきりん、ツインタワー、そして推しの梅ちゃんを登場させるために思いつきました。こう聞くと「そんなことで・・・?」と思う方もいるかもしれませんが深い理由はありません。薄ら考えていたのは前半がヤング組の成長が主だったので、後半はアダルト組の成長を描きたかったってことぐらい。まぁ例外としてにゃんさんはあまり成長を描いていません。ゼロでは無いですけどにゃんさんだけは自分の中で例外的な立ち位置です。共同生活の傍観者。やっぱり一番の年上さんですし、にゃんさんは見てるのが一番です。もちろん書きたくなかった訳ではないですよ。AKB48というグループの中で麻里子様とにゃんさんはそういう人達なんだと個人的には思っています。学校の先生みたいな。保母さんのような。何であれ、優子さんエピも丸く収まってくれてよかったです。


 結末は2つの案がありました。残留エンドと卒業エンド。どっちを描くかは最後まで悩みましたけど、やっぱり最高のハッピーエンドで締めるべきストーリーだと思ったので、残留エンドの方を描きました。そこで発表されたあっちゃんの卒業。あー、現実ではそうなってしまうんだ。やっぱりそういう飛びきりのサプライズは最後まで真似できなかったですね。実際あっちゃんもいる方向で描いていたのでこれにはビックリでした・・・。もう一つのエンド、卒業エンドもいつか文字に興せたら良いな。いや、胸に仕舞っておこうかな。最後で描きたかったのはキャプテンの振りをするりえこと乃木坂ちゃんと次の共同生活。次の共同生活のメンバーも7人全員決めてます。エピローグの中に全員います。そしてさすがにそっちは書きません。長くなるので(笑)


 エピローグにおいて、Rayさんから「優子ちゃんが大泣きする場面がなかった」と言われて、思い返せばそうですね。あれで優子さんもたかみなに似て泣き虫ですもんね。孤独を感じさせてばかりじゃなく、大泣きさせてあげればよかった。一生の不覚。でも、描いてないところで大泣きしたのかもしれません。 


 他にも色々と考えたことはあります。あると思います。暇があるなら1話1話にあとがきつけたいくらいです。そして書いていく度に増えていく推しメン。知れば知るほど好きになるAKB48は素晴らしいです。まだ描いていないメンバーが多いので、その内書けたらいいなーなんて。クリスとさしこの中指コンビ、渡り廊下勢ぞろい、野呂さんと太田メン、再び地方組、他色々。共同生活は終わってもひとつ屋根の下の世界は続いていきますからね。そういう風で言えば残留エンド、卒業エンドとかではなく「俺達の冒険はまだまだ続く!エンド」だと思います。番外編も書きたい!


 今日から4月ということで、これから新社会人になる私です。しばらくは勤務が忙しくて小説を書く暇がなかなか無いと思いますが、絶対に途中では止めないとここで宣言しておきます。ホルモンだって終盤まで構想できてるんですからね。そして読者の皆様には改めて感謝します。長い長い物語を最後まで読んでくださって、そして応援してくださってありがとうございました。まさかの出来事でもない限りは消さずに残しておきますので、好きな時に好きなだけ読んで貰えたらと思います。そしてたまにコメントやメッセージを貰えたら幸いです。


 まぁそんなわけで一旦閉幕。またその内、彼女達の暮らしが再開したらお付き合い下さいませ。ありがとうございました。




テーマ:


≪高橋みなみ≫



「凄いなー。2か月ぶりなのにあんなに合わせられるんだから」
「何だよ、陽菜。羨ましいの?」
「ちょっとだけねー」


 10周記念公演が明日に迫る秋葉原・AKB48劇場。今日はメンバーのほとんどが劇場に集まってリハーサルをしてる。記念の公演ってことで、いつもより曲目も多くてそれぞれのユニットやソロ曲もてんこもり。卒業したばっかりだって言うのにDiVAとしてやってきた才加は皆に弄られてるし、久しぶりに劇場の舞台に立つ敦子ははるごんやあーみんと一緒に笑っていた。このまま、とてもいい雰囲気で迎えられそうで良かった。
 にゃんにゃんが感心するのもわかるぐらいに、ステージの上ではNot yetの4人が激しく踊りまわっていた。リハーサルの動きじゃない。そんなに動き回って大丈夫なのかな、なんて思うけれど優子もきたりえも、指原も由依もとても楽しそうだった。2ヶ月も会っていなかったのに、今日初めて合わせるって言うのに、劇場内の視線を圧倒的に引き付けている。誰もが引きこまれている。


「私達もあぁいうのやりたいよね」
「ううん、それは良いや」
「えっ」
「にゃんにゃんが言ったのに!?」


 こういうところ、長い付き合いだけれど未だによくわからないのがにゃんにゃんだ。私もみぃちゃんもこれには唖然としかしなかった。いやいや、良いじゃん。ノースリーブスが踊りまくるの。MVとかイベントとか楽しい雰囲気で盛り上がるけどさ、たまにはあぁいうのやっても良いんじゃないかな。


「だってたかみなとみぃちゃんに負担掛かるじゃん」
「にゃんにゃん……」


 私達の身体のことを一番に思ってくれてるのか!何だよ、泣かすんじゃないよ全く!最近さ、本当に涙腺緩むことが多くなってさ、こういうことでも普通にジワッと来ちゃうんだよ。
 と、感動している私の横でみぃちゃんがやっぱり口を開いたままだった。


「一番振り付け覚えるのが遅いくせに何言ってんだーっ!」
「あー、何でそういうこと言うー?」


 はっ!そうだ。にゃんにゃんは振り付けを覚えるのが特別遅い!私達の身体のことを考えてくれてるんじゃなくて、まさか自分が面倒くさいだけ!?自分から言い出したのに!?


「違うもーん!信じてよー!」
「あ、泣くか!?泣いちゃうか!?」


 私の涙腺が緩くなったように、最近はにゃんにゃんもよく涙を見せるようになった。共同生活の企画が終わるっていうあの時、ステージ裏で泣いたにゃんにゃん。あれを境によく感情を曝け出すようになった。あっちゃんや才加の卒業の時は号泣してたし、握手会でファンの方とトラブルがあった時は思いっきり怒ってたし、そして前よりもよく笑う。何がきっかけだったのかわからない。でも共同生活で思うことがにゃんにゃんなりに沢山あったんだろうね。そういう変化は嬉しい。にゃんにゃんのことを、前以上にもっと知れるようになったから。


「泣かないもん!」
「へっへっへ!研究生の皆に言ってやろー。陽菜がまた泣いたって」
「泣いてないじゃんっ!みぃちゃんの意地悪っ!」


 みぃちゃんはみぃちゃんで、研究生の子達の面倒をよく見るようになって、コンサートやイベントの時に私が何か言わなくちゃなーって思った時には、私よりも先にもう言ってしまってる。私が言おうとしてたことをまるっきり、そのまま。よく周りを見るようになった。よく前に出るようになった。目立ちたがりって言う意味でなく、率先して引っ張ってくれるようになった。甘えん坊だったはずのみぃちゃんがなー。
 いつか教えてくれたみぃちゃんの夢。私になるなんて言ってた。私にか。どうなんだろう。
 今でこそ、チームKのキャプテンを萌乃、副キャプテンを由依が務めているけど……みぃちゃんも候補の一人だった。みぃちゃんなりに頑張った。私に近づくためにって、副キャプテンを目指していた。発表の時、萌乃の名前が呼ばれた時のみぃちゃんを忘れない。真一文字に結んだ口と、真っ直ぐに萌乃の背中を見詰めたみぃちゃんを。私に近づこうとしてたんだね。その気持ちだけで十分だよ。本当に嬉しかったんだから。みぃちゃんは私になれるのかな。なれるかはわからないけど、肩の荷が少し軽くなったかな。みぃちゃんのお陰で。


「共和国での評判がどうなることかっ!」
「みぃちゃん、いい加減にしとけって」
「たかみなーっ!」


 にゃんにゃんが急に私に飛びついて来た。なっ……!どういう状況だよ、これ!ドッキリか!ドッキリって言ってくれよ!感情曝け出すようになったって言っても、こういうことは無かったじゃんか!


「あー、たかみな顔真っ赤!あっちゃん達に言ってやろ」


 言うも何もないよっ!ほらほらほらっ!何でか麻里子様と敦子がこっちを睨んでるしっ!踊りまくってるはずの優子の顔から、一瞬笑顔消えたし。周りで研究生もこっち見てるぞ。って、さっきからの話、普通に研究生にも聞こえてるんじゃん。


「準備バッチリだよ」
「あっ」


 にゃんにゃんが、私を抱きしめながら耳打ちしてきた。あぁ、そうか。そういうことか。そうですよね。何も無しににゃんにゃんが私を抱き締めてくれる……、抱き締めるようなことは無いですもんね。あははは……。


「周りに聞かれるとさ、どこから漏れるかわからないし」
「この騒がしさなら別に大丈夫だと思うんだけど」
「えー、念には念をって思ったのにー」
「ケータイ使うなり、裏行くなりあるじゃん」
「はっ!そうか!たかみなに抱きつく必要なんてなかった……」
「な、何で見るからに凹むんだよぉっ!」


 私から離れて、床に膝を付くにゃんにゃんであった。何だよ、この扱い。いや……慣れてるけどね。2人は結構変わったけれど、私の扱いだけは変わらないな。まぁこれでこそノースリーブス。これぞ、私とみぃちゃんとにゃんにゃんの関係なのだ。楽しい。


「はい、これ」
「ん。ありがとー、にゃんにゃん」


 にゃんにゃんが私に渡してくれたのは、一枚のカード。これを手にするのも久しぶりだな。にゃんにゃんが戸賀崎さんから預かってくれたそれは、今回特別ってことで秋元さんが交渉してくれたみたい。さすがは秋元さんだね。


「っていうか私が持ってて良いの?」
「陽菜じゃ失くすかもしれないしね」
「そんなに失くさないよー!」


 まぁ持ってるのは誰でも良いよ。どうせ夜には皆一緒にいるんだからさ。





≪大島優子≫



 こっちが一生懸命踊ってるって言うのに、たかみなめ。何をいちゃいちゃしてやがる。気が散っちゃうじゃないか。今日の夜は絶対ににゃんにゃんとお風呂に入ってやるんだからな!
 と、私達が動きを止めた瞬間に劇場内にいたメンバーがぱちぱちと手を叩いた。やった。リハでこれだけの歓声。今日もNot yetのステージは盛り上がる予感。実際、この前のK公演も大盛り上がりだった。久しぶりの劇場は本当に楽しかったな。新しいセットリストや、色々変わったメンバーの立ち位置なんかも、楽しむ要素には十分過ぎた。


「やっぱ優子ちゃん凄いっ!」
「何だよ、きたりえも良かったぞ」


 ステージを降りるや否や、きたりえが興奮気味に私に飛びついてくる。きたりえとさっしーは、帰国して以来今日が初めての対面だからな。朝会っていきなり2人に飛びかかられて大変だった。っていうかAKB48のメンバーは久しぶりの挨拶は飛びかかることから始めるのかよ、どいつもこいつも。ハイタッチの歌があるんだから、手軽にそっちで良いじゃん。


「指原はどうでしたか!」
「莉乃ちゃん、興奮し過ぎですっ」
「あ……!わ、私はどうでしたかっ!」
「良いよ、別に前と一緒で」


 むしろ、さっしーはそっちの方が良い。キャラを無理に変える必要なんてないんだからさ。キャラ変えて、ファンが離れて、それで凹むのはさっしーなんだから。
 きたりえもさっしーも久しぶりでも大した変わりは無かった。こいつらの場合変わる方がおかしいんだけどな。成長とか関係なく、特に変わらんだろうな。うるさいし。


「さ、指原は指原で良いんですかっ!?」
「良いってば。私とか違和感あるし」
「指原どうでしたかっ!」


 素直だなー。きたりえもさっしーも由依も、私が何か言ってあげるとすぐに顔に出る。嬉しさが滲み出てるなぁ。何事にも素直で、何の嘘も無いのがこいつらだ。いつだって真っ直ぐに向き合ってくれる。真っ直ぐに感情をぶつけてきてくれた。こいつらの成長を見て行く中で、こいつらを見ていて、私の方が成長したこともある。素直になるってのは良いことだ。
 私がアメリカに渡ることを話した時、3人は私の背中を押してくれた。淋しいけど、優子ちゃんの夢の為だからって。そんな風に3人して笑ってくれた。でも泣いてもくれた。たった2ヶ月。されど2ヶ月。会えないのが淋しいって。そんなこと言われちゃうとさ、私だって淋しくなるわけよ。っていうか普通に淋しかったよ。その気持ちを素直に伝えたらさ


「優子ちゃんがいない間は優子ちゃん張りに頑張ります!」
「チームKの公演は任せといてくださいっ!」
「安心して行ってきてください!」


 3人の素直な気持ちがちゃんと返ってきた。淋しいって言って良かったな。今までの私も、ちゃんとそう言えたらもっと違ったのかな。でもまぁ、そんなことは今更考えたってしょうがない。私達はまだまだなんだからさ。ちょっとぐらいの後悔があった方が、これから伸びて行く糧になる。
 私がいない間も、3人はずっと頑張ってくれてたみたい。今よくわかった。3人と踊ればすぐにわかるさ。よくわかる。絆でつながってるから。


「私の動きによく付いて来れたじゃん」
「えへへへーっ、頑張りましたっ」
「莉乃ちゃんも里英ちゃんも後輩に色々教えながら頑張ってたんですよ」
「そっか。そういやそうだっけ」


 きたりえは13期、14期研究生に率先して振り付けなんかの指導してるらしい。人見知りで先輩後輩それぞれとなかなか話せなかったきたりえ。そんなきたりえが研究生に混じって笑ってる姿を想像すると、胸が熱くなるね。
 そしてさっしーはNMB48からやってきたジョーちゃんとマンツーマン中とか。今もジョーちゃんがずっとステージ最前列で私達のリハを見つめていた。あんな若い子に見つめられちゃうと照れるね!あとで私も絡んであげよっ。


「由依だって副キャプテン頑張ってるんだろ。皆よく頑張ったな」
「優子ちゃんもねっ」
「映画、ちゃんと見ますから!」
「撮影風景見ましたけど、カッコ良かったです」


 何だよ、この副キャプテン3人は。泣かせんじゃねぇぞ、この野郎。泣かないけどな。泣かない。素直になっても、涙は見せない。私は笑っていたい。だって楽しいもん。嬉しいもん。3人の為に、私の為に。笑顔最高っ!


「そんな褒めんなって。明日もこの勢いで行くぞっ!」
「おうっ!」
「Not yet最高っ!」


 次の出番である渡り廊下が私達の横を通り過ぎていく。通り過ぎざま、麻友が由依に何か話しかけた。私ときたりえとさっしーが色々喋ってるところだったからかな。由依に向かって笑いかけてて、そのまま2人は立ち止まった。よし、この隙に!


「お前ら、今日の準備ちゃんとできてる?」
「ばっちりです」
「昨日の夜に先に行って準備しましたから」
「前乗りかよ、私も誘えって」
「佐江ちゃん達と御飯してたでしょ」
「やれって言ったの優子ちゃんじゃんっ」
「……そうでしたっ。とりあえずたかみな達んとこ行くぞっ」





≪横山由依≫



「Not yet、凄かったよ」
「ほんまですかっ!」
「うん。私達も負けないから」


 麻友さんに褒めて貰うとほんまに嬉しいわ。もちろん麻友さんだけと違うけどね。麻友さんって、あんまりそういうのを口には出さん人やから嬉しい。いつからか大人っぽくなった麻友さん。私よりは年下やのに、カッコえぇわ……。最後にまたニコッと笑うと、麻友さんはらぶさん達と一緒にステージに上がった。
 優子さん達と一緒に渡り廊下さんのリハを見よう、と振り向くと……あれ?3人共何処に行ったんや?優子さんも里英ちゃんも莉乃ちゃんも、劇場内に姿が見えんかった。んー?今まで目の前におったのにいつの間に。


「由依ー」
「おー、ぱるるー」


 ぱるること島崎遥香は今やチーム4のエース。同じ9期生として鼻が高いわ。みなるんや島田や、他の皆と一緒に頑張ってきた同期。オーディションからレッスンから共和国から、9期生としてほんまに色々やってきたわ。私は一足先に昇格して、皆とは違うチームやけどな、でもチーム4が好き。
 ぱるるはその不思議な魅力と独特のマイペースが人気を呼んで、いつからか選抜に選ばれることが多くなって……今やAKB48の中心メンバーと言っても過言じゃないやろな。


「それほどでもないよー」
「けど今度ゼロ番立つんやろ?」
「まぁダブルセンターだけどね」


 3月発売のAKB48の新シングルのセンターは、ぱるると莉乃ちゃんのダブルセンターみたい。凄いなー、ダブルセンター。優子さんと前田さんの「風は吹いている」を思い出す。私は、センターに立つって言うのは凄いことやと思ってる。何や、立ってみたいなー。


「由依もその内立てるよー」
「上から目線やな」
「上からパルルー」


 ……可愛い。ぱるるの人気の秘訣はやっぱりこの可愛さや。莉乃ちゃんと違うけど、この可愛さは私としても胸が熱くなるわ。


「明日は頑張ろうね」
「そうやな、頑張ろ」
「良い記念日にしよ」


 ぱるるは笑顔のまま、そう言い残して美織ややぎしゃんの座ってる観客席の隅の方に駆けて行った。チーム4。皆大好きやけど、あそこは私の居場所と違う。簡単に混ざることはできんけど、ほんまに応援しとる。頑張れ、チーム4。
 さーてと、優子さんたち何処に行ったんやろ。ん、別に甘えにいくんと違うからな。勘違いせんといて下さいよ。ただね、やっぱり明日の為にもう少し出来ることがあると思うねん。ぱるるが言ったとおり、明日はAKB48の10周年目の記念日なんやから良い日にしたいもんな。
 それにしても、改めて見てもこの人数がよく劇場内に収まってるよな。今日はAKB48のイベントやからSKE48さん達他のグループは居らんってのに、何人おんのやろ。見渡すと、ステージの目の前におったジョーちゃんはいつの間にかみるきーと一緒に楽しそうに話しとる。そうやよね、2人は一緒にNMB48から来とるんやもんね。こういう時だからこそ、話したいこともあるんやろ。
 2本ある柱の右側の方には、背が高いから目立つなぁ。光宗さんが篠田さんや板野さんに囲まれて何や盛り上がっとる。チーム8に昇格して、ダンスも沢山覚えて、それであの美人さんや。これからも私達を脅かしていくんやろな。期待しておこう!


「由依ちゃーん」
「んー、珠理奈ちゃん」


 珠理奈ちゃんがどこから現れたんかはわからん。ごちゃごちゃしとって、一人ひとりの動きなんて目で追ってられんからね。珠理奈ちゃんは今日もとてもイケメンで、さっきのKのリハでも優子さんに負けないぐらいの動きをしとった。たかみなさんや前田さんも、珠理奈ちゃんの動きはさすがやって褒めとったっけ。


「たかみなさんと優子さんは?」
「んー?優子さんなら今一緒におったはずなんやけどなぁ」
「だよねぇ。凄かったよ、Not yet」
「ほんま!?」
「うん!もちろんSKE48の方が上だけど」


 腕を組んでうんうんと頷く珠理奈ちゃん。ぐぬぬっ、何やこの自信満々な感じ。確かにSKE48さんのダンスはいつ見ても凄い。動き回るし跳び回る。凄いなんて言葉じゃ足りんな。


「一緒に探す」
「うんっ、探すっ」


 もうすぐ高校卒業とは思えんくらいの子供っぽい笑顔。えぇねぇ、この新鮮さ。貫録があるのに新鮮。この新しい風が吹きこんどる今、チームK、そしてAKB48はどんどん変われるやろな。私達が率先して頑張っていかなあかんよね。


「いるんならどこやろ」
「ロビーの方じゃない?」


 で、珠理奈ちゃんが言う通りに劇場ロビーに行くと、14期の皆が振りの確認をしてる傍に優子さん達がいた。優子さん達と、たかみなさん達ノースリーブスさんの3人。私と珠理奈ちゃんの顔を見て、里英ちゃんが目を見開く。明らかに私らを見てビックリしたやろ。何やろ、何話しとったんかな。そんな里英ちゃんを横にたかみなさんが普通に笑顔を浮かべた。


「おぅ、由依!珠理奈!」
「こんなとこにおったー」
「たかみなさーんっ!」


 14期研究生の視線も何処行く風。珠理奈ちゃんは普通にその輪の中に入っていって、たかみなさんに飛びついた。凄いな、少しぐらい何か思わんのかね。まぁそれでこそ珠理奈ちゃんって感じはするけど。


「たかみなさんと優子ちゃん、秋元先生が呼んでましたよ」


 たかみなさんに頬ずりしながら珠理奈ちゃんがそう言った。いや、それで抱きつくんはおかしいやろ!って思わず突っ込みそうになったけど我慢。研究生の子達が見てるからちょっと恥ずかしいし。


「えー?秋元さん来てんの?いつの間に」
「何か話があるみたい。何だろねー」
「んー、まぁいいや行ってくる。はい、にゃんにゃんにパスッ」
「にゃんにゃーんっ!!」
「うわー」


 たかみなさんから離れて、そのまま珠理奈ちゃんはこじはるさんに飛びついた。たかみなさんと優子さんは、立ち上がって私の横を澄まし顔で通り過ぎて行く。たかみなさんは私の肩をポンッと叩いて。優子さんは伸びをしながら欠伸をして。


「何話してたんですか?」
「明日のことだよ」


 莉乃ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら、グッと親指を立てた。





≪大島優子≫



「失礼しまーす」
「何か呼ばれたみたいですけど」


 折角色々と話してたとこなんだけどな。まあ秋元さんに呼ばれたんならしょうがないか。珠理奈伝いの呼びだしで、たかみなと一緒に劇場の事務所に来てみれば
秋元さんと戸賀崎さん。ほほぅ、この2人が揃ってる。嫌な予感がバリバリ!なんだろうね、もう慣れっこなんだよ。こういう状況。共同生活の企画当初もあったし。ユニット祭りが終わった日に呼びだされてさ、企画の発表があったんだ。あの時はTDCホールだったっけ。


「まず、おかえり、優子。どうだった」
「はい。満足の出来かはわかりませんけど、ベストは尽くしました」
「そうか、それなら良いんだ」


 ううんっ、と咳き込みながら秋元さんは相変わらずのスーツ姿で腕を組む。椅子に腰かけ、テーブルに寄りかかりながら。秋元さんは前以上に忙しそう。作詞活動はもちろんだけど、一人ひとりが着実に夢に向かっている中で色々なプロデュースや根回しをしなくちゃいけないんだからね。まぁそれでも秋元さんなりには楽しそう。皆のお仕事のことも喜んでくれるし、優しい人だな。


「たかみな、アルバムへの自信は」
「あります。私なりの表現が出来たと思います」
「うん、なるほどね」


 たかみなのアルバムか。折角だし私も買わなくちゃな。ずっと夢見続けてきたたかみなの一つの形だもんね。これも記念だし、私とたかみなの仲だし。


「で、何ですか?」
「うむ、2人に話があってね」


 そりゃそうだろうね。話があるからこそ呼んだのは重々承知。っていうか秋元さんの呼び出しってそれ以外無いし。今回は何なんだろ。折角たかみな共々卒業を回避してAKB48に残れたんだから、ドキドキさせるのは禁止してもらいたい。


「共同生活、どうだった?」
「え、今更ですか?」
「結構前じゃないですか」


 もうあれから一年半も経った。開始当初から換算すればほぼ3年だからね。どうだったも何も無いでしょ。たかみなのいう通り今更だ。今更感マックスだ。いや、もちろん思い出すことは沢山あるし、正直あんな企画は忘れられないだろ。一緒に御飯作ったり、騒いだり、時には喧嘩したり、他のメンバーが来たり。


「不思議だったかなと」
「不思議とは……?」
「うーん、家族じゃないし、友達じゃないし、一緒に住んでるのが不思議でした。喧嘩なんてするとも思わなかったし、ただ一緒に住むだけかと思ったのに、あんなに色々なことがあって。不思議で、幸せでした」


 一人じゃないことがただただ幸せだ。共同生活が終わってからずっとそう思う。きたりえとさっしーと由依がいて、たかみな達がいて、才加や佐江達がいて。共同生活のお陰で、今がとっても幸せだ。


「私も優子と同じです。皆が皆成長して、色々な影響がありました。敦子と才加のいないAKB48ですけど、皆の成長のお陰で今があります」
「それがたかみなの幸せ」
「はい」


 胸を張っていうたかみな。私も同じことが言えるな。共同生活のなかで沢山の成長があった。沢山の成長があって、今がある。きたりえやみぃちゃんは自信を持てるようになったし、にゃんにゃんは感情を出すようになった。それにたかみなだって、一人で背負いこむ癖をやめた。大きな成長だ。皆で荷物を訳あって、皆で背負えてるから今のAKB48がある。


「共同生活は成功だった訳だ」
「まぁそうじゃないんですかね」
「それが何か……」
「戸賀崎君」
「はい」


 私とたかみなが秋元さんの意味を読み取れないままに首を傾げていると、戸賀崎さんが机の引き出しからファイルを取りだした。何のファイルだろ。はてなマークが頭の上に浮かんでいるうちに、中から写真が出てきた。


「これって……」
「メンバーを変えて、また共同生活をやろうと思う」
「えっ……!?」
「本気ですかっ?」


 ファイルから出てきた写真は、6人の顔写真だった。多分、っていうか確実に次の共同生活を行うメンバーなんだろう。次世代の中心メンバーになるであろう6人。さすがに若い子ばっかり。若くても芸歴の長いベテランもいれば、入ってまだ何年の若手まで様々って感じ。それぞれがバラバラで、ユニットもチームも関係ない。凄いメンバーだな。


「企画の内容は変わらないのだが、人数としては7人にしたい。そこで……2人のどちらか、参加しないかい?」
「私達が?」
「いやー……」


 6人と暮らすのは楽しそうだ。色々と話して、たまに悩むこの子達の話を聞いてあげる。共同生活を行って、また成長を促せるのならいい話だと思う。もちろん私達が更なる成長が出来るとは思わないけど、それでも若い子達の成長を近くで見れるのは喜ばしいことだ。
 たかみなと目を合わせる。考えてることは一緒だな。何となく、目を見ればわかる。2人して笑ってしまって、一緒に応える。


「お断りします」


 共同生活は楽しかった。幸せだった。でも発表前のようなあの恐怖のドキドキ感はもういいや。あんな怖い思いはもうしたくない。もちろん、私達メンバーは皆が一人の為に、一人が皆の為に頑張れる。それぐらいに絆がある。協力はしたいけれど、参加しなくてもそれはできるから。

「そう応えると思ったよ」

 秋元さんは、ふははと笑った。想像以上に、想像通りだったんだろう。こんなに笑うんだ。そういうことだ。私達も笑ってしまいそうだ。


「今日は沢山楽しんできなさい」
「はーいっ」
「明日に影響しない程度にね」


 もちろんだ。明日は特別な記念日なんだから。全力で楽しむし、全力で踊るし、全力で歌う。まさか自分達で台無しにするようなことはしない。何と言っても、今が桁違いに幸せだ。





≪高橋みなみ≫



「こうして歩いてると、何か懐かしいですね」
「ほんとだよなー。なかなか来ないし」


 共同生活の末っ子だった由依が、とても楽しそうな顔をしながら隣を歩いている。明日の記念公演のリハーサルは結構早めに終わった。19時ぐらいかな。19時ぐらいでも、私達からすれば結構早いんだよ。長くかかる時はテッペンだって普通に超えて朝までとかあるんだからさ。それにAKB48は若い子達が多いからね。18歳未満の子達が多いから、早く終わらざるを得ないんだ。お家に心配かけちゃいけないもん。
 由依と歩いてるのは、共同生活で暮らしていた場所。最寄駅からマンションへ向かう一本道。さすがにもう冬。日が落ちるのも早くて、夜風が冷たいな。


「でもこっちに御飯屋さんなんてありましたっけ」
「良いから良いから」


 リハが終わって、それぞれのメンバーが帰路に付いたり自主練を続ける中で私と由依は御飯に行くってことでこっちの方まで来た。今頃、チーム4やチーム8のメンバーは劇場で自主練中か。私達がいたらむしろ邪魔でしかないもんね。皆には頑張って欲しい。敦子とともちんは自主練を見ていたいからって劇場に残ってるみたい。懐かしい気分に浸りたいとか何とか。


「優子さん達も早く帰っちゃうし、折角久しぶりに4人揃ったってのに」
「まぁそう言うなって。それとも私と2人じゃ嫌か?」
「あ、いや、そう言う訳じゃ……!」


 歩きながら焦る由依。あはは、優子達が可愛がる理由もよくわかるよな。いつでも真面目。よく笑うしよく泣く。深夜のテンションとか半端ないもんな。一つ年下だけど、8期も後輩。AKB48としての経験は私よりもずっと短い。でもこれからは由依達に引っ張って貰わないとな。もちろん、夢に向かいたい時は背中を押すし。


「たかみなさんは……自分の夢に向かわんのですか?」
「AKB48にいることも私の夢なのさ」


 いつかは卒業する時が来る。敦子達がそういう道を選んだように。でも私はAKB48を卒業することは考えてない。後輩達が伸び悩むって?そんなことはないよ。皆どんどん成長してる。何度でも言おう。皆が成長してるから、私の重石はどんどん軽くなってくる。


「たかみなさんは必要な人ですよ」
「そうかー?最近仕事のほとんどを萌乃や指原に取られてるからさー」
「そうですか?」
「由依もその一人なんだからな」
「そうだしたっけ……」


 みぃちゃんも事あるたびに「たかみなは休んでろ!」とか得意気に笑ってるし、指原も「任せといてください!」って駆けまわってる。由依やきたりえ、萌乃や珠理奈が後輩に色々してくれてたり、本当に暇なことが多いんだよ。
 にゃんにゃんや優子、麻里子様と最近そういう話になるんだ。何か若い子達を見てるお婆ちゃんの気分だって。井戸端会議でもしてるみたいだって。それが楽しくもあるんだけど、どこか切なくもあったりする。もしも私の重石が無くなった時は、その時には卒業を考えるんだろうな。


「もし私達がいなくなってもさ、AKB48が続いていくんなら嬉しいな」
「たかみなさん……」
「時代は変わるもんだ。私達が歳を取ってくように。AKB48が10周年を迎えるようにさ。さ、それより着ーいた」
「えっ?」


 見上げるのは、首が痛くなるくらいに高いタワーマンション。移動の時とかたまに見たけど、こうして前までやってくるのは本当に久しぶり。由依がキョトンとした顔でマンションの上の方を見上げてた。


「さ、行くぞー」
「えっ?えっ?」


 にゃんにゃんから渡されたカードキーを手に、エントランスに向かう。昨日の夜ににゃんにゃんときたりえと指原が来てたらしい。私自身が来るのは、引っ越してから初めて。一応由依の前だから平静保ってるけどさ、これで結構ドキドキしてるんだ。こんなに綺麗なマンションだから内装なんてそんな変わりは無いだろうけど、楽しみだったことに変わりない。


「さて、何処に向かうでしょーか」
「16階……3号室」
「当たり」


 勘が良くて助かるね。まぁここまで来て他の部屋に入るなんてことはあるわけない。他にも住人はちゃんといるんだからさ。なかなか会うこと無かったけど。
 エレベーターに乗って16階へ。由依の隙を見て、ケータイでにゃんにゃんにメールを送る。先に保存しておいた未送信の"もう着くよ"って一言だけのメール。さすがに最新式のエレベーターは違うね。16階だって言うのに一瞬なんだから。メールを送ってるうちに16階に到着。


「さ、着いた」


 エレベーターを降りて、16階3号室へ。私達がかつて住んでいた部屋。住んでいた家。7人が住むにもとても広くて、シアタールームとか備え付けの家具とか豪華にも程がある。


「ただいまーっ」
「おかえりーっ!」


 カードキーで玄関扉を開けると、待ちうけていたかのようにみぃちゃんときたりえとさっしー。3人ともこれでもかってぐらいに笑ってて、めちゃくちゃ楽しそうじゃん。もちろん私も楽しくなってきた。由依だけは、一人でよくわかってないみたい。


「ほら、由依も」
「た、ただいま……。えっ?」


 まぁそりゃ眉根も寄せるだろうよ。謎だもんな。何も知らされてなかったのは由依だけなんだから。私達はAKB48だからさ。AKB48って言えばやっぱりサプライズ。結構前から計画していた今回の作戦。いつか私がサプライズを仕掛けられたようにね、10周年の前祝いも兼ねて。


「どういうことですか?」


 コートを脱ぎながらリビングに向かう。さすがに家具なんかは備え付けの物以外あるわけなくて、随分と小ざっぱりしてる。でも何にも変わっちゃいない。戸賀崎さんの話じゃ、あれから入居者はいなかったらしい。まぁこれだけ豪華なところだから家賃も馬鹿にならないし相当なリッチマンでもないと無理だよね。


「おぉ、やっと来たな」


 優子がリビングのソファに寝転がって私達を出迎えた。と、そこに2匹のトイプードルが駆けて来た。


「えっ?うさみみちゃん?」
「どうせだから連れてきちゃった」


 にゃんにゃんがキッチンの方から現れる。エプロンにポニーテール。本当ににゃんにゃんはうさみみちゃん達が大好きだな。でも2匹も共同生活の一員だったもんね。


「ならにゃーちゃんを」
「ふざけんなっ!」


 猫アレルギーの3人に一斉に怒られた。ショボン。と、めちゃくちゃ良い匂いが香ってるのに気付いた。。朝から動きっぱなしでお腹空いたな。それよりもまずは由依だな。飾り付けされたリビングには、大きな横断幕。


「一日早いけど」
「由依、誕生日おめでとーっ!!」


 6人で一斉にクラッカーをパンッと鳴らす。カラフルな紙テープと紙吹雪が由依の周りに舞った。そう。明日は12月8日。AKB48の誕生日で、由依の誕生日。明日はメンバー皆での打ち上げだからさ、祝うなら今日の内の方が良いんだ。どうせ今から皆でいればテッペン超えるんだし。


「皆……」
「はい!由依、これ!」


 さっしーが手にしてる金色のボールの紐を引っ張るようにきたりえが催促する。由依が勢いよく引っ張ると、リビングに飾られた横断幕と同じく「誕生日おめでとう♪」と書かれた紙が勢いよく降りて来た。


「おぉー!」
「くす玉なんてよく作ったな」
「いえいえ、皆で暮らしてる頃に作ったんですけど使わなかったんで」
「へー。いつ作ったの?」
「たかみなさんの誕生日の時です」
「おいっ!」
「まぁ良いよ。とにかく御飯にしようぜ。お腹空いた」
「本当に疲れたねー」
「あ、あの」


 それぞれがやっぱり勝手で、由依の一言を聞く前にダイニングテーブルに着席していく。由依が涙目で私達を見ていて、唇がワナワナ震えていた。そして深く頭を下げる。

「ありがとうございますっ」
「良いってことよ!」
「何で優子ちゃんが言うんですか、今回何もしてないでしょっ!」
「この前までアメリカいたんだから無茶言うなよ!」
「言いだしっぺの峯岸ですっ!」
「飾り付け担当北原でーす!」
「料理はやっぱり小嶋でーす」
「指原もちょっと手伝いましたー」
「そして私は」
「いつもテカってます!」
「ふはははは」


 私でオチを付けるなよ、とは思いながらも涙目で笑う由依を見てたらどうでもよくなった。楽しくて、和やか。まるで共同生活に戻ってきたみたいだ。そのままにゃんにゃんの「いただきまーす」の掛け声で一斉に御飯を食べ始める。今回は、明日の為にもお酒は抜き。また由依が面倒くさくなっても困るし。
 テーブルの上には沢山の豪華な料理。これだけ沢山のものをよく作ってくれたもんだよ、にゃんにゃん。それに冷蔵庫にはケーキが入ってるみたい。それは火をまたいでからのお楽しみ。夜中に食べ過ぎるなって?明日の為のエネルギーだよ!


「りっちゃん、ソースちょうだい」
「ちょっと待ってー。りえこも使う」
「こじはるさん、お茶注ぎますよ」
「良いよー、由依ちゃん。今日は主役なんだから私がやってあげるー」
「え、でも」
「良いから甘えとけって、由依。それよりにゃんにゃん、お風呂一緒に入ろうねっ!」
「麻里子達があとで来るってさ」
「えっ、本当に?」
「あっちゃん達と一緒に」
「さっき指原もメール貰いましたよ。珠理奈とかぱるる達も来たいそうです」
「皆来るんかよっ」
「まぁいいじゃん。どうせ騒がしいんだからさ」
「それにしても、よくこの部屋借りれましたね」
「あー、何かまた共同生活やるらしいよ」
「えっ!?」
「まじでっ!?」
「今度は私たちじゃないよ。別のメンバー」
「えー、誰がやるんやろ」
「私とたかみなはもう知ってるもんね」
「誰がやるんですか!?」
「内緒内緒」
「でたー、機密事項」
「まぁ色々あって楽しかったですもんね、共同生活」
「莉乃ちゃんと喧嘩したなー」
「そんなこともあったねー」
「優子さんと私は仲良しですもんね!」
「喧嘩はコリゴリだわ」
「Not yetって仲悪ぃなー」
「あー、みぃちゃん達こそ3人そろって倒れたくせにっ!」
「そうだそうだー」
「健康でいたいよー」
「他のメンバーも沢山遊びに来て楽しかった」
「ゆきりんが帰れなくなった時は笑ったわ」
「台風でしたっけ」
「あっちゃんが乗り込んで来た時が一番驚いた」
「あの時引きこんだのはさっしーだろ?」
「……だって巧妙に騙してくるんですもん」
「単純か!」
「まぁ良いじゃん」
「また皆で暮らしたいね」
「今度は首掛けるとか無しでね」
「ノースリーブスとNot yetのひとつ屋根の下」
「いや、きたりえ!ドラマじゃないんだから」
「良いじゃん、ひとつ屋根の下ー」
「あの一年を大河ドラマ風に!」
「文芸部で小説にでもしちゃえば」
「印税生活も夢じゃねーな」
「いやいや、私達のグダグダの一年なんて面白くないでしょ」
「私達はそれなりに面白かったけどね」
「たかみなのすべる話より格段にね」
「ふはははは」


 由依の笑い声と共に、部屋の中が皆の笑いに包まれる。長いようで、あっという間の一年だった。私達の10年のように。色んな事があって、終わってしまえば全部が良い思い出。メンバー皆と、いつまでもこんな風に笑えている一生を送りたい。それが出来るなら……また一緒に暮らすのも悪くないかな。お互いの為に絆を深める。そんな私達の、ひとつ屋根の下。



テーマ:

71-10≪高橋みなみ≫



 敦子と才加の卒業は、やっぱり淋しかった。AKB48発足からずっと苦楽を共にしてきた、大親友の敦子。そして同じキャプテンと言う立場で時には争い、時には支え合いながらやってきた才加。2人は私の人生において大きな影響を与えてくれた。淋しい気持ちはもちろんある。淋しくて淋しくてたまらない。けど2人のことが大好きだからこそ、押してあげなくちゃいけない。夢に踏み出す2人の背中を。笑顔でね。


「負担掛けちゃうね……」
「ううん、萌乃のことだからきっと上手くやってくれるよ。それより大丈夫かよ、そんな顔して」
「だって……」


 私よりもずっと背が高くて、筋肉質で、いつかのじゃんけん大会でもグラディエーターの衣装なんて来ていた才加。そんな才加がボロボロに涙を流していた。才加もAKB48のことは大好きなんだ。その気持ちは知ってる。でも夢に向かうためにも、一つの区切りをつけなくちゃいけない。そう決めたのは才加なんだ。


「敦子も居なくなって、負担かけてばっかりなのに……」
「馬鹿言うな。居なくなってないよ。才加だって、ちょっと先に進むだけだよ」


 笑えよ。今日は才加の晴れの舞台なんだからさ。佐江も梅ちゃんも香菜も、今日と言う日に涙を流し続けていた。やっぱり淋しいのは皆同じなんだ。でもこれで一生の分かれにはならない。敦子が最後の最後まで笑っていたように、私は皆に笑顔でいて欲しいんだ。たまには怒ってしまう時もあるかもしれない。けどそれも全部、皆の為って思ってる。今日と言う日も、才加の為にあるんだから。


「才加が辛いなって思う時には、いつでも皆いるから。劇場にさ」
「たかみなぁーっ……!!」


 これから才加は一人のタレントさんになる。時には女優、時にはバラエティー番組、時にはラジオMC。色んなお仕事をしていくのだそうだ。それに派生ユニットのDiVAは継続していく。才加が卒業しても、解散はしないらしい。それならまた、コンサートで会えるじゃん。皆で踊れるんだ。
 一番初めの仕事は、3ヶ月後の舞台らしい。舞台女優か。カッコいいじゃん。


「良い席期待してるよ」
「任せて」


 頬を涙で濡らしながら、才加は笑った。







 才加の卒業から二ヶ月。なかなかAKB48の安定は続かない。才加の卒業と同時に、優子が二ヶ月間の映画撮影の為に渡米した。チームKのエース不在はさらにAKB48の屋台骨を揺らがすとも思われたけど、でも今のAKB48はそう簡単に揺らがせない。揺らがせてなるもんか。
 チームKの新キャプテンに就任した萌乃や、次期エースと謳われている由依がいるんだ。それにともちんとみぃちゃんだっていて、佐江や梅ちゃんがしっかりと支えてくれてるんだからね。


「たかみなさん、ニュース見ましたか?」
「えっ、ニュースって?」


 今日の仕事はAKB48が起用されたCMの記者会見。一緒のメンバーはチーム4のキャプテンであるみなるんと副キャプテンのはるぅ、そして2年前のぐぐたす選抜で一気に知名度を上げたはるきゃん。さっきまではれいにゃんもいたんだけどね。この後のK公演のためにって一足早く切り上げていった。


「はるきゃん、見るからに元気なくすなよっ」
「嫁が帰ってしまった……」


 ぐぐたす選抜以来、主にネット配信の番組やアニメの声優として前よりも断然仕事の増えたはるきゃん。亜美菜やなかやんとともにそっちの業界で活躍し始めてるのを見ると、皆がそれぞれの夢に近づけてるのがAKB48のリーダーとして嬉しくて仕方がないな。嬉しくて、鼻が高い。れいにゃんも自慢のスタイルを活かして麻里子様ブランドのファッションショーなどにおいてモデルをこなしている。無邪気な笑顔でそのことを話してくれれるれいにゃんは、はるきゃん共々楽しそう。
 で、はるきゃんと話しているところにみなるんがやってきた。控え室で次の仕事の準備をしているところだった。この後はこのメンバーに指原と城を加えた6人で明日の被災地コンサートのために出発する。今も続く被災地の復興。そしてAKB48のプロジェクト。私達は復興が続く限り、笑顔を届け続けると胸に決めている。募金だって、未だに沢山集まってるんだ。私達が笑顔と元気を届けなくちゃね。


「まだ見てなかったんですね。これです」


 みなるんが渡してくれたのはスマートフォン。画面いっぱいに文字が並んでいる。あー、まぁ私ってば携帯電話をあんまり使わないからな。SNSとか未だに慣れないこと多いし。仕事が終わった休憩でも、見るのは事務所やスタッフさん、メンバーからのメールぐらいだ。


「へー、やっと帰って来たか」


 みなるんの携帯電話のディスプレイには、大島優子帰国のニュース。速報と書かれているだけあって、私達が記者会見してるころに帰って来たらしい。ふーん、そっかそっか。


「いやいや、たかみなさんっ!リアクション薄っ!」
「はるぅうるせぇよ……」


 はるぅは何も変わらない。副キャプテンになって、みなるんのサポートをしながら優子や才加の熱いところを引き継いで研究生達に熱心に指導してる。最近は鈴蘭がゴルフで活躍しているように、はるぅもテニスで活躍するようになって、何か痩せた。


「痩せたとは失礼な!」
「えぇやろー。可愛くなったよー。ねぇ、みなるん」
「うんうん。なったなった」
「美奈までぇ……」


 顔を真っ赤にするはるぅ。熱血的な奴だけど、才加みたいに中身は乙女。少女漫画が大好きで、こうして褒められると女の子っぽく照れる。いやー、才加といいはるぅといい、こういうところで案外バランス取れてるんだな。


「まぁたかみなさんも中身は乙女ですけどね」


 ボソッと呟くキャプテンみなるん。みなるんも変わらないな……。最近ちょっとだけ背が伸びたからか、グラビアを主体に精力的に活動中。解放中の毒舌が受けて、テレビの仕事も増えている最近のみなるん。つい先日、待望だったキャプテン会を開いてゆきりんやみなるん、SKE48のちゅりやNMB48のさや姉達、そして新キャプテンの萌乃と一緒に色々話した。もう楽しくてしかたなかったね。気持ちの共有とか、互いに切磋琢磨出来るあの感じ。やっぱり良いよね、48グループ。


「私……乙女か?」
「部屋が真っピンクでしたもん」
「そ、そう言えば泊めたんだったね……」


 敦子とは、既にルームシェアを解消してる。一人暮らしをまた初めて、自分なりに、好きなようににゃーちゃんと暮らしてる。そのマンションの部屋に、この前みなるんも泊りに来た。キャプテン会の後にね。少しお酒が入ったからか、気分が悪くなってしまったらしい。その時に見てるんだよね……。私の部屋。ピンクが好きな、私の部屋を。
 敦子と離れたのは同じマンションに部屋が開いた訳じゃなく、離れなくちゃいけないと思ったからだ。敦子がAKB48を卒業する。それは新しい人生への門出だ。それなのに、いつまでも私が敦子の傍にいてはいけない。私が敦子に甘えてしまうから。敦子が私に甘えてしまうかもしれないから。敦子だって、子供じゃないんだ。何かあったらきっと相談に来てくれる。私が悩む時でも受け入れてくれるだろう。大好きな敦子の為にも……一旦お別れだ。


「でも、誘ってくれてありがとうございました。キャプテン会」
「そんなに楽しかったんだ」
「ゆきりんさんと萌乃さんと沢山話せました!」


 あー、そういやみなるんって二人のこと大好きだもんな。いくら大人っぽくなっても、ゆきりんや萌乃の前では少女みたいなみなるんだった。


「美奈も女の子だねー」
「憧れは別だろっ」
「それもそうだ。優子さんがついに帰ってきたー!」


 天井に両手を上げて喜ぶはるぅ。優子が居ない間、結構淋しそうだったもんな。アメリカで公演があるわけでもないのに、アメリカに行こうかと本気で悩んでたぐらいだもん。もちろんメールや電話でのやりとりはあったから、色々と相談には乗ってもらえていたみたい。


「私はたかみなさんがいれば満足ですよ」
「はるきゃん……!」


 そう言いながら、隣に座っていたはるきゃんが私の腕をぎゅっと抱き締めた。そしてその胸にある大きなものが私の二の腕に触れる。おぅ、そう言えばここにいるのって私以外胸厚な奴らなのか……。私の胸は、何年たっても変わらない。あー……、こんなに指原と合流したくなったこと他に無いな。


「旦那は嫁だけを見てなさい。それより3人とも準備出来た?」
「はーい」
「大丈夫です」
「いつでも行けますっ!!」


 自分の夢の為に旅立っていくメンバーがいる。そして私達を求めてくれる人達がいる。私達に出来ることはそんな人達を、卒業するメンバーを応援することだ。夢と笑顔と、そして元気の為に。それが出来る今の仕事が、私にとっては大きな財産だ。AKB48で良かった。AKB48に残れて……本当に良かった。





71-11≪大島優子≫



 久しぶりの劇場に足を踏み入れた。佐江に手を引かれたまま。専用エレベーターで劇場に入る。佐江もついさっき到着したらしい。仕事終わり。そっかそっか、佐江も仕事が忙しいんだもんね。イケメンアイドルとして人気が再燃してるらしいじゃん。さすが佐江。その元気スマイルは、アメリカにもしっかり届いてたよ。


「戸賀崎さん……!」
「おぅ、帰ってきたな」


 劇場の入口で、私の帰りを待ち構えるかのように戸賀崎劇場支配人が立っていた。全く変わらない巨体。もう冬だって言うのに、シャツだけだし。元気そうに笑ってる。


「お久しぶりですっ!」
「本当に。元気だったか?」
「もちろんですよーっ。戸賀崎さんは……ちょっと太りました?」
「馬鹿野郎、むしろ痩せたっつの!」


 あははは、と笑い声が響く。懐かしい気分だ。たった2ヶ月離れていただけなのに。こんなに懐かしいんだなぁ。空港であっちゃんに会った時も他愛もない会話しかしなかったのに、本当に懐かしい気分でいっぱいだった。
 あっちゃんは本当に私を出迎えに来てくれたらしい。わざわざ事務所の社長に頼んで私の帰国時間を全て聞いたのだそうだ。空港にファンが集まらないようにって、帰国の日程や時間なんかは極秘だったんだけどな。まぁそういうところ、あっちゃんの行動力は尊敬しちゃうよ。


「戸賀崎さん、かなりダイエット頑張ってるみたい」
「へぇ~、そうなんだ」
「そんなジロジロ見るんじゃないっ!」


 気恥ずかしそうに視線を反らす戸賀崎さんだった。こんな一見格闘家みたいな人が、私達をずっと支え続けてくれている。私達と、この劇場を。私が居ない間も、メンバーの皆と共にこの劇場を守ってくれていたんだと思うと本当に嬉しいな。


「当たり前だ。俺は劇場支配人なんだからな」
「ですよね」
「優子ちゃんっ!?」
「優子さんっ!」


 2人分の大きな声がその場に響いた。今更特にビックリすることもない。凱旋帰国なんだから、むしろそうやって大きな声で迎えてくれる方が嬉しいな。で、振りかえろうとして視界が真っ暗になった。思い切り抱き締められる。うぐっ、何も見えない……!


「優子ちゃんっ、お帰りなさい!!」
「た、ただいまっ。苦し……!」
「珠理奈!優子さん苦しそうだからっ!」
「あ、ごめんなさいっ」


 と、離れたのはやっぱり珠理奈だった。この春でついに高校卒業ってところまで来たのに、その純粋で真っ直ぐな性格は何も変わってない。何も変わらず、無邪気で元気。いつでも元気一杯なダイヤモンド。


「お前、また背伸びた……」
「えー、最近計ってないからわかりません」
「ふーん……。で、何で玲奈もいるの?」


 珠理奈と並ぶSKE48切ってのエース。人見知りで臆病だった性格は少し崩れて、誰よりも自信を持ってSKE48のセンターに立ちながら日々を過ごす玲奈だ。珠理奈はもちろん限定加入でチームKに来てるからここにいるのはわかるんだけど、何で玲奈がいるのかな?


「珠理奈の頼みで今日の招待客なんだ」
「へー。じゃー今日はオフなんだ」
「はい。珠理奈が迷惑かけてないかこの目で見に来ました」
「迷惑なんか掛けてないっての……」


 まるで学校に親が挨拶にきた中学生みたいに頬っぺたを膨らませる珠理奈。やっぱりこういうところは変わらんな。まぁ珠理奈の場合、もともとがほとんど完成しきってたからな、今更変わるようなところが少ないんだろう。
 AKB48のことはもちろん、SKE48や他のグループのこともアメリカに届いている。私が渡米中に発売したSKE48の新曲がウィークリーチャートでミリオンを超えたとか。私らの勢いも少しだけ弱まっている今、うかうかしてる場合じゃないな。日本に戻ってきた以上、さらに気合いを入れて行かなくちゃ。


「優子ーっ!!」


 再び大きな声が響く。珠理奈以外にこんなを声上げる奴居るのかよ。まぁいるよな。Kでも何人も思いつくわ。


「良く帰ってきたーっ!!」
「何か騒がしいと思ったら、おかえりー」


 次にやってきたのは初期メン組の二人。みぃちゃんとともちん。2人も変わりなさそう。まぁ2ヶ月でこの2人が変わることもないか。基本的に仕事多いし安定もしてるもんな。ともちんは呑気に笑ってるし、みぃちゃんは珠理奈がまだひっついてる私に飛び込んでくるし。くそっ、こいつら言っても私よりタッパがあるんだから重いっつーの。久しぶりで嬉しくなるのもわかるけど、少しは手加減してくれ……!


「優子ーっ!優子優子優子優子ーっ!!」
「うるせーよーっ!」
「あはははは」


 珠理奈とみぃちゃんに潰されかけている私を見て、爆笑するともちんだった。あぁー、本当に日本に帰ってきたなー。





71-12≪生駒里奈≫



「大島さんが帰ってきたってさ」
「ふーん……」
「ふーんって……心配じゃないの?」


 心配な気持ちはもちろんある。AKB48伝説のエースと呼ばれる前田敦子さんが抜けて、もう一人のエースがついに戻ってきたんだから。それに不動のキャプテン・たかみなさんや柏木さん、次世代エースの渡辺さんや珠理奈さんだっているんだ。やはりAKB48は強大だな。
 AKB48の公式ライバルと呼ばれて早3年半が経った。ぐるぐるカーテンでデビューしてから、いや、オーディションで選抜されてからもうそんなにだ。AKB48さんがそうであるように、私達乃木坂46にも歴史が積み重なっていく。
 恵比寿にある乃木坂46専用の練習スタジオ。今日は来週に迫った新シングル発売イベントのためのレッスンが朝から続いている。朝からずっと踊り続けてきてさっきやっと休憩を貰えたところ。


「心配でもさ、やることは一つだけじゃん」
「ふーん」
「ほら、飛鳥もふーんって言った」
「あ」


 あの頃、乃木坂46で最年少だった飛鳥ももう高校生。背もグンと伸びたし、2期生が加入した今となっては最年少のお株も奪われている。けれど根っからのおしゃべりと頭の回転の早さは健在。トーク番組なんかでもいち早く切り込んでいく姿は、ちょっと尊敬しちゃうね。私はそういうの苦手だからさ。


「ななみん、そこで寝られると邪魔なんだけど」
「んー……。飛鳥ー、引っ張ってー」
「えーっ、怒られちゃうよー」
「ちょっとずらすだけで良いからー」


 私と一緒に乃木坂の七福神として選ばれ続けてきたななみん。とってもマイペース。っていうか自分に正直。麻衣ちゃんと一緒に乃木坂のファッションリーダー的な存在は、羨ましいな。私はそういうセンスはからっきしだからさ。
 飛鳥に両腕を引っ張られながら、ちょっとだけずれるななみん。周りに視線をやれば、他のメンバーも思い思いに休んでいる。朝からだからお腹も空くしね。今の内にたっぷり水分補給するのも必要だ。まぁ皆マイペースだし、それぞれテキトーにやるよね。


「生駒ちゃんにだけはマイペースって言われたくない」
「うんうん」


 私ってそんなにマイペースなのかな。そこまで自覚は無いんだけどな。まぁあまり人にどうこう言われるのは好きじゃないし、やるならやるでちゃんとやるから問題ないと思うんだけど。


「たまにMC聞いてない」
「リハの途中で居眠りする」
「トイレは先に行った方が良いと思う」
「それに皆が休んでる時に練習する」


 目の前の鏡には、踊り続ける自分。音楽は聞かなくても耳から離れないぐらいに聞いてる。ちゃんと覚えてるから大丈夫。あとは振り付けだけ。腕の細かな動きと、ステップ、立ち位置。全部を覚えなくちゃ。運動音痴の私だから。いつも脚を引っ張っちゃう私だから。皆の努力を背負う私だから。


「センターだからって、そんなに無理しなくても」
「センターだからこそだよ」


 七福神として、センターに立ち続けるからこそ……私は頑張らなくちゃいけない。いや、頑張りたいんだ。私自身が心の底から頑張りたいって思っている。私の憧れる先輩たちは、テレビの中でいつだって堂々としていた。量り知れないぐらいの重圧と責任を背負いながら、アイドルとして笑顔でいたんだ。
 そんな先輩達のライバルなんだ。公式ライバルのセンターにいるんだ。ライバルとして認めて貰う為に。並ぶために。


「並びたいんなら、休むことも必要やって思うんやけどなぁ」
「えっ」


 踊り続けてる私の左腕を、急にやってきたさゆりんがパッと受け止めた。そしていつの間に立ちあがったのか、ななみんに右腕を抑えられる。


「飛鳥、脚を確保」
「ラジャッ!」


 ギュッと。そりゃもうムギュッと、両脚を飛鳥に捕らえられた。そう言えば、デビューしたての頃には飛鳥がこうしてひっ付いてくることがしょっちゅうだったっけな。身動きが取れない状態にいるのに、懐かしい気分にも浸っている私。


「生駒ちゃんに倒れられたら元も子もあらへんしなぁ」
「そうそう。休むのも仕事だよ」
「離せーっ!」


 さゆりんもななみんも、そりゃもう強い力で私の腕を握ってる。身動きが取れない。くっ、皆より少しでも長く練習しなくちゃいけないのに。3年半乃木坂46やってるけど、それでもまだまだの私なんだ。後輩が出来て、でもその後輩の方がダンスが上手くて。私がセンターでいる理由を、ちゃんと見せつけなくちゃいけないんだ。


「私がお手本にならなきゃ……!」
「倒れることも、お手本か?」
「そうじゃ……ないけど」
「なら無理はしちゃダメだよ。AKB48さん、超えるんでしょ」


 ななみんの真っ直ぐな視線は……ずるいな。AKB48の篠田さんにも似たその雰囲気は、何でだか説得力がある。
 私達が超えるべき壁。超えなきゃならない壁。その壁はとてつもなく高く、道のりは厳しい。伝説が一つ終わっても、第二章が始まっているトップグループはそれだけの道のりを歩んできた。前田さんが卒業してしまったものの、いつかの共同生活の企画から……AKB48は大きく成長があったのだと思う。雰囲気が変わった。そんなAKB48さんに私達が並ぶためには……確かに倒れてちゃいけないのかもしれない。


「一人も欠けることなくさ、皆で超えよ」


 過呼吸。とても苦しくて、死んでしまうんじゃないかって言うぐらいの症状がデビュー当時、ななみんを襲った。ステージ直前と言う時に。見ているこっちまで息が詰まりそうで、苦しかった。メンバーが少なかったあの頃だから、アンダーなんてものを立てられなくて……このままステージが終わっちゃうんじゃないかって誰の頭にも過った。


「でも立って良かった。苦しかったけど、今があるもん。もちろん無理しろって意味じゃないよ。無理するような状況になっちゃいけない」
「そういうことやって、生駒ちゃん」
「うん……」


 皆で超えて行こう。全力で、胸を張って、笑顔で。ちゃんと真正面から乗り越えるべき壁に会いに行こう。


「会いたかったって、言っちゃおうよ」
「私達の場合、かもしれないじゃない?」
「確かに。あー、あと飛鳥」
「ん?」
「飛鳥が離してくれないと座れないんだけど……」
「あ、そっか」





71-13≪大島優子≫



 主演ではないけれど、良い役を貰ってしまった。アメリカでの撮影は女優を目指す私にとっては本当に夢のようなお仕事だった。たまらないぐらいに、凄かった。少しだけ英語も覚えたし、また一つ私はランクアップしたんじゃないかな。


「また私達から離れるんだねぇ、優子は」
「でも梅ちゃんは付いて来てくれるんだろ?」


 ちょうど到着したのはリハーサルの休憩中だったらしい。さっきまで劇場入り口にいた皆が劇場内に入って行くのと入れ替わりで、梅ちゃんが現れた。梅ちゃんも特に変わらないけど、何か前よりも色気がある。眼鏡のせいかな。


「梅ちゃん、眼鏡なんか今までそんな掛けてなかったじゃん」
「いやー、コーチって勉強することも多くてさ本読むと目が疲れちゃうんだよねー」
「歳かよ」
「歳かねぇ」


 そんな会話で、2人して笑う。何も変わらない。才加が卒業しても、私がアメリカに渡っても、私達の関係は変わらないんだ。才加とも、佐江とも、有華とも、2期メンだって絆は厚いんだ。
 佐江の話によれば、有華はソロイベントに行っているらしい。半年前に念願のソロデビューをしたのはよく知ってる。ソロデビューが決まった時、いつかの梅ちゃんみたいに強いガッツポーズをしていたのはよく覚えてる。おめでとうといってあげたい。そんな有華も、つい先日セカンドシングルを発売したのだそうだ。今頃ソロイベントの真っ最中なのかな。行ってあげたいところだけど、私も皆と合わせなく茶だもんな。


「あんまり来て欲しくないんじゃない?」
「そうかな」
「そうでしょ。有華も意地っ張りなところあるし」
「2期メンは意地っ張りの集まりかよ」
「優子ちゃんも意地っ張りだもんね」


 私と梅ちゃんがいる劇場入り口に、また一人メンバーがやってきた。クールな雰囲気は全く変わらない。本当に私よりも年下なのか分からないくらいしっかりしてて、振りの覚えも早いし、真面目だし、秋元さんがキャプテンに指名したのもよくわかる。


「よっ、萌乃」
「久しぶりー」


 クールな表情が綻んだ。私と才加がいない間、チームKを守ってくれてたんだな。気丈に振舞っていたんだろう。萌乃だって、さっしーや由依、晴香と変わらない年齢なんだからもっと子供っぽく笑ってればいいのにな。


「どうだった、Kは」
「もう、優子ちゃんがいないと大変だよ……。佐江ちゃんは元気にも程があるし、梅ちゃんはみちゃ達と遊んでばっかりだし」
「そういうことチクっちゃだめだってばぁ」
「事実でしょっ」
「……事実だけどさぁ」


 椅子の上で膝を抱きながら、唇を尖らせる梅ちゃん。梅ちゃんも私と同い年だけど、これで結構遊ぶの好きだからな。たまにネガティブだし、たまにポジティブだし、大人で、でも子供。大好きな心友。


「萌乃には負担掛けたな」
「ううん、今は由依も色々手伝ってくれるし」
「あぁ、そういや由依が副キャプテンだっけ?」


 由依が副キャプテンに就任したって知らせは、私が渡米してる間に聞いたことだからキャプテンの萌乃も、副キャプテンの由依も今日初めて会うことになる。才加が卒業して、私もいなくて、そんで珠理奈も居て、チームKはどんな風に変わったんだかな。休憩が終わるのが楽しみでしかたない。


「萌乃も由依も真面目だから本当に困っちゃうよ……」
「梅ちゃんがちゃんと教えてくれれば私達も苦労しないからね」
「えっ、何?梅ちゃん、萌乃の尻に敷かれてんの?」
「鬼嫁だ、鬼嫁」


 そっか。ちゃんと機能してるんだな。まぁ、もし萌乃が何も言わなくたって佐江と梅ちゃんならKを支えてくれる。みぃちゃんとともちんもそう。長年AKB48にいるんだ。プライドとかじゃなく、本能のままに動いてくれると思う。もう少しぐらいアメリカにいても良かったかな。


「何言うてんですかっ!!」
「えっ」
「もっと早く帰ってきてくださいよっ!!」


 久しぶりに見た由依は、チームKの副キャプテンである由依は、すっかりと髪が伸びていた。ポニーテールしてたのって、こいつがまだ研究生だったころじゃん。


「何か痩せたな」
「それよりも先に言うことあるでしょうがっ!」
「何怒ってんだよ」
「由依はねぇ、優子が帰って来んのずっと待ってたんだから」
「梅さんは静かにしててくださいっ!」


 さらに小さくなる梅ちゃんだった。おいおい、先輩にこんなこと言う奴だったか?こいつ。でも、そういえばたかみなが倒れたあの夏のコンサートでも私ってば、滅茶苦茶怒られたんだっけか。真面目ちゃんだった由依も、こういうこと言うようになったんだったな。


「ただいまもどりました、副キャプテン」
「おかえりなさいっ!!」


 私が両手を広げると、素直に飛び込んでくる。頬っぺたを紅くして、何でか泣いていた。そんなに私に会えるのが嬉しいか。はっはっは、こりゃ先輩冥利に尽きるな。まぁ可愛い後輩だからね。4姉妹の末っ子だから、抱き締めてあげたくもなるんだ。


「一人でちゃんとやれてるか?」
「……しーちゃん達がたまに来てくれます」
「そっか。それなら良いよ」
「他に聞かないんですか……?」


 聞かなくてもわかる。2年も一緒に暮らして、Not yetやチームKでも一緒で、由依のことはりのりえと同じくらいにわかってるつもりなんだ。聞かなくたって由依が頑張ってきたことはわかるさ。


「会いたかったです」
「甘えん坊だな。どいつもこいつも」
「写真でも撮ってあげようか!」
「梅さんっ!!」
「冗談じゃーん……」
「あははは」


 私だって会いたかったさ。由依に。みぃちゃんに。ともちんに。梅ちゃんに。萌乃に。佐江や戸賀崎さんや、他の皆にも。まだ会えてない皆にも早く会いたいな。にゃんにゃん元気かなー。たかみなはまだ小さいのかな。りのりえは……まぁ心配しなくても元気だろ。


「ん、そろそろ休憩終わる」
「そうだっ!わかんねー振りがあるんだった!誰か教えてっ」


 飛行機のなかで、今回の公演の為に色々と動画見てたんだけど細かい動きがよくわかんなくて覚えきれていない。公演までまだ時間があるんだ。今の内に全力で覚えなくちゃ。久しぶりに立つ公演のステージを全力で、心からの笑顔で踊る為にも。


「はいっ!私が教えますっ」
「いいよ、由依は。私、優子ちゃんポジション覚えてるから私が」
「私だってちゃんと覚えてますっ!」
「あらあら、コーチは私なんだけどねぇ」
「誰でも良いから教えろっつの!」


 早くステージに立ちたい。応援してくれるファンの皆に、沢山の愛をくれた皆に、会いたかった。




71-14≪高橋みなみ≫



"皆の分も笑顔届けてきてね(бвб)"


 そんなメールが届いたのはついさっきだった。にゃんにゃんからこういうメールが来るのはかなり珍しい。どういう風の吹き回しなんだかわからないけれど、応援してくれてるのは純粋に嬉しいな。
 夜になって、これから被災地の方へと出発する。記者会見の後は集合時間まで思い思いの時間を……過ごすはずだったんだけどな。3人が3人とも


「温泉でも行きましょっ!」


 なんて言うもんだから、行く外なかった。これでもさ、他の皆との距離を縮めるためにも一緒にお風呂に入るようにしてるんだ。もっと自分をさらけ出さなくちゃいけないし、案外お風呂って素直になれるから色んな話できるしさ。


「だからって3人とも……ぐすっ」
「そんなに落ち込むことでもないじゃないですか」
「はるきゃんさんの言う通りですよ」
「うるさいうるさいっ!胸がある奴はいつもそう言うんだっ!」


 いやー、凹むよね。うん。何でこうも差があるんだろう、人間って。はるきゃんもみなるんもはるぅも色々と話してくれたんだけどさ、でも集中しきれなかった。ちぃちゃんは成果が出たとか言ってたけど、豆乳効果なかったしな……。
 そう言えば共同生活でも、皆でお風呂に行ったっけ。ゴールデンウィークに貰ったオフを利用して、日帰り旅行に行ったんだった。結局あれから7人揃ってでかけることは未だに無い。旅行に行く暇がなかなか無いからさ。ノースリーブスもNot yetも、メンバーそれぞれが色々と成長して、活躍の場が増えた。影響を受けた他のメンバー達だってそうだ。それはAKB48だけじゃなくて、他のグループにだって。乃木坂46の皆も燃え上がってるらしいし。


「莉乃ちゃん達来ないですねーっ」
「ほはいへー」
「食べるか喋るかどっちかにしろっての。って言うかさ、みなるん。さっきも御飯食べてたじゃん」
「ふむっ?」


 さっきマネージャーさんに買って来て貰ったコンビニのおでんを、みなるんは待ち合わせ場所で食べていた。指原と城がさっきまでスタジオで自主練してたらしくて、集合に少し遅れてるみたい。頑張るのは良いけど、遅刻はいけないぞ、2人とも。


「だって美味しいんですもん」
「そんな食べてよく太らないね」
「私の場合、栄養が胸に行くみたいなんですよ」
「ふざけんなっ!」
「ダイエッターに申し訳ないっ!」


 はるぅとはるきゃんが声を上げる理由もよくわかる。嫌味にしか聞こえねぇよ、こらっ。食べた栄養が胸に行くんだったら、私が食べ続けているカツ丼は何処に行ってんだよ!


「たかみなさんの場合は油ぎ」
「ってねぇよっ!」
「ふふふっ」


 ブラックみなるん降臨中。さすがだよ、この子は。今でもカツ丼はやっぱり大好き。子供舌って言われようと、美味しいものは美味しいんだ。験を担ぐ意味もあるからね。カツで勝つ!まぁこの世界の場合、勝つことには大した意味は無いけれど、ポジティブにはなれるでしょ。


「前田さんだって、あんなに食べてあんなに可愛かったんですから」
「確かに」


 はるぅは何も言い返せないまま引き下がった。まぁ自己管理ってことなんだよな、結局のところ。
 敦子の大食いが、AKB48から消えた。コンサートのお昼のケータリングが結構余るようになったんだ。こんなに余ってたら、敦子がお代りに来れるなって……思ってしまった自分が恥ずかしくなる時もあった。敦子はもういない。


「私がいた場所、たかみなが守ってくれたら嬉しいな」


 AKB48を卒業する時、敦子がそう言っていたのを思い出した。去年の今頃のこと。ちょうど……AKB48が9周年を迎えたあの日が敦子の最後の舞台になった。誰もが敦子の卒業を惜しんだ。皆に愛されていたから。


「敦子の場所?」
「うん。ゼロ番とかじゃなくて、私の場所」
「もちろん。だから、安心して行っといで」


 運命共同体とか、旦那とか、色んな事を自分で言っていたのにまさかこんな所で別の道を行くなんてね。もちろん敦子の背負ってきたものは、私が一番よく知ってる。自由になりたかったのをよく知ってる。一生の親友だから。


「いつかたかみなも……夢叶えるんでしょ?」
「叶えるからこそ、夢って言うんだぜ?」
「それもそっか」


 眉をハの字にして、敦子は楽しそうに笑ってた。そんな風にして、AKB48の前田敦子は一旦の幕を下ろしていった。
 夢を叶える。今の私の夢は……AKB48がさらなら発展をすること。そのためには、古くからいる私達は必要ないんじゃないかって言われる。でも夢をかなえる場所がここなんだから仕方ないじゃん。え?もうひとつ夢があるだろうって?うん、そうだね。そうなんだ。


「お待たせしましたっ!」
「おー、やっと来たよ」


 集合場所の傍に一台のタクシーが止まって、宿泊用の荷物を持った指原と城がやってきた。2人とも、レッスン着の上にコートを羽織ってる。いやいやいや、一応アイドルなんだからそういう格好はどうなんだよ。


「遅れてごめんなさい」
「すみませんでしたっ!」


 私達とスタッフさん達の前で、2人が頭を下げる。明日までにまだ時間があるって言っても、遅刻して謝るのはもちろんの礼儀だからね。城に色々なことを教え込んでいる指原。本来は私がその役目を負うべきなんだけどな。まぁ言っても副キャプテンだし、もうヘタレの指原じゃないんだから信じなくちゃ。


「遅いよー、さっしー」
「はるきゃーん!会いたかったー!」
「はいはい、どうどう」
「城もお疲れ様」
「お疲れ様です、みなるんさん、島田さん!」
「元気だねー」
「ほら、おでんのお汁飲んでいいよ」
「おー!みなるん、良いもの持ってるじゃーん」
「指原さんに上げるとは言ってないでしょ!」
「良いから良いから」


 変わってないところもあるか。共同生活が残してくれたものはとても大きかったと思う。皆で一緒に住んで、互いに会話する時間が増えて、色々と一緒に乗り越えてきて。皆が成長した。成長出来た。私だって成長出来たと思う。あの共同生活が無かったら……未だに一人で背負いこむ私のままだったと思う。敦子がいなくなって、負担が大きくなったって思われがちだけどね。今は皆が一緒に背負ってくれるから大丈夫。にゃんにゃんもみぃちゃんも、優子達Not yetも、他のメンバーもね。


「あ、たかみなさん。これ、前田さんからです」
「え?敦子?」


 城が私の傍までやってきて、一通の封筒を渡してくれた。真っ白な封筒。風をするために、リボンのシールが貼ってある。受け取って見ると"たかみなへ"と、可愛らしい小さな字で書いてあった。うん、よく知ってる敦子の字だ。


「お仕事の最中に突然来たんです。たかみなさんに渡してくれって」


 何とも回りくどい。今時メールで良いじゃんとは思うけど、私がなかなか返さないからな。それで今までに何度敦子を怒らせてきたことか。
 開けてみると、真っ白な便箋が2枚。一枚目には敦子オリジナルキャラクターのネギちゃん。そして短い文章が続いてる。


"たかみなへ
 ギターの練習しておいてね
 10周年のステージでセッションするんだから
 敦子より"


 もちろん覚えてるさ。約束だもん。AKB48でも、そうでなくても、一緒に弾き語りしようって約束したんだからさ。ドナドナドーナツ再結成を楽しみに、日々ギターの練習中。特に敦子と打ち合わせしてるわけじゃないけど、秋元さんにその時間を下さいって言ってある。敦子のサプライズ登場だ。今から楽しみ過ぎる。
 便箋の2枚目。そっちは追伸らしい。こんな短い文なら、一枚に纏めてかけばいいのにな。まぁこういうやり方も敦子らしくて、やっぱりちょっと嬉しくなる。


"P.S. ソロアルバム発売おめでとう"


 共同生活が残してくれたものは成長ばかりじゃない。夢にも少し近づいた。優子が女優への道の為に渡米したように、私にだってそういう仕事が来たんだ。歌手としてのソロデビュー。この夏にセカンドシングル発売してしまったんだ。どうだ、凄いだろっ!
 そしてアルバムの曲の中には、ノースリーブスで作ったあの2曲のソロバージョンと、新たに私自身が作詞した曲も収録予定。今から完成が楽しみだ。今度は売上枚数を気にしなくても良い。思う存分歌うだけ。
 ついに10周年公演が来週に迫ってる。ついに10周年か。感慨深い。懐かしくて、あっという間の道だった。これからも色々なことがあるだろう。でも何があっても、AKB48はAKB48らしく、自分は自分らしい生き方で、走っていこう。


「よっしゃ、今日も明日も、10周年公演に向けて笑顔で行くぞっ!」
「Yes!」



テーマ:

71-5≪横山由依≫



「あはは、萌乃ちゃんは今日も怒ってるなー」


 ステージから更衣室に戻ると、椅子に腰掛けながら珠理奈ちゃんが笑っとった。とても楽しそうにステージの方から響く音楽に耳を傾けてる。梅さんと萌さんとのユニット曲の練習を一足早く終わらせてから、着替えとったようや。そらな、ジャージのまま外に出るんは寒過ぎるもんな。


「萌さんは怖いからな。珠理奈ちゃんも怒らせたらあかんよ」
「怒らせないよ。萌乃ちゃんみたいな人好きだもん」


 そう言って快活に笑う珠理奈ちゃんは、初めて見た時の中学生からは随分成長しとる。ついに高校3年生になった。あと3か月程で18歳になる。まだまだ18歳なんか。凄いな……。私が18歳やったのって何年前のことや。っていうかまだ高校生なんやな!素直に感心するなー。
 チームKの空席を埋めるために、SKE48からはるばる限定加入に為にやってきた珠理奈ちゃん。言うてもSKE48で玲奈さんと一緒にエースを務めとった珠理奈ちゃんが、Kに来るなんてビックリやわ。


「務めとったって、今でも務めてるよ」
「あぁ、そっか」


 東京と名古屋行き来しながらチームSの公演とチームKの公演を兼務している。しきっている。加入が発表された当時は頑張り過ぎる珠理奈ちゃんだけに、その体調や、学業との両立に関して色々と心配されとった。しかし珠理奈ちゃんの持前の真っ直ぐさはそれを凌駕しとって、がむしゃらに頑張り続けてる。成長に伴って体力も随分と付いて、最近は体調を崩すことも無くなった。SKE48から持ち込まれたその高いダンススキルは、Kにまた一つの嵐を巻き起こしとる。


「嵐なんてとんでもない!私はKを荒らしに来たのさ!」
「それはあかんやろっ!」
「SKEから送り込まれたスパイだったのさ!」
「今すぐ出ていけっ!」
「おぉー!さすがは由依ちゃん。そのツッコミを駆使して、私と一緒に漫才のテッペンを目指さないかいっ!?」
「目指しませんっ!」


 こういうところ、珠理奈ちゃんは何も変わってへんのよね。Kに来てからも優子さんや宮澤さん、それにれいにゃんさんに可愛がられとる。元々AKB48のメンバーとも関わりの多い珠理奈ちゃんだけに、慣れるのに時間は掛からなかったな。そこはBに来たみるきーさんと変わらんわ。
 Kに限定加入して総選挙でも再び票を大きく伸ばした珠理奈ちゃんは、センターが入れ替わるAKB48の中で、大声ダイヤモンド以来のセンターに立った。元気でカッコいいその曲は、まさに珠理奈ちゃんが立つのにふさわしいような曲。他にも麻友さんとダブルセンターに立ったり、SKE48でもそのプライドを保っている。


「そう言えば優子ちゃん帰ってきたって!?」
「そう見たいやよ。ちゃんと間に合ってよかったわ……」


 さっき、久しぶりに電話した優子さんの声は本当に懐かしい声やった。まぁ懐かしい言うても2ヶ月振りやから懐かしいって程でもないかもしれんけどな。でもやっぱり優子さんの声を聞くのは今でも嬉しいねんな。
 共同生活が終わってから、しばらく一緒に暮らしていた優子さんとの生活は半年前に解消した。結局共同生活終わって一年も一緒に暮らして、随分長い間お世話になってしまったもんやわ。優子さんにアメリカからのお仕事のオファーがあったしな、そのまま渡米してしまうっていうからね。それにいつかは一人立ちせんといかんかったし、えぇ機会やった。そしてそんな優子さんがついに帰ってくる。里英ちゃんも莉乃ちゃんも、Kの皆も、他の皆さんも、優子さんの帰りを待っとったんやからね。


「そろそろ時間ちゃうの?」
「あ、そうだった!じゃ、すぐ戻ってくるね」
「うん。気を付けてな」


 ハンガーにかけていたコートを手に取り、珠理奈ちゃんが部屋を出ようとする。ドアノブを掴んで、もう一度振り返った。


「由依ちゃん」
「んー?」
「いつかさ、由依ちゃんがSKE48に来るみたいな約束したじゃん」


 あー、そう言えばそんなことも会ったっけなー。まだ共同生活しとったころやね。珠理奈ちゃんが初めてあのマンションの、あの部屋に来てくれた時にした会話。もしも私がAKB48を卒業になってしまったら、SKE48に加入するのはどうかと、珠理奈ちゃんが誘ってくれた。


「逆に私がAKBに来たけどさ」
「そう言えばそうやね」
「今度、由依ちゃんがSKE48に遊びに来てよ」


 私が……SKE48か。私はAKB48やけど。AKB48に誇りを持っとるけど。でも限定的な加入って言うのは悪くないのかもしれんな。珠理奈ちゃんがAKB48にSKE48の良い物を持ちこんでくれた様に、私がSKE48に持ち込める物もあるんかもしれん。


「なら、今度秋元先生に話してみようか」
「良いのっ!?」
「うん。だって、珠理奈ちゃんとの約束やもんね。それより気を付けていってらっしゃい」
「行ってきまーすっ!」


 とても嬉しそうに笑いながら、珠理奈ちゃんは劇場を飛び出していった。





71-6≪松井珠理奈≫



 ちょっと早かったかな。でも約束の時間はもうすぐだもんね。まだかなまだかな。胸が高鳴る。秋葉原駅前のAKB48CAFEが見えるベンチに腰掛けながら、来る時を待つ。マスクに眼鏡という姿は、さすがに私を隠してくれているようだ。今まではSKE48ショップにしか並んでいなかった私の写真も、今や目の前のショップでも売っているのか。胸が熱くなっちゃうね!
 AKB48に限定加入すると言う発表が会った時は、やっぱり不安だったな。だって……あの発表の仕方はずるいもん。私の大好きなSKE48から離れるのかと思った。皆で目指してきたSKE48の成長に立ち会えなくなるんじゃないかって、本当に怖かった。けどKさんとの兼務って聞いて安心した。私の居場所はSKE48で良いんだって、そう思えたから。みるきーちゃんも同じようなことを思ったんじゃないかな。だって自分達のグループの為になるもんね。AKB48さんから、盗めるものを盗んでこよう。そういう意味では、さっき由依ちゃんに言ったスパイって言うのも嘘ではなかった。


「ていっ!」
「うおわっ!!」


 首に巻いていたマフラーの隙間を縫って、背中に冷たいものが急に飛び込んできた。冬の寒空の下で、こんなに冷たいものが地肌に付くのはいかんでしょうが!思わず声を上げてしまった。しかし、こんな大きな声を上げてもAKB48CAFEに入店待ちしてる人達は誰も振りかえらない。東京の人はこういう時ちょっと冷たいな……。っていうか冷たいのは今の私の背中なんですけどねっ!


「何すんのっ!」
「いやー、隙だらけだったからさー」


 振り向くと、私と同じくマスクに眼鏡で変装をしたお姉さん。長い髪を三つ編みにして、何だかガリ勉中学生みたい。いやいや、いつの時代のガリ勉だっていうのね。


「珠理奈ー、久しぶりだねーっ!」
「そこまで久しぶりでもないよ、玲奈ちゃん」
「そんなこと言わないのっ」


 マスクを下ろした玲奈ちゃんは、とても喜んだ風に笑ってる。控え目キャラの玲奈ちゃんがこんなに笑うなんてなかなか珍しい。久しぶりなんて玲奈ちゃんは言ってるけど、一週間ぶりぐらいだ。S公演に出演したんだから。


「でも嬉しいよ、私は」
「何か今日テンション高いね」
「珠理奈が招待してくれたのが嬉しくてさ」


 今日はチームKが久しぶりに全員揃う日。私もなかなか他のお仕事が多いから最近は出れなかったんだけど、今日は特別な日なんだ。ともちんさんに聞いたら、半年ぶりぐらいなんじゃないかって言ってた。私が限定加入するようになって、何だかんだ結構経つけど確かに全員揃ったことはずっと前のことだ。


「玲奈ちゃんがちょうどオフって聞いたからさ。会いたかったし」
「ありがとね、珠理奈」
「ちゃんと私も成長したんだよって、今日は見せつけてあげる!」


 チームKの勢いは、SKE48の勢いとはちょっと違う。やっぱりメンバーが変われば特色も変わるんだって、肌で実感した。チームSとが違うその雰囲気に馴染むのはなかなか大変で、でも自分の成長の為にものにするしかなかった。私の成長の為、そしてSKE48の成長の為にも。


「楽しみにしてるよ」
「成長を静聴してくれ!」
「……そういうところは変わんないね」


 はぁっと、玲奈ちゃんは深く溜息を吐いた。玲奈ちゃんは玲奈ちゃんなりに変わってる。成長してる。相変わらず身体は細くて、ちょっと心配にもなるけど、でも忙しそうに走り回ってるもんね。私がいない間にSKE48を支えてくれる一番信頼できるお姉ちゃん。お姉ちゃんで、ライバル。


「でもやっぱり大好きだっ!」
「抱きつくなーっ」
「久しぶりなんだからチューさせてっ!」
「公演頑張ったらね!」


 頑張ったらチューさせてくれる!よっしゃ、そりゃ頑張るっきゃないじゃんか!今日も気合い入れてチームKの技を物にしてやるぜいっ!


「それより玲奈ちゃん、手冷たいんじゃない?劇場まで握ってあげる」
「いいよ……子供じゃあるまいし」
「子供じゃないからこそだよ、はい」


 少し迷ったのかうーっと唇を尖らせて、それから私の差し出した手を素直に握ってくれた。やっぱり冷たいその手だけど、玲奈ちゃんとの絆は熱い。厚い。これからもこうして2人、手を握って歩いてくように、SKE48の為に頑張って行こう。





71-7≪指原莉乃≫



 今日も朝から一人でのお仕事だった。今日はソロシングルのレコーディングのために、レコーディングスタジオにやってきている。デビューシングル、セカンドシングルともに売り上げは好調だったらしくこのたびサードの発売が決定した。秋元先生は今回も気合いを入れて指原の為に歌詞を書いてくれた。……って、一人称指原って言うの止めるって決めたのに、やっぱり癖で出ちゃうな。いやさ、誰に止められた訳でもないんだけど、色んなお仕事が増えて行く中で偉い人に挨拶することも多くてさ、「私」に慣れておかないと行けないと思って。さしは……私なりに成長をしてるんです。成長しなくちゃいけないんです。
 尊敬する大先輩、あっちゃんがAKB48を卒業してから月日が経った。AKB48の象徴であり、精神的支柱。誰もが好きだったあっちゃん。彼女の卒業はやはり大きな痛手だったんじゃないかと思います。もちろん、あっちゃんの背中を押してあげなくちゃいけないんですけどね。そうしなくちゃいけないんです。
 それでもいざいなくなると、落ち込むメンバーも少なくなかった。みなみちゃんはもちろん、あーみんやはるきゃん、小森が少しの間調子を狂わせていたんです。そして目の前にいるジョーちゃんだってその一人でした。


「もう終わるから、そろそろ準備しといてね」
「はい!今日もお疲れ様です、指原さん」
「ジョーちゃんは今日も可愛いっ!」


 と、抱きつきたくなる衝動はどうにか抑えなくちゃ。一応お仕事の現場だからね。偉い人も沢山いるんだから、我慢しなくちゃ。もちろんスタッフさんは皆私のこういう性格をわかってくれてるから基本的には自由にさせてくれますけど、でもそれに甘え続けちゃいけないんです。意識から変えていかなくちゃ。
 さてさてそれよりどうしてジョーちゃんが、ジョーちゃんこと城恵理子ちゃんがここにいるのか疑問でしょうね。高校生になって、ぐんと背が伸びたジョーちゃんは今、私とマンツーマン生活を送っています。私がかつてみなみちゃんと一緒に過ごした例の生活ですよ。
 珠理奈がチームKに、みるきーがチームBに限定加入したように、あっちゃんが卒業した穴を埋めるために秋元先生が新たに限定加入させたのが、そうです。誰あろう、このジョーちゃんなんです。あっちゃんに憧れるジョーちゃん。まだ世間知らずで幼かったジョーちゃんですけど、あっちゃんの卒業以来絶賛成長中です。
 誰もが落ち込んでるわけにもいかない。そんなことはわかっています。だからこそ揺らいでいるAKB48の屋台骨を支えるために、私も今を頑張っています。里英ちゃんとのツートップを目指してね。未だに夢は夢のままですけど。
 里英ちゃんとは今でも一緒に暮らしています。お互いに忙しいからほとんど家を空けたままですけど、でも遊ぶ時には地方組で集まってとことん遊んじゃう。全然変わらない私達の関係性。小森がちょっと大人になったかなって思いますけどね。


「やっと終わったし、お昼でも行こうか。その後ダンススタジオ行って練習。オッケー?」
「自主練ですか?」
「うん。私が教えてあげるからね!」
「えー……」
「そんな心配そうな顔するなよ!」


 みるきーやさや姉に聞いてはいたけど、ジョーちゃんってたまに滅茶苦茶失礼な子なんだな。まぁそれも一つの個性として受け止めてるけどさ。でもこの世界で生きて行く為にも、それなりの礼儀とスキルは今の内に私が教えてあげなくちゃ。先輩なんだからね。秋元先生もそれを期待して、今回のマンツーマン生活を指原に……私に任せてくれたんです!それにこうしてふざけてはいるけど、それなりに慕ってくれてるみたい。


「あの聞きたいことあるんですけど」
「うん!何でも聞いて!」
「倉持さんはどうすればスルー出来るんでしょうか」
「ジョーちゃんには……まだあれへの対処は無理だよ」


 未だに誰もが対処出来ないんだから。あの攻めを牽制出来るメンバーなんて存在しないんだよ。私だって本当に困ってるんだから。もっちぃは未だに変わらずメンバーやスタッフさん、他の芸能人さんの耳を査定し続けている。変態キャラは健在中。あきちゃももちろんもっちぃの行為を受け続けて、天然を貫いてる。まぁ基本的に変わったメンバーの方が少ないもんね。アニメ選抜第2弾なんかも企画が進行中らしくて、なかやんや亜美菜ちゃん、もちろん麻友達が燃え上がっていたっけね。
 アニメって言えば、アニメの中に襲名メンバーなる存在がいた。秋元さんが企画・監修をしていたことを思うと、いつかあっちゃん2代目を誰かに襲名させたりするんじゃないかって思ったり思わなかったり。そして襲名させるとすれば……やっぱりジョーちゃんなのかな。2代目か……。そういうのもサプライズとしては面白いけどさ、やっぱりジョーちゃんはジョーちゃんだし、個性は大事にして欲しいよ。


「私も荷物取ってくるからちょっと待っててね」
「あれー?いつから私なんて言うようになったの?」
「え?」


 ジョーちゃんと一緒に振りかえる。いつからそこにいたんだかわからない。私もジョーちゃんも憧れる大先輩、あっちゃんがサングラスを外しながらそこに立っていました。変わらず姿で。いつものいたずらな笑顔を浮かべて。


「あっちゃん!」
「前田さんっ!」
「やっほー」


 おぉーっと、スタッフさん達もあっちゃんの登場に歓声と拍手を上げました。そりゃそうですよ。AKB48に関わる人間としては伝説的な存在なんですから。


「お久しぶりですっ!」


 私が抱きつこうとする前に、既に抱きついていたジョーちゃん。な、何だよ。そういう時は年功序列ってものがあるんだぞ!ちゃんと守らなくちゃいけないんだぞ!


「会いたかったです……!」
「うんうん、いつもありがとね。ジョーちゃん」
「とんでもないですっ……。うぅーっ」


 あっちゃんの胸に抱かれて、ジョーちゃんは既にボロボロに涙を流していた。それぐらいにジョーちゃんはあっちゃんのことが大好きなんです。髪型だって、あっちゃんをリスペクトしたボブカットですし。私があっちゃんの話をしてあげると、いつも楽しそうに話を聞いてくれます。目を輝かせながら、色々なことを聞いてくれます。そんなジョーちゃんが可愛くて仕方ないんです。だって私もあっちゃんが好きですから。好きな物が共通してると、盛り上がっちゃうんですよね。


「指原、私って言うの気持ち悪ーい」
「そ、そういうこと言わないでくださいっ!」
「私の前では前見たいで良いのに」
「あっちゃん……!」
「おいでー」


 えへへ、と笑いながらあっちゃんが手を差し出してくれました。尊敬する大先輩。何かと可愛がってくれた大先輩。ジョーちゃんを押し退けるくらいの勢いでその手を取ったのは言うまでもありませんよね。


「指原沢山頑張ってますよ!」
「たかみなから聞いてるよー。今度ゼロ番立つんだって?」
「はいっ、秋元さんが頑張れって言ってくれたんで!」
「良かったね」
「はいっ」


 あー、やっぱりあっちゃんだなー。独特の雰囲気がやっぱり素敵。わた……いや、指原の大好きなあっちゃんが目の前にいて本当に嬉しいですよ。やっぱり卒業してしまうと、なかなか会えないですからね。


「あ、ニュース見た?」
「ニュース?」
「優子が帰ってきたよ。さっきまで一緒にいたんだからー」
「えっ!?」


 あっちゃんの耳元とか気にせずに、思わず声を上げてしまった指原です。指原のもう一人の尊敬する先輩が、やっとアメリカから帰ってきた!こりゃ大変だっ!やっとこさNot yetが集合できる!





71-8≪大島優子≫



 あっちゃんと分かれて、空港から直接秋葉原へと向かう。私達の劇場があるあの場所へと。さすがにもう耐えられない。このまま劇場まで眠ろう。予定じゃ、着いてからも時間はあるから。
 ランダムに動き回るカウンターを、今でも思い出す。あんなに短くて、あんなに長い瞬間はなかなか経験できないと思うんだ。あっちゃんと争ってきた総選挙の時みたい。2位の発表がされるあの瞬間に……感覚は似ていた。そう簡単に忘れられるような感覚じゃない。
 きたりえとさっしーと由依に支えられながら、私はステージに立ちあがった。もうどうにでもなれぐらいの気持ち。それは自棄になったわけじゃない。今の私は一人じゃないって言う、強い気持ちがあったからだ。


「それでは……続いてNot yetの発表に移ります」


 戸賀崎さんが手を上げると同時に、カウンターが動き出す。たかみなも発表の時は同じ気持ちだったんだろうか。同じ気持ちだったんだろう。
 あっちゃん達に囲まれたたかみなの方に一瞬目をやると、さっきまで笑っていたたかみな達は口を固く結んでいた。私よりも先に残留を決めたんだ。嬉しいって、笑ってて良いのに。いや、笑われてるのも嫌か。複雑な気分だな。
 きたりえってこんなに手温かかったっけ。さっしーの爪が私指に食い込んでる。痛ぇよ。由依からも強く抱きしめられてるから、血が止まってる。一の位の数が止まるまで、たった一瞬の出来事だったのに色んな事を考えた。色んな思いがよぎった。ステージの後ろにいる才加や佐江、梅ちゃんや有華や、晴香達のもとに行きたい。早く終わってくれ。


"5"
"2"
"1"
"9"
"4"


 桁が止まるたびに、きたりえ達の手に力が入って行くようだ。私自身は逆に力が抜けて行くみたいなのに。次だ。次で終わる。もうあと一つだけなんだ。これが止まれば、全部終わる。終わったら、また皆で鍋パでもしたいな。才加達も誘って。あっちゃんやたかみなと、これからのAKB48のことを語りながら。Not yetで馬鹿笑いしながら。


"3"


 最後の一つが止まった。時間はゆっくり流れる。私を包むようにして、皆の顔が一気に笑顔に変わって行く。


「34万9125枚……ですっ」


 戸賀崎さんもマイクを握り締めながら、上げていた方の手を拳に変えて空に向かって突き上げた。ドンッ、と一気に爆音が鳴り響く。巨大なクラッカーが弾けて、金色の紙テープと紙吹雪が会場を包んだ。


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「優子さんっ!!」
「よっしゃーっ!!」


 誰が何を言ってるのかわからない。会場を包む歓声。あっちゃんやにゃんにゃんまで私に飛びついて来て、もう何も見えない。ただただ嬉しかった。残れるんだって、AKB48でいられるんだって、幸せな気持ちが私を包んでる。夢みたいだ。


「優子っ!!」
「ん……」
「起きろって!」
「え……」


 目の前が明る過ぎて眩しい。誰かに思い切り揺さぶられている。現実に引き戻された。いつかの出来事を思い出すかのような、そんな夢だった。何だ、寝ぼけてるのかな。私……どうなったんだっけ。AKB48に残れたの?それとも卒業したのかな。
 車はどこかの駐車場で停車していた。よく見覚えのある駐車場。劇場の秋葉原だ。ワゴン車のサイドドアを開けて私を揺さぶるその笑顔もまた、よく見覚えがある。


「佐江……?」
「寝ぼけてんじゃねぇぞ!おかえり、優子っ!」


 ゲンキングの満面の笑みが、私の目の前にあった。あの頃よりもちょっとだけ髪が伸びた佐江。イケメンな容姿は、未だに通用する。元気一杯の私の心友に手を引かれて、覚束ない脚で車を降りる。


「会いたかったぞっ!!」
「うん……私もだっ。佐江」


 やっと帰ってきた。2ヶ月もの海外生活は、本当に長かったな。長くて長くて、早く立ちたかった。私を待ってくれている皆の為に。ファンの方達の為に。そして私の為に。


「行くぞ、K公演っ!」




テーマ:

71-1≪大島優子≫



「AKB48を離れて一人海外でのお仕事でしたが、今のお気持ちを」
「はい。今回、海外からのオファーはとても嬉しく、私の女優としての夢にまた一歩近づけたような気がします。けど……やっぱり一人は淋しいですね」


 海外の映画への出演でしばらく日本から離れていた。撮影はなかなかの長期に渡って、日本に帰ってきたのは二ヶ月ぶりぐらいか。久しぶりに吸う日本の空気は冬に向かっていてとても乾燥してる。匂いは……アメリカのそれとはやっぱり違うな。久しぶりに日本人に囲まれているせいか、少し戸惑ってしまう。
 空港の特別室に集まった報道の方々との和やかな会見を終えて、マネージャーさんに移動の車を手配して貰う。飛行機が長かったから、身体が固まっちゃってるな……。久しぶりに思い切り踊りたい気分だわ。ロビーのソファに腰を下ろして、滑走路を飛んでいく飛行機を眺める。


「道が混んでるみたいだから、もう少し待っててくれ」
「あいあいさー……」


 マネージャーさんが携帯電話から耳を離してそう言った。専属のスタイリストさんやメイクさん達も久しぶりの帰国に、思い思いくつろいでいる。どうぞどうぞ、私のことは気にせずにご家族と連絡取ってくださいな。私は飛行機の中でなかなか眠れなかったから、瞼が重くてしょうがないや。これでも何かと忙しい身でしてね、色々と覚えなきゃいけないことがあるんだよ。


「お客様、日本の美味しいお水なんていかがですか?」
「どっちかって言えば100パーセントのオレンジジュースが飲みたいっす」
「グレープフルーツジュースならございますよ」
「ありがと、前田さん」
「いえいえ」


 私の座ってるソファに背を向けるようにして、あっちゃんが座っていた。日光の差し込む窓際を避けて、サングラスをかけてる。乾燥した空気は日差しを強くするからね。随分と久しぶりに会うものの、印象は全く変わっていない。トレードマークのボブヘアを後ろで纏めてるぐらいだ。
 同じ事務所として、私の帰国時間を知っていたんだろうな。このタイミングで現れるなんていくらなんでもありえないし。


「あっちゃん、今日は仕事ないの?」
「午前中に取材あったけど終わった。夜から映画撮影に出発」
「あっそう。あっちゃんも忙しそうで何より」
「優子に久しぶりに会えて嬉しいよ」


 お互いに立ちあがって、ハイタッチした。周りにいたスタッフさんは急なあっちゃんの登場に随分と驚いたらしい。そりゃそうだよ。トップアイドル……、いやそれは前までの話。今となっては人気女優。そんなあっちゃんが急に現れたんだから。普通驚くなんてもんじゃない。まぁそういう点で私はあっちゃんのことはわかりきってるからね。こんなことじゃ驚きもしねぇや。


「今日ってB公演?」
「今日はK公演って由依に聞いたけど」
「え。情報と違う。Bと思ってた」
「日付変更線超えてるじゃん」


 あー……そう言えばそうだった。忘れたわ。帰国する日はチームBの公演だと思ってたのに。そうか、今日がチームKの公演日なのか。こりゃあ計算間違った。うーむ、こんなところでオチオチ休んでる場合じゃないわ。劇場に顔出さなくちゃ……。
 一年間の共同生活が終わり、売上枚数の発表があって……それから色んなことが沢山あった。総選挙のシステムが色々変わったり、じゃんけん大会に変わる新たな選抜大会。14期研究生の加入や、SKE48やNMB48からの期間限定加入、事務所移籍や昇格。そして……絶対エース・前田敦子の卒業。激動の時代を超えて、AKB48は新しい時代を迎えている。時代は移り、2014年冬。あの握手会から既に一年と半年以上が経った日に、私は日本に帰ってきた。





71-2≪北原里英≫



「はいはい、どうもー!チームBの新キャプテンに就任しました!北原里英でーす!」


 14期研究生の若者達がレッスンをしているスタジオに飛び込むと、10人ほどの目が一気にこっちに向いた。研究生達が夏のコンサートで覚えられなかった振り付けにリベンジしてるって聞いたものだから来てみたんだけど、急も急。いきなりすぎたせいか、大分驚いた顔をしてる。うんうん。若々しくて結構結構!戸賀崎さんの話によれば、何でもダンスのスキルが高い子がいるとか。それに歌唱力抜群だったり、とても美少女だったり。


「き、北原さんだ……!」
「本物……?」


 各々ざわついてるみたい。ふっふっふ。そんなに私の登場が凄いのか。うんうん、なるほどなるほど!これはあれだね!とてもいい気分だね!言っても今やAKB48の選抜の中心メンバーであるりえこさんですから。憧れて貰えると本当に嬉しい。
 どれもこれも、あの共同生活があったからこそだね。あの一年において私のダンスのスキル、そして歌唱力はぐんと上がったように思える。そしてもう一つ、秋元先生が私の作詞のセンスを褒めてくれたらしく、今はそっちの方の勉強もしている。才女・北原里英が本領発揮中なのでございますよ!秋元先生からの依頼で、近々チームBの曲も書かせて貰えることになってる。うーん、女優としてのお仕事もある中でなかなか快調なのではないでしょうかね。


「はいはーい、NMB48から限定加入中のみるきーこと渡辺美優紀でございまーす」


 ドアの傍に立っていた私を押し退けるようにして、ニコニコした笑顔でみるきーが入ってきた。現在NMB48から限定加入中のみるきーこと渡辺美優紀ちゃん。我らがAKB48にらんらん、SKE48にだーすーちゃんがいるように、NMB48最強の釣り師であるみるきー。基本的には天然っぽくのほほんとしているけれど、しかしてその実態は……。まぁ触れないでおこう。


「きたりえさん、早く入ってくれないとエースが入られへんよ」
「おーっと、そうだった!14期の若い子達の顔を見てたら懐かしくなって忘れてしまっていた!」
「もー、しっかりしてくださいよ。それでもキャプテンなんですか?」
「いやいや、こりゃ失敬!」


 みるきーがチームBに来た頃は、とても緊張していたみたい。そりゃ当たり前だ。今まで一緒にいたメンバーから離れて、一人違う
グループに加入するんだ。私がその立場だったら、やっぱり緊張してしまうと思う。昔の人見知りの頃から成長はしたものの環境の急激な変化は不安で仕方ないもんね。
 それでもゆきりんや麻友、同じ関西出身の有華ちゃんの支えもあって、馴染むのにそう時間はかからなかった。元々ポジティブな性格だってこともあると思うけれど、みるきーが毎日を楽しそうに過ごしているのが嬉しい。
 しかし、それでもみるきーはNMB48のメンバーだ。たまにホームシックになることもある。NMB48としてのプライドだって忘れてない。やっぱり向こうにいる方がBにいるよりも楽しそうで、それが淋しいって思うのは……間違いなのかな。


「ではここで、NMB48キャプテン山本彩直伝の城物真似やりますっ」
「エースが来るんちゃうんかい!?」
「関西弁下手か!」
「何やてー!?」


 もう14期研究生の子達がポカンとしてるのも忘れて、みるきーとともに絶賛漫才中。


「2人ともうるさいな」
「おぉ!麻友ちゃん!」


 二十歳になったチームBのエース、麻友がスタジオに入ってきた。あっちゃんが抜けた後のAKB48を新世代メンバーの中心として引っ張っている麻友。今では髪もツインテールは止めて、肩の辺りまでの長さに揃えてすっかりと大人びていた。可愛いと言うよりは、綺麗って言う言葉が似合っているかな。
 麻友の登場に、14期研究生が揃いも揃って目を輝かせた。それはそうだろう。過去には超選抜・神7の一人として、またソロデビューやドラマ主演などを重ねて活躍してきた麻友だもん。私よりも興奮して当然だよね……。


「キャプテンなんだからしっかりしてよ、きたりえ」
「ごめんごめん、なかなかこんなに若い子達を見たら興奮してしまって」
「さっしーじゃないんだから、もう」


 そう言って静かに微笑む麻友。本当にもう……すっかり大人になっちゃって。昔から見て来た私としてはもう、感慨深いね。何だかしみじみする。っておっとっと!今日は研究生の応援に来たんだった!麻友にばかり注目してる場合じゃないや!


「改めまして、皆さんこんにちは。皆の目線をいただきまゆゆ!まゆゆこと、渡辺麻友です」
「よっ!我らがエース!」
「素敵ー」


 研究生の子達からも「おぉー!」っと歓声が上がる。あっちゃんが卒業してから、AKB48のセンターはローテーションのように入れ替わりが続いている。その中でも数多くセンターポジションに立っている。子供っぽかった性格だった過去に比べると、センターの重圧を背負い更なる成長を魅せ続けて、さすがの貫録だよ、本当に。


「あ、あの!握手してください!」
「ずっと憧れてました!」
「素敵ですっ!」


 一気に麻友の周りに研究生が群がった。持前の清楚な微笑を浮かべて一人ひとりに丁寧に対応する麻友は、アイドルしてるんだなー。同様にして、数人と握手しているみるきー。第4回総選挙での選抜入り以来、チームBへの限定加入などにより東京での仕事も増え露出も多くなった今、彼女もまたそれなりの人気を博している。もちろんNMB48のキャプテンかつエースであるさや姉には及んでいないと思う。並みはずれたリーダーシップを発揮していたさや姉は、さらに一皮むけて成長している。大人の魅力と、洒落っ気たっぷりのお茶目さを交え、そしてみなみちゃんばりのキャプテンシーは多くのファンを夢中にさせている。


「あ、あの……」
「ん?」


 麻友やみるきーの周りに研究生が集まるなか、ただ一人だけ私のもとにやって来た。何とも気弱そうで、モジモジとしてる。背も低くて、顔も幼くて、中学生くらいだろうか初めて会った頃の莉乃ちゃんみたいな儚げな美少女。


「どうしたの?」


 こういう子って結構小心者だから優しくしてあげなくちゃ。研究生をビビらせるのは、ステージの上だけで十分だもん。麻友の真似をして、優しく微笑む。いや、上手く笑えてるかどうかわかんないけど。


「き、北原さんに憧れて来ました!」
「えっ……?」


 今何て言った?私に憧れて来た?いやいや、憧れるならそれこそ麻友や莉乃ちゃんや珠理奈にだろ。私に憧れるなんてそんなこと。そんなこと……。
 堪えきれず、次の瞬間にはその子を思い切り抱き締めていた。いやいやいや、マジで嬉しい。嘘でもそんなことを言ってくれるなんて嬉しすぎる。


「う、嘘じゃないです……!大好きです!」


 私の腕の中で、その子は小刻みに震えていた。震えながらしっかりとそう言ってくれた。あー、もう泣きそうだ。泣きたいのはこの子の方かもしれないけど、でも私だって本当に嬉しいんだ。こんな私を好きって言ってくれること。憧れてくれていること。アイドルだったらファンの方達に応援されてなんぼかもしれない。でも同じくらいに、私が誰かの夢になれたことが嬉しくて仕方がない。AKB48で良かった。頑張ってきて良かった。


「ありがとう!これから一緒に頑張って行こうね!」
「は、はいっ!」


 あー、この子を思い切り可愛がろう。この子達を思い切り可愛がろう。今まで人見知りなんて理由で敬遠してきた私だから。今のこの立場にいることを証明するために、全力で可愛がってあげよう。単純?何度でも言え!褒められりゃ嬉しいもんだろうが!


「あ、あの」
「ん?何?何でも聞いて!」
「チームBのキャプテンって柏木さんだったんじゃ……」
「あ、あぁ……、ゆきりんね」


 麻友とみるきーの方を見ると、二人は目線を反らして暗い表情をしている。当然だ……。とても急なことだったんだ。ゆきりんは、あんなにチームBのキャプテンとして頑張ってたのにな……。何であんなことになってしまったんだろう。


「良いお母さんだった……ぐすっ」
「こんな私をも優しく受け入れてくれて、ほんま嬉しかったのに……」


 麻友もみるきーも、もちろんそれぞれ思うことがあるだろう。そりゃそうだよ。ゆきりんとの思い出は沢山あって、私達の為に色々なことをしてくれたんだから。あんなに騒いでばかりだったチームBを纏めきってくれていたんだから。


「そんなゆきりんの後を継いで、今日から私が皆のことを」
「アホかっ!!」


 スタジオに飛び込んできたゆきりんに、思いっきり頭を叩かれた。どこで手に入れたんだか見事なハリセンで。


「いったー……」
「いったー……じゃないよ!先に来てるかと思えば何を勝手なことしてんのっ!麻友もみるきーも乗るんじゃない!」


 素晴らしいぐらいに勢いのあるツッコミだった。一年前ぐらいからそのツッコミに磨きをかけている。みるきーの加入、麻友との合わせ技がゆきりんにそういう才能を生み出したらしい。
 はい、ごめんなさい。私が新キャプテンだなんて嘘でございます。もちろんのようにゆきりんがチームBのキャプテンで、私は今も副キャプテンとして頑張っている。


「ごめんね、お母さん!」
「えぇツッコミですね、ママりん!」
「ハリセンなんて何処で……」
「最近ツッコミキャラが板に付いて来たからって、さっきみゃおに貰った」


 あー、みゃおならそういうのシャレでプレゼントしそうだ。さっきまでお仕事で一緒だったしね。まぁもう別れたんだけど。最近個人での仕事が増えたみゃおは、その独特の起爆力が人気に火を付けてトーク番組に引っ張りだこ。少し大人になったみゃおはストレスを溜めずに、真っ直ぐと前を見ながら頑張っている。
 で、ゆきりんね。ゆきりんはゆきりんで、あっちゃんが卒業してからと言うもの、大きく揺らいだAKB48の屋台骨を支えるために超選抜、そしてキャプテンの一人として奮闘し続けた。長年にわたって続いている佐江ちゃんとの交際には、ちょっとぐらい進展もあったのかもしれない。


「交際してないっつーの!」
「はいはい、それより自己紹介っ」
「あ、そうだった!寝ても覚めてもゆきりんワールド!夢中にさせちゃうぞっ!ゆきりんこと」
「のわぁっ!」


 研究生の皆もゆきりんの自己紹介に目を輝かせていたのに、麻友のいきなりの素っ頓狂な声に、スタジオ内の全ての視線がそっちに振り向いた。麻友が携帯電話を見つめて大きな口を開けていた。こんなに驚いている麻友の顔は、最近じゃ滅多に見なくなったのに……なかなかレアな物を見ている。


「どうしたん?」
「ゆ、優子ちゃんが……帰ってきたって!」
「優子ちゃん!?」


 優子ちゃんってあの優子ちゃん!?私が憧れる事務所の大先輩。この二カ月、アメリカに渡っていた優子ちゃんが……ついに帰ってきた!麻友が見せてくれた携帯電話にはニュースの記事。最新ニュース、大島優子帰国。





71-3≪小嶋陽菜≫



「優子が帰ってきたってー」
「ほんとに?」
「うん、ほら」


 ちょっと遅めのお昼御飯を街角のカフェで一緒に食べながら、麻里ちゃんに私の携帯電話を見せる。長くアメリカに行っていた優子がやっと帰ってきた。連絡もよこさずに。何も言わずに帰ってくるような勝手な所、全然変わってないな。AKB48を離れて一人で頑張ってきて、それでもやっぱり優子は優子。あっちゃんが卒業してからも何も変わらないように。


「もちろん、変わる必要は無いよ」
「まぁねー。麻里ちゃんも何も変わってないし」
「あら、そうかしらっ!」


 ふっふっふと、不敵な笑みを浮かべながらアイスティーを飲む麻里ちゃん。未だに現役のメンバーのまま28歳児と呼ばれるようにまでなった。あと1年半でついに30歳に突入する。AKB48で最年長でありながら、今も研究生の子達にとても優しく誰からも慕われる存在。この前も13期14期の皆が頑張ってる中に飛び込んでいって、お昼御飯デザート付きを差し入れをしていた。


「最近稼いでるもので」
「ごちそうさまー!」
「しょ、しょうがないなー!陽菜がそこまで言うんなら車ぐらい買ってあげるよっ!」
「いいよー、免許持ってないし」


 二年前に発足したAKB48自動車部によって、今まで免許を持ってるメンが居なかったAKB48にも何人か免許取得者が現れた。チームAだったらちぃちゃんと、まさかのはるごん。ちぃちゃんは納得出来るんだけどさ、はるごんが自動車の運転できるようになるなんてねぇ……。仮免試験に何回か落ちながらも、やっとのことで習得した免許は週刊AKBで特集を組まれて、結構感動できる編集になっていた。いやー、それでもはるごんの車には乗りたくないな。
 まぁそうは言ってもはるごんははるごんなりに成長した。はるごんだけじゃなくって、チームAでは年下のらぶたん、わさみん、あーみんもそれぞれが成長してる。一年前にやっと始まった7th公演において、スキルがぐんとアップした3人が組んだユニットは劇場を物凄く盛り上げてる。


「麻里ちゃんもそろそろ劇場戻ってきてよー」
「いやー、行きたいのはやまやまなんだけどさ物凄く忙しくて」


 そう言いながら、麻里ちゃんは膝の上にスケッチブックを乗せてペンを走らせる。その持前のセンスを生かして、前々からやっていたデザインのお仕事を続けていた。デザイン兼モデル、そしてアイドル。その掛け持ちはなかなか忙しいんだろうね。もちろんそれはしょうがない。


「薫ちゃん、ずっと頑張ってるんだから」


 どんどんと進化を続けるAKB48に、ついに最後のチームであるチーム8が発足された。選抜メンバーには、研究生として頑張り続けていた河童のいずりな、まりんちゃんこと小林茉里奈ちゃん、もう一人の小嶋であるなっつん、自らの力で再び注目され始めたゆかるん。そしてついに薫ちゃん、光宗薫ちゃんが正規メンバーに昇格した。似合っていた短い髪を少し伸ばして、筋肉を付けた手足は少しだけ太くなった。苦手だって言ってたダンスも上手くなった今、ポスト篠田麻里子と言われてる。


「麻里ちゃんのアンダーやってる姿見るとさ、昔の麻里ちゃんそっくりで仕方ないよ」
「本当にありがたいよ。そんな薫にね、今度お礼してあげるんだ。じゃじゃーん」


 麻里ちゃんが見せてくれたスケッチブック。そこにはスタイリッシュな雰囲気の水色のドレスが描かれている。とても綺麗。私も着たくなるぐらいに綺麗。すごいなー、麻里ちゃん。私にもこういうデザインが出来たら良いのに。
 私は、私なりに頑張ってる。あっちゃんが居なくなってから、どうすればいいのか、あっちゃんの抜けた穴をどう埋められるか考えながら頑張ってきた。でも私は……そんなに頑張らなくても良いのかなって。麻友や珠理奈、さっしーやきたりえが頑張ってくれてるから、私はもう良いのかなってある時気付いた。私は私に出来ることだけを頑張ればいい。バラエティー番組に出たり、グラビアの撮影したり、歌を歌ったり、それでたまに困ってる後輩ちゃん達を励まして上げられればそれで良いんだ。頑張っても悩む子は沢山いて、そんなメンバーを支えてあげたい。皆の笑顔が好きだからね。


「今度のファッションショーで着せてあげるの?」
「うん。それに、こっちは陽菜の分」
「え……」


 画用紙を一枚めくると、深紅のドレス。有吉AKB共和国で着させて貰ったものとはちょっと違うウェディングドレスタイプ。フワフワしたスカートと、長いベール。とても……綺麗。


「これ……」
「陽菜は、私の心友だからね。いつか誰かのためにドレスを着るかもしれないけど、その前に……私の為に来てよ」
「麻里ちゃん……ありがとう」


 これは……、これは本当に嬉しいサプライズだな。今までAKB48で体験してきたサプライズよりも驚いた。こんなに綺麗なドレスを着れるなんて、私も幸せ者だなー。


「そうだ。麻里ちゃん……いつ発表するの?」
「うん。そろそろだよね……。リクエストアワーにしようかなって思ってる」


 麻里ちゃんが、ついに卒業を決めたんだ。私と秋元さんにしか離してくれてない。大好きなAKB48に別れを告げることは、麻里ちゃんとしては本当に覚悟がいることだったろうな。最年長なんて言われても気にせず、いつでも子供みたいに走り続けてきた9年。


「大好きだけど……あっちゃんだって胸を張ったんだからさ」
「そっか……。淋しくなっちゃうね」
「これからは最年長よろしく!」
「それは嫌だなー」


 麻里ちゃんは快活に笑う。もう覚悟を決めてるんだろうね。こうして笑ってるけれど、多分発表の時には泣いてしまうと思う。それぐらいに麻里ちゃんがAKB48を好きなことを知ってるもん。


「みなみのこと……頼むね」
「うん。任せて」


 私ももうそんなには長くないと思う。けど、たかみながAKB48に残ってる。小さな巨人は今でも頑張り続けてる。泣き虫はいつになっても直らない。でも誰よりも重いものを背負いながら、皆を引っ張り続けている。あっちゃんが卒業して……そして才加が卒業してからもずっと。




◆ 


71-4≪峯岸みなみ≫



『大島優子帰国』
『秋元才加、主演舞台のチケット発売開始』


 2人のニュースが並んでるなんて、チームKの私としてはやっぱり感慨深い並びだな。うん。2人が頑張ってるんだから、私も頑張んないといけないね。たかみながチームAを、ゆきりんがチームBを守ってるんだから、私はチームKを全力で守ろう。初期メンのプライドにかけてでも!


「燃えてるねー、みぃちゃん」
「友ももっと燃えろよ!」
「みぃちゃんが燃えてるから私は大丈夫」


 そう呑気に言いながら、友は客席に腰かけて足をぶらぶらさせていた。ザ・マイペース。あっちゃんが卒業しても、才加が卒業しても、K7thが始まっても、その独特のマイペースは貫き通してる。まぁそうしてくれてる方が私としては安心なんだ。ずっと同じチームで頑張ってる友がいてくれて、本当に安心。
 今日はこれからK公演。午前のお仕事を終わらせて、お昼ごはんを食べてから劇場にやってきた。日に日に気温が下がっていき、劇場の床も冷たくて仕方ない。もちろんステージの上は練習しているメンバーの熱気で熱くなっている。


「クリス、脚もっと上げられるよ!」
「オッケーッ!」


 ステージを観客席の中心から眺める梅ちゃんが声を上げた。チームKの現役メンバーでありながらダンスのコーチも兼任するようになった梅ちゃん。ステージで公演のユニット曲を練習中のクリスやウッチーに熱心に指導中。チームAのなっつみぃとともに研究生のダンスコーチをしているが、やっぱり元々ダンスが好きなだけあって随分と熱が入ってるらしい。そんでもって若い子も好きだから笑顔に包まれたスタジオになってるみたい。まぁ今日は梅ちゃんが公演、なっつみぃは外の仕事があるからスタジオには夏先生が行ってるのかな。


「やっぱ、梅さんの指導は凄いなー」
「おぉ、由依。優子何だって?」
「今空港みたいやよ。前田さんが一緒におるみたい」


 電話の為に裏に行っていた由依が戻ってきた。長く伸びた髪を後ろで一つにまとめたポニーテール。


「え、何故あっちゃん!?」
「急に現れたらしいですよ」
「さすがだな……、あっちゃんは」
「確かにー」


 9期で一番の後輩の由依だけど、共同生活からどんどんと自信を付けて、梅ちゃんから教えて貰ったダンスと歌声を武器に、最近は先輩風吹かすようになった。


「先輩風って……。そんな偉そうでは無いやん!」
「偉そうじゃないねー。この前も梅ちゃんのレッスンに付いていってたくせにぃ?」
「あ、あれは梅さん一人じゃ大変やから!」


 妙な自信は性格の方にも表れている。共同生活の終盤で過ごしたマンツーマン生活。そこで才加から開き直ること、遊び心を持つことを教わったらしくて、生真面目な性格から柔軟さも覚えたらしい。


「まぁ頑固なのは変わんないけどなぁ」
「みぃちゃんこそ尺取り虫直ってないやんか!」


 うぐっ……!いや、だけど尺は欲しいもんじゃん。レギュラー番組だっていくつか貰えるようになったんだからさ。もっと世間に切り込んでいけるように、研究生や後輩を引き立てて上げられるように磨いていきたいんだもん。


「練習中なんだからさ、2人とももう少し静かにしてよ」


 そう言いながらクールな顔でともちんの後ろの席に座ってるのは、チームKの新キャプテンに就任した萌乃だった。私と由依と萌乃の副キャプテン争奪は結局萌乃が勝ち取ったのだ。やっぱりあの年の春のコンサートで皆を上手く纏めていたことや、優子や才加、佐江からの信頼が大きかったらしい。まぁそれもそうだろうね。新しい風を
取り入れたいんだから、初期メンである私が副キャプテンなんて以ての外だと思うもの。私が秋元先生だとしても、やっぱり私を選ばないと思う。
 クールな萌乃の前で、ともちんはやっぱり楽しそうに笑っていた。


「そんなに気張ってたってしょうがないよ、副キャプテン」
「そ、そうは言っても今日は久しぶりに皆が集まるんですから気合い入れんとアカンでしょ!」
「由依の言う通りだよ、ともちん」


 萌乃もステージを見つめながらそう言った。メンバー一人ひとりが自分の夢の為にどんどんとAKB48以外での仕事を増やしている。今のこの時間だって、佐江ちゃんがまだ来てない。れいにゃんやあやりんもまだだ。でも今日は特別な日だから、時間までには全員来るはず。


「次、みぃちゃん達の出番だからね」
「おっしゃー!行ったるか、ともちん!」
「行っちゃおうかー」
「初期メンのプライド、見せつけてやろうぜぃ!」
「だからもう少し静かにやってってば!!」


 あと数日で10周年目を迎える秋葉原AKB48劇場に、萌乃の怒号が響いた。



Amebaおすすめキーワード