「強行採決」発言 おごりと慢心極まった

外園 伝
2016/10/24 19:34

 国会で圧倒的な「数」を誇る政権、与党のおごりと慢心が極まったのではないか。閣僚の発言として見過ごすわけにはいかない。

 環太平洋連携協定(TPP)承認案を巡る山本有二農相の「強行採決」発言が波紋を広げている。反発した民進、共産両党は先週末の衆院TPP特別委を欠席、週明けの展開も不透明になった。

 山本氏は18日、佐藤勉衆院議院運営委員長(自民党)のパーティーで「強行採決するかどうかは佐藤氏が決める」と述べた。強行採決も選択肢になると受け取められる。

 農相辞任を求める野党に対し山本氏は、発言を撤回、謝罪したとして辞任を否定した。だが、この発言は単なる政権の「緩み」で片付けられる問題ではない。

 TPP承認案は今国会最大の焦点であり、国民の関心が高い。農業分野で多大な影響を受ける地方は、政府の説明が十分でないことに強い不満を抱いている。

 特に輸入米の売買入札で不透明な取引があった問題で、政府は「国産米価格に影響を確認できない」として幕引きを図った。しかし調査が足りないとの指摘は多く、農業者の疑念は晴れていない。

 農相は、疑問の一つ一つに対して丁寧に説明し、協定への不安を解消する役割と責務がある。その担当閣僚が説明不足のまま、自ら審議打ち切りに言及するとは、開いた口がふさがらない。

 さらに行政府の閣僚は、立法府の国会に対して議案審議をいわば、お願いする立場にある。逆に行政が立法に介入するかのような言動は、なおのこと問題をはらむ。

 TPPを巡る「強行採決」発言は、これが2度目だ。9月には自民党衆院議員が「強行採決という形で頑張らせてもらう」と述べ、特別委理事の辞任に追い込まれた。

 特別委で安倍晋三首相は「強行採決を考えたことはない」と火消ししたが、数で押し通すのが政権の本音ではないかと疑わざるを得ない。

 解せないのは問題発言が続いたにもかかわらず、政府、与党が10月中に承認案を衆院通過させる姿勢を崩していないことだ。安倍首相の強い意向があるとみられる。

 条約と同じ扱いのTPPは衆院採決が優先され、月内に通過すれば今国会での承認が確実になる。米大統領選を前に、米国に対して日本の意思を示す狙いもあろう。

 しかし現状では農業への影響や食の安全などに対して十分な説明が行われたとは言えず、農業者や消費者の不安は全く解消されていない。

 月内衆院通過の日程にこだわる国会運営をすべきではない。まして強行採決を行えば、今後に禍根を残すだろう。

http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2016/m10/r1024.htm






風 土 計

2016.10.24

 2度の世界大戦、頻発する国際紛争と内戦により「戦争の世紀」とされた20世紀。故国を去らざるを得ない人々が生まれ「難民の世紀」とも呼ばれる

▼紛争は絶えることなく、世紀をまたいで難民は増え続ける。昨年9月、難民を乗せたボートが転覆しトルコの海岸に打ち寄せられた男児の遺体の写真が世界を駆け巡った。各国が相次いで人道的対応を表明したのは記憶に新しい

▼陸前高田市など被災地を撮り続けるフォトジャーナリスト安田菜津紀さんは、シリア難民のキャンプで子どもにカメラを向ける。楽しげな表情を見せるが「笑顔の裏に不安や葛藤がある」と感じた

▼きょうは国連デー。1945年に国連が正式発足した日。次期事務総長に決まったアントニオ・グテレス元ポルトガル首相は、国連難民高等弁務官を務めた経験を持つ政治家だ

▼演説で「紛争やテロ、人権侵害、貧困の犠牲者に奉仕するために必要となる謙虚さを感じている」と弱者救済に全力を挙げる決意を示した。平和維持を目的に創設された国連の活動は今や多岐にわたる

▼難民が置かれた貧困と差別はテロの温床となる恐れもはらむ。「子どもたちはその社会の指標」と安田さん。少年少女が本当の笑顔を見せられる世界。彼らのために国際社会の一員として日本、そして一人一人ができることを思う日にしたい。

http://www.iwate-np.co.jp/fudokei/y2016/m10/fudo161024.htm