$丸次郎「ショートストーリー」
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会社設立 大阪市 プロマイドギャラリー 岡田有希子 $丸次郎「ショートストーリー」

 
🔸現在、連載物は以下8作品になります。

下記タイトルをクリックすると、ご覧になれます。


『時を越え』(全3話)

平成22年6月26日スタート

『愛たい人』(全6話)           📖       

平成22年7月18日スタート     

『探検』(全2話)              🐎

平成22年10月11日スタート

『人と人』(全11話)                  
平成22年12月2日スタート    

『欲日の黄昏』(全19話)       

平成23年4月3日スタート

『マシンと俺と彼女』(全6話)
平成23年8月22日スタート

『恋・・・のような』(全46話)         🌲
平成24年11月8日スタート

『彷徨える未練』(全77話)      🎶 

平成26年3月22日スタート

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January 15, 2017 23:00:09

ショートストーリー899

テーマ:小説
夕陽が優しく照らすバス停で、いつものように泰志は帰りのバスを待っていた。

いつもと同じ時刻のバスを、いつもと同じ顔ぶれが、その日も並んで待っていた。


いつもより2分遅れで来たバスに乗り込むと、泰志は前方の席に座り、「ふぅ~~」と息をついた。


暖房のよく効いた車内は、ほどよい振動と相まって泰志をすぐさま眠りへと誘い、次のバス停に着く前に、すでに眠りに落ちていた。



泰志は夢の中でも、バスに乗っていた。


乗客は自分と、もう一人。。。見知らぬ美女が通路を挟んで真横の席に座っている。


彼女は姿勢よく座っていて表情ひとつ変えず、凛とした雰囲気で前方を見つめている。


その美女が、気になって仕方がない泰志。


バスのエンジン音と振動音が交錯する中、意を決し、泰志は彼女に声をかけた。


「こんにちは!...」


彼女は横目で泰志を見ると、何も言わず、そのまま泰志の言葉を待っているようであった。


泰志は緊張しながらも、言葉を続けた。


「今日は寒いですね。。。お仕事の帰りですか?」


泰志は微笑みながら、なるだけ明るい口調でそう言った。


彼女は、そんな泰志に、やや警戒心を抱いているようで、怪訝そうな顔をし無言のまま頷いた。



泰志は「はぁ~~、やっぱり駄目か...。」と、心で呟くと「明日は暖かくなるといいですね!」と、他愛もないセリフを言い、前を見つめた。



泰志は、そんな自分がつくづく嫌になった。


バツが悪くなった泰志は目を瞑り、寝たふりを始めると、自動音声のアナウンスが間もなく次のバス停に着くことを伝え始めた。



すると停車ブザーが鳴り、バスは徐々に減速していった。


乗客は泰志以外に彼女しかおらず、次のバス停で彼女が降りることは、すぐに分かった。


自分が声をかけたことで彼女に不快な思いをさせたような気がし、泰志は、そのまま気づかぬふりをし寝たふりを続けた。


バスが完全に停車し、乗降口の扉が開くと、彼女が運転席の脇にある運賃入れに小銭を投入している音が聞こえてきた。


泰志は寝たふりをしつつ、心の中で「お嬢さん、お元気で...。」と、別れの挨拶をすると、切なくなって思わず唇を噛みしめた。


再び、バスが動き始めた時、泰志は顔を上げ、車窓から歩道に目を向けた。


「あれ?...今、降りたばかりなのに、バス停にも歩道にもいない。。。」


きっと急いで帰ったのだろうと思い、さほど気にも留めず泰志が前を見ると、視界の片隅に女性らしき姿を感じ、泰志は驚いて顔を真横に向けた。



すると、そこには先ほど停まったバス停で降りたと思っていた美女が、同じ席にまだ座っていた。


泰志は背筋がゾッとし、見てはいけないものを見てしまったような気がした。


泰志は、すぐさま視線を前に向けると、再び寝たふりを始めた。


今度の寝たふりは、バツの悪さからではなく、恐怖からであった。


「確かに俺と彼女しか乗客はいなかった。...そして停車ブザーが鳴って、前のバス停で1人、小銭を払って誰かが降りている。...なのになぜ、まだここに彼女がいるんだ?」



その時、泰志は不意に肩を叩かれ、怖くて思わず「うお~っ!」と驚きの声をあげ、目を開けた。



するとそこには運転手が立っていて、穏やかに微笑んでいた。


「お客さん、終点ですよ。...渚原バス営業所です。」


熟睡し、終点まで乗り越してしまったことに気づいた泰志は、先ほどまで居た不思議な美女が単なる夢であったことに安堵すると共に、だいぶ乗り越してしまったことを後悔した。


泰志は仕方なく終点までの運賃を払い、バスから降りると、すっかり暗くなった空を見上げ、「ついてねぇ~なぁ...」と呟いた。


終点は泰志の住む地区から10km以上離れていて、この寒さと空腹の中、歩いて帰る気には到底なれなかった。


泰志は、バスの営業所に行き、電話帳を借りると携帯をかけ、タクシーを呼んだ。



「ここからタクシーだと、どれだけ運賃が掛かるのかな?...あ~~、もったいない!」



泰志がそう思っていた時、営業所の事務員らしき男性が外に出てきて、泰志に声をかけてきた。


「すいませ~ん!...この方も乗り越してしまったようなので、タクシーに同乗させて頂いても宜しいでしょうか?」


振り向いた泰志は事務員の話しを聞き終えると、暗闇でよく見えない、もう一人の人影に目を向け「私と同じ方面に行くならば、別によろしいですよ!」と、答えた。



すると事務員の傍にいた人影が泰志のほうへと歩き始め、徐々に近づいてきた。


泰志は内心「これで、運賃を割り勘できるかも!」と思い、少し得した気分になった。



同乗する人物が泰志の近くまで来た時、ようやく外灯に照らし出されたその姿を見て、泰志は思わず息を呑み、言葉を失った。



「すいません。..私も同じ方面なので、タクシー、御一緒させてくださいね。」


そう言って頭を下げたその女性は、紛れもなく泰志が夢の中で遭遇した、あの美女であった。



耳に付けたピアス、長い髪を止めているリボン、淡い紫のセーターにダークブラウンのコート。。。ファッションまでもが夢で見た美女と全く同じであった。



しかし泰志は何故か、あまり恐怖感を覚えず、むしろ温かな気持ちに包まれていた。


「私も眠っているうちに乗り越しちゃって。。。バスって眠くなりますよね。」

彼女は恥ずかしげにそう言うと、微笑んでみせた。


「ええ。あのちょうどいい暖房と路面から受ける振動が、やけに眠気を誘うんですよ。」

泰志もまた照れ臭そうに微笑みながら、そう言った。

タクシーを待っている間、初対面とは思えぬほど、ごく自然に会話が弾み、泰志は久しぶりに楽しいひと時を過ごしているような気がした。




「今日は、ほんと冷えますね!...乗り越さなければ今頃、とっくに家で風呂に入れていたのに(笑)」


タクシーの後部席に彼女と並んで座りながら、泰志がそう言った。


二人の間には、一人分以上の間隔が空いていた。


「私も。...今頃、お風呂からあがって、彼に頬ずりしている頃かな。。。」


彼女は笑みを含んだ声でそう言うと、泰志の横顔にチラッと目をやった。



「彼にですか?...ラブラブでいいなぁ(笑)」


泰志は苦笑いをしつつ、なぜか残念な気分でそう答えた。



「うふふっ(笑)...勘違いしないでくださいね!..彼といっても愛犬のチワワですから。..もう、老犬なんですけどね!」

彼女は、どことなく嬉しそうな声でそう言うと、うつむいた。



「あぁ!...飼っていらっしゃるワンちゃんのことでしたか!...あ~~、なるほど!長年可愛がっていたら、そう呼びたくなる気持ち、分かります。」


泰志は、そう答えた後、内心喜んでいる自分に戸惑っていた。


やがて泰志が住むアパートの近くにタクシーが停まると、泰志は、そこまでの運賃を支払った。


「運賃的には、一人で乗車した場合と同じだったけれど、お金には代えられない幸せなひと時を与えてくれた、この偶然の出会いに感謝しなきゃ。。。」


泰志は、そう思いながら後部ドアが閉まる間際、「あなたと、お話できて嬉しかったです!...それじゃ、お気をつけて!」と、笑顔で言い、頭を下げた。



すると彼女もまた笑みを浮かべ「私もです。。。また、お会いできるといいですね!...たとえ、夢の中であっても..。」と、答えたのであった。



ドアが閉まり、タクシーが静かに走り始めると、泰志は、遠ざかってゆくテールランプを見つめながら小さな声で呟いた。


「たとえ、夢の中であっても..か。...確かに、あなたと逢う前、俺は夢の中で、すでに逢っていたよ。。。でも現実の君のほうが、ずっと素敵なレディーだった。..ありがとう。..また、逢えるといいね!」



今年初めての雪が降った、その日....


泰志の心は、いつまでも優しい温もりに包まれていた。。。。











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January 08, 2017 23:44:35

ショートストーリー898

テーマ:小説
「消えてしまいたいなぁ。..誰にも気づかれることなく、風のように...」


知也は、弓香に会うと、決まってそう呟いていた。


「それは、私だって同じよ。...出来ることなら、誰も知らない南の島にでも飛んで行きたい気分。...」


己の人生に希望も夢も感じられず、ただ機械的に生きているだけのような日々が、弓香にそう言わせていた。

そしてその言葉が、知也の心に、どう受け取られ、解釈されたのか、それは弓香にも今以て分からない。


ただ、一つだけ言える事は、あの日以来、知也からの連絡はおろか、消息さえも途絶えてしまった...ということであった。



身寄りのない、孤独な男だった。。。

決して意地が悪いわけでも、冷たい奴でもなかった。むしろ弓香から見れば素直で優しく真面目で、好感の持てる人物であった。


だが、この世の中は、そう単純でもなく、往々にして要領がよく狡猾な者が得をし評価されたりする。


知也は、どう足掻いても、そんな人間に変われるような男ではなかった。

もし、知也にそんな器用さがあったならば、弓香のほうから先に離れていったに違いない。


会う度に厭世的とも受け取れる言葉を口にし、とりわけ歪みきった権力に対しては異様なほど怒りを露わにしていた知也...。



ある時、弓香は、そんな知也に、こう言った。


「だからといって、あなた独りで何が出来るというの?...私達は所詮、権力者にとっては下僕みたいなもの。それがどんなに理不尽で不条理に満ちていようとも、法という名の鎖で縛られた社会では従うほかないのよ。...」


すると、知也は珍しく弓香を睨みつけ、声を荒げた。


「そういう諦め根性が、この国には蔓延しているんだよ。..どうせ駄目だとか、どうせ無駄なことだとか、この国の民たちは端から権力に歯向かうことを放棄している。...権力の奴隷や下僕であることが庶民の生きる道なのだという鬱屈とした思想が、暗黙の了解のように隅々まで浸透しているんだ。...だから権力にたいし言いたい事も言わず、無難な言葉で己の意見を曖昧にするような輩ばかりがテレビや新聞に居座っている。...国民は、そのフラストレーションと日頃のストレスを自分より弱き者へとぶつけている。子供達のいじめも原理は同じだよ。」


知也は怒りを込めた声で淡々とそう言うと、弓香に煙草を一本要求した。


「まぁ、そんなに熱くならないで。知也の言ってることは全部じゃないけど、ある程度、納得できるわ。...この国のテレビや新聞は官公庁の発表を、ただ垂れ流すだけ。悪い事であっても利益になることならば従い、さも善い事のように報じるのよ。...権力の言うままに国民を誘導するのが役目なのかもね。...バレないように、あくまでも偽善面でね。」


弓香は、そう言ってオイル切れ間近のライターで煙草に火を点けてやると、知也は、美味そうに煙を吐き出した。



「闇は相当深いな。この国...知れば知るほど闇の深さに怖気づき立ちすくんでしまいそうだ。」


知也は、まるで、すでに何かを知ってしまったかのような口ぶりでそう言うと、弓香を横目で見つめ、不敵に微笑んだ。



その後、弓香は、知也が何か話し出すまで口を閉ざし、その間、暫し店のBGMに耳を傾けていた。。。



カンパリ・ソーダのほろ苦さが、渇いた口と喉を滑り落ち、胃袋へと流れてゆく。


結局、弓香が知也とまともに話したのは、それが最後になった。。。


あの日、深夜0時過ぎにバーを出て、氷雨降る薄暗い路地を並んで歩いていると、知也は、ふと思い出したように口を開いた。


「弓香には感謝してる。..君に会えて良かった。...ほんと、ありがとな。」



その時、弓香は知也のその言葉を、ただ漠然と受け止めていたが、今にして思えば、知也なりの“別れの挨拶”のようにも感じられた。



曲がったことが嫌いで、正義感が強く、不器用すぎるほど不器用でシャイな知也...。


そんな知也にとって、この社会は酸欠状態のように息苦しく、ペテン師から説教をされるが如く矛盾に満ちた腹立たしい環境であったに違いない。


そんな知也が消息を絶ち、2年と半年の月日が流れた頃...。


知也の名前を、テレビのマスコットガール的な女子アナが血の通わないアンドロイドのような口調で読み上げた。


休日の午後、リビングのソファーでうたた寝をしていた弓香は、その名前に反応し、目を覚ますと画面を見つめた。



「知也...川で溺れていた老婆を見つけ、自ら極寒の川に飛び込み助け出し、表彰されたのね。。。知也、今、福島にいるのか。...原発事故後およそ6年が経っても、今なお収束の目途さえ立っていない福島原発の辺りにいるのね。...ともかく、知也が生きていることが分かって本当に良かった。。。」



表彰状を授与され、テレビに映った知也の姿は、あの頃よりもだいぶ痩せてはいたが、その眼差しは、シャイだった当時のままであった。


偽善の仮面をつけた矛盾だらけの世に嫌気がさし、出口のない迷路を彷徨っていた知也が、見ず知らずの老婆を、死の淵から救った。


そのニュース映像は、知也から弓香への予期せぬビデオレターのように感じられた。


知也のニュースが終わると、次は、わずか2週間あまりのスポーツイベントに2兆円もの税金をつぎ込むニュースが流れ始め、ジャンヌダルク気取りの知事が画面に映った時、弓香はリモコンを手に取り、テレビの電源をOFFにした。



部屋の窓から見える1月の海は、いつものように穏やかな表情をし、空には透きとおるような青が広がっていた。


見せかけの豊かさを、いつまでも演じ続ける輩たちに、心の中で「ごくろうさん...」と溜め息交じりに呟くと、弓香はキッチンに立ち、夕食の準備を始めたのであった。。。。











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安全地帯                    「君がいないから」 
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December 29, 2016 23:38:14

ショートストーリー897

テーマ:小説
ポテトチップスの空き袋を丸めてゴミ箱に捨てると、和樹はコカ・コーラのプルタブを開け、川沿いのベンチから立ち上がった。


暖かな陽光を受け、穏やかに流れゆく川面を見ていると、時の流れがそこだけゆっくりと過ぎているように感じられた。


コーラの炭酸が鼻から抜けた時、和樹は何故か、懐かしい高校時代を思い出した。


高校2年の春、想いを打ち明けることも出来ないまま、遠い街へと引っ越していった片想いの女の子や、途中で辞めてしまったバスケット部での辛い練習、そして初めてバイトした時の憂鬱さと達成感・・・。


どれも青春と呼べるほどの煌めきや、ときめきは無かったが、今となっては、それも自分にとって、かけがえのない青春だったのだと、和樹は思えるようになっていた。


半分ほど飲んで飽きてきたコーラを、和樹は、どうしようかと迷ったが、川沿いの土手の上を歩いているうちに、いつしか、すべて飲み干していた。


「いつの間にか解決してる。。。きっと人生って、そんなものなのかもな。」


街の中で、ようやく見つけた空き缶カゴに缶コーラを捨てると、和樹は、ふとそう思った。



駅から少し離れた駐輪場で、3日ぶりに自分の自転車に跨ると、和樹は、すぐに違和感を覚えた。


よく見ると、前輪がパンクし、空気がほぼ抜けていた。


「3日前、ここに停めた時は、パンクなんてしていなかったのに。...誰かに悪戯されたな。」

和樹は溜め息をつきながらそう思うと、仕方なく自転車から降り、ハンドルを両手で握りながら自転車を押し、自宅アパートまで歩き始めた。


片輪がパンクしている自転車は路面との摩擦が大きく、上り坂では、なかなかの脚力を要した。


そんな和樹の隣りから軽々と追い越し、上ってゆくミニバイク。


ヘルメットの下から長い髪をなびかせ走り去るその後ろ姿は、和樹に、一抹の侘しさを感じさせた。


「考えてみれば、俺って、いつもこんな境遇だったな。...後から来た人に追い越され、ここぞと言う時には失敗する。...ほんと、情けねぇ~や。」


12月だというのに、長い坂を上り終えた頃には汗だくになり、そんな事を思わずにはいられない和樹であった。



ようやくアパートに辿り着くと、和樹は外したタイヤチューブを水の入ったバケツの中に入れ、空気の泡が漏れ出ている箇所を探した。



「あった。..ここだな。..穴が2ヵ所も開いてる。こんな悪戯をして何が楽しいのだろう?..そいつ、きっと心が荒んでいるんだろうな。」


和樹は、そう思いつつ、応急処置として、穴の開いた箇所にビニールテープを貼ると、タイヤに嵌め込み、空気を入れ始めた。


すると、そんな和樹のもとに見知らぬ男が近寄って来て、和樹が修理する様子を黙って見つめ始めた。。。


和樹は顔を向けて、その男を見ると、男も和樹と視線を合わせた。


男は上下揃いのジャージ姿で無精ひげを蓄え、白髪交じりの髪をオールバックにし、薄茶のサングラスをかけていた。


なんとなく嫌な雰囲気を感じ取った和樹は、無言で無表情の男から視線を逸らすと、再びタイヤに空気を入れ始めた。


すると、すぐに男が口を開いた。


「それな...やったの、俺だ。」


「...はぁ?」


和樹は一瞬、唖然としながらも、男が冗談を言っているのだと思った。


和樹が再び男の顔を見ると、男は悪びれる様子もなく、相変わらず無表情のまま自転車を見つめていた。


その目からは感情のようなものが感じられず、まるで魚か、トカゲのような目をしていた。


「つまり...あなたが、私の自転車をパンクさせたってことですか?」

得体の知れない相手を前に、少し恐怖感を抱きつつ、和樹が尋ねた。


「だから、さっきからそう言ってるじゃん。...俺がやったって。」


男はマネキンのように表情を変えることなく、口だけを小さく動かし、淡々とそう答えた。


「こいつ、ちょっと、おかしいんじゃないか?」


和樹は心でそう呟くと、どういう言葉を返そうか、考えた。


反省の色が全く見えない相手に喧嘩腰で言い返せば、相手は更にエスカレートして何をしてくるか分からない。


被害を与えた相手に対し、物怖じすることなく堂々と自白してくること自体、和樹にとっては挑発行為にしか見えなかった。


「私に、何か恨みでもあるんですか?」


タイヤに空気を入れ終えた和樹は、さり気なく男に目をやり言った。


男の目は和樹にではなく自転車へ向けられ、和樹の問いかけを無視しているかのように黙っていた。


和樹は直感で、これ以上この男に関わらないほうがいいと思い、とりあえず自転車に跨り、ペダルを漕ぎ始めた。


このままアパートの部屋に入れば、この不審な男に住んでいる場所まで知られてしまうと思ったからであった。


その時であった...。


「おい、逃げるのか?...和樹さんよ!」


男は初めて大きな声をあげ、そう言った。


和樹は自分の名が呼ばれたことに驚き、ブレーキをかけるとペダルから両足を降ろし振り向いた。



男は薄ら笑いを浮かべながら、和樹の目をじっと見つめていた。


「なんで、俺の名前を知っているんだ?」

和樹は背筋に冷たいものを感じつつ、そう訊いた。


「俺の顔、よく見ろよ。...見覚えないか?」

男は先程までとは打って変わり、柔和な表情を浮かべ、和樹にそう問い返した。


和樹は男の目鼻立ち、輪郭、声などを頼りに記憶を辿りながら、この男が誰であるか考えた。


しかし、いくら思い出そうとしても男の名前や自分との関係について、何ひとつ思い出す事が出来なかった。


すると男は、答えらしき事を口にし始めた。

「俺は、今から15年後の和樹だよ。...つまり君は、15年前の俺ってわけ。...これでも今、俺は役者をやってる。チンピラ役専門の大根役者だけどな。...これから15年後、君は15年前の自分を見つけ、自分の存在を過去の自分に話したいが為に彼の自転車をパンクさせることだろう。...そう、今の俺みたいにね。...きっと。」


和樹は男の話しを聞きながら「こいつ、やっぱり変な奴だ。。。」と、思っていた。


ただ、男がサングラスを外し、髪を真ん中から分けてサイドに流し、少し若返らせたら、今の自分にかなり似ているような気もし、和樹は気味が悪くなった。


「そうですか。...まぁ、15年後、人の自転車をパンクさせて平然としているような人間にならないよう、せいぜい気をつけますよ。...ご忠告、ありがとう。」


和樹は、そう言って適当に男をあしらうと、自転車を走らせ、気分転換のため海浜公園へと向かった。


「まったく、何言ってるんだ!?あの男。...何が15年後の俺だよ。..あいつ、SF漫画の読み過ぎじゃないのか?...」


和樹は、そう思いながら坂道を勢いよく下っていった。。。



この時の和樹には、男の話しが嘘偽りでは無いことなど、知る由もなかった。。。。











懐かしのヒットナンバー 
原田知世                   「時をかける少女」
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