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京都の会社設立屋が送る時計

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2012年05月25日(金) 17時44分52秒

ショートストーリー620

テーマ:ブログ
愛は、時に世を動かすほどの力を生み出すこともある。

男と女が織り成す愛の形は様々だが、男女の愛が一つになって固く結びついた時、その愛は二人の想像を遥かに越えたエネルギーとなり、有形無形の事象を生み出してゆく。


今から30年前。。。
香奈子は良家の次女として生を享けた。周囲が羨むほどの美貌と知性を兼ね備えた香奈子は、名門私立の小中高一貫学校を卒業すると、やがて東優大学医学部に入り、看護の勉強に励んだ。


家族や友人らは、優秀な香奈子に、女医か医学部教授を目指すべきだと進言したが、香奈子は頑なに拒み、看護のスペシャリストになる道を選んだのであった。


香奈子なりに充実したキャンパスライフを送っていた、大学3年の夏。

香奈子は、後に自分の人生を変えることになる一人の男と出会った。男の名は研一といい、プロカメラマンの助手をしながら、夜は国道沿いのラーメン屋でアルバイトをしていた。

ジーパンにTシャツにスニーカー。。。それが研一の定番ファッションだった。
夜10時を過ぎると、タクシーの運転手や、トラック運転手が訪れ、明け方近くになると近くの盛り場で仕事を終えたホステスが、疲れた顔でラーメンを食べに来た。。。真夜中のラーメン屋の客たちは、皆、それぞれに厳しい日常と向き合いながら、僅かな安らぎを一杯の温かなラーメンに求めているように、研一には思えた。


ある夜、客が引けた店内に、疲れ果てた表情の女が一人、暖簾をくぐり入ってきた。その日の午後、初恋の先輩と別れたばかりの香奈子であった。

「いらっしゃいませ。...」

研一は、寸胴鍋に入った鶏がらスープを柄杓で混ぜながら、そう声をかけた。

香奈子は、カウンター席の中ほどに座ると、溜め息をついてメニューを見つめた。店内にはAMラジオの深夜放送が、静かに「ラブ・ミー・テンダー」を流していた。。。


店のすぐ隣を通っている国道は、時間の経過と共に交通量も減ってゆき、夜の闇をいっそう濃くしていた。

研一は、水とおしぼりを香奈子の前に置くと、優しげに言った。

「お薦めは、左側に書いてある醤油ラーメンです。」

すると香奈子は、クスクスと声を抑えながら笑い始めた。

研一は、予期せぬ香奈子のリアクションを見て、妙に嬉しい気持ちになった。


「それじゃ、醤油ラーメン...ください」

香奈子は肩まで伸びた髪を、手で後ろに流しながら笑顔でそう言った。


このラーメン屋のメニューは、醤油ラーメンと、ライスの大・小サイズしかなかった。だから研一の言葉が、香奈子には可笑しく感じられたのだった。


「あぁ良かった。..じゃぁ、ライスください、って言われなくて」

研一は、照れ笑いを浮かべながらそう言い、麺を茹で始めた。


その言葉に香奈子は再び微笑むと、冷水の入ったガラスコップを両手で持ち、口に含んだ。

その夜、なぜか香奈子のあとに一人も来客はなかった。ラーメン屋の店主は、午前2時になると研一に店を任せ、早帰りしてしまった。

研一と香奈子だけになった店内は、静かな時間が流れていた。初めて顔を合わせた二人なのに、お互いに嫌な感じがしなかった。

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口数の少ない者同士でありながら、なぜかリラックスしていた。

スープまで飲み干した香奈子は、頬を赤くしながら言った。

「とても美味しかったです。ご馳走さま。...また、食べに来てもいいですか?」


研一は、香奈子に礼を言うと、厨房内に置いてあった自分のバッグから数枚のカラー写真を取り出し、香奈子に差し出した。


「これ..私が撮った星空の写真です。宜しかったら差し上げます。」


青白く輝く宝石のようなプレアデス星団や、淡い光を放っているアンドロメダ星雲。その他、何万光年も離れた星団の美しい写真が香奈子の目を釘づけにした。


「凄い。。。プロが撮ったみたい」

香奈子は感動し、瞳を輝かせてそう言った。


研一は、そんな香奈子の安らいだ表情を見つめ、笑みを浮かべた。


「この街にいると、星を見ることさえ忘れてしまう。星を見る余裕さえないと、人の心も見えなくなってしまう。...だから時々、この街から離れて星空に会いにゆくんです。。。」

研一は、そう言うと少しだけ哀しげな目をした。


その後、香奈子は毎週のように研一のラーメン屋に顔を出すようになった。そして、いつしか香奈子にとって、研一は気が置けない貴重な存在になっていた。


翌年の冬。。。

青空の下、研一と香奈子は、一面パウダースノーのゲレンデにシュプールを描きながら、並んで滑っていた。


純白の傾斜を下降してゆく研一と香奈子の距離は、離れては近づき、近づいては離れ、また近づく。。。

それは、まるで二人が心地よい関係を保ちながら、共に支え合って生きてゆく姿そのものであった。。。。



この時、香奈子は心に固く決めていた。

親族や周囲から、どんなに猛反対されても、研一と共に生きてゆくことを。。。。









懐かしのヒットナンバー
松任谷由実    「メトロポリスの片隅で」
2012年05月22日(火) 18時07分06秒

ショートストーリー619

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折り畳まれた手紙が入った洋酒の空き瓶が、遠い異国から波に揺られ、大海原を彷徨い、この浜辺へ辿り着いたのは、今から7年前の、ちょうど今頃であった。

当時、交際を始めたばかりのアケミと、週末に訪れたこのビーチで、私は、その空き瓶を見つけ、手に取った。

アケミは、サングラス越しに私を見つめ、不安そうに訊いた。

「そんなもの、拾わないでよ。..毒ガスとか入っていたら怖いわ!」

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私は、そんな恋人の忠告を聞き流し、瓶の中の手紙を引き抜こうとコルク栓を抜き取り、人さし指を差し込んだ。

コルク栓の朽ちた箇所から海水が染み込み、瓶の中へと入り込んでいた。しかし海水を含んだ手紙は、なぜか破れることもなく私の指先に吸い付き、表に顔を出した。

手紙は青みがかった丈夫な高級紙であった。細長く折られた手紙を慎重に開いてみると、黒インクの万年筆で流れるようなタッチで書かれていた。


「ねぇ、なんて書いてあるの?」

アケミは、私の手元を覗き込むようにして訊いた。


「どうやら、オランダ語のようだ。...学生時代、ほんの少しだけ、かじったことがあるけれど、ほとんど意味不明だよ。...」

期待外れの返事に、アケミは眉を吊り上げ苦笑いを浮かべた。

後日、私は大学時代の恩師で、帝都大学 欧米文化科の桑畑教授のもとを訪ねた。遥々、大海を越えてやって来た手紙を鞄に忍ばせて。。。


桑畑教授は、オランダ語で書かれた手紙に目を通すと、指先でメガネを鼻の上に上げて言った。

「これは、わりと古い手紙だよ。...まず、この便箋に刻印されているマークは、オランダの老舗ブランド、ドリエントゥインタッハ社のものだ。しかし、このドリエントゥインタッハ社は、1936年にレター用紙の製造を中止し、倒産しているのだ。そして、この手紙を小瓶に入れて海へ流したと思われる日付が最後に記されているのだが...」


「桑畑教授....いったい、いつ海へ?」

私は教授の緊迫した目を見て、そう尋ねた。


「1941年11月8日だ。...つまり、太平洋戦争が勃発する、ちょうど一ヶ月前に、この手紙が海へ投函されたことになる」


「太平洋戦争...ですか?」

私は教授から予想外の返答を聞き、唖然とした。あまりにも長い時をかけて、1万キロ以上も海を彷徨い続け、破損することなく私の手へと辿り着いたその手紙に、不思議な縁を感じていた。


「教授、その手紙には、なんと書かれているのですか?」


「今から、日本語訳を言うので、聞いてくれたまえ...」

急き立てるような私の問い掛けに、教授は笑顔でそう答えると、手紙を訳して読み始めた。


「最愛なるエリーゼ...

今、この母なる星は、どこへ向おうとしているのか?

今、人類は、なにを手にしようとしているのか?

私は知っている。一握りの権力者たちが、多くの人々の僅かな富を奪い、己の贅沢な暮らしに注ぎ込んでいることを。

奴らは口をそろえて言う。

これは国民の平和と福祉と命の為に必要な徴収であり、公平な義務であると。

しかし、それらの口上は、一握りの権力者たちが豊かな富を得る為の巧みな話術であることを私は知っている。

もう、見せかけの安らぎなどいらない。欲しいのは、裏切りのない真実の愛だけだ。。。

その時々で態度や言葉を臨機応変に変える人間には、愛どころか信頼さえも持つことが出来ない。

優しさを、道具として器用に使いこなすような人間に、心を許せる訳がない。


人を騙し、人を傷つけ、己の不安を解消するような人間に、愛など存在する筈がない。


気分次第で態度を変えるような人間に、他者を守れる筈がない。

一人の人間にさえ無償の愛を施せない者が、多数の人々の幸せを想う筈がない。愛は未熟なお遊戯でも、おままごとでもない。

順風満帆の時にだけ笑顔で近づいて来て、逆境でもがき、困っている時は、素知らぬ顔で去ってゆくような、上辺だけの人間を愛せる訳がない。


人として、何が一番大切なのか?

その答えが自分と同じ人と、私は生きてゆきたい。。。

苦しみの底から差し出された手を、しっかりと握り締め、優しい光の大地へと救い上げられるような人物こそ、偉大なる存在といえるだろう。


様々な違いを越えて、人と人とが優しく手を繫ぎあい、皆、それぞれに自由な歩調で歩める世界こそ、愛のある本来の世界のように思う。


そんな考え方を、夢物語だと一笑に付して片付けることは容易い。

もう、調和と愛の時代が訪れている。差別と非難と搾取と攻撃の愚かな時代は終わるだろう。

山と海と草原を渡る風の音が、私に、そう告げている。

エリーゼよ、この手紙を君、または君以外の誰かが拾い読んだ時、その時代は紛れもなく、無条件の愛に満ちた協調、正義の世界へと変わってゆくだろう。」


桑畑教授は、そう読み上げた後、手紙を私に返しながら言った。

「この手紙が遥かな時と距離を越えて君の手に届いたのには、きっと深い意味があるに違いない。...今、この国、そして世界が大きく前進しようとしている。それはテクノロジーではなく、人間の意識、心の進歩だ。...君は、半世紀以上前の異国の人間から、その意志を受け取ったのだよ。...」


桑畑教授の言葉は、やや強引で押し付けがましくも感じられたが、その時、私の心に、なにか大きな風が吹き抜けたような感覚が起きたことだけは、今でも、はっきりと覚えている。。。。


「長年にわたり隠され、続けられてきた権力者たちの悪業が、白日の下に浮かび上がり、体制の悪事が暴かれて崩壊し、貧困も争いもない真実の愛に満ちた世界が生まれ始める。。。」


夕暮れの空の下、大学の正門から歩道に出た私は、そう直感したのだった。。。。








懐かしのヒットナンバー
カルロストシキ&オメガトライブ   「君は弱くない」 
2012年05月19日(土) 18時42分30秒

ショートストーリー618

テーマ:ブログ
愛は突然、終わりを迎えることもある。

突然訪れる予期せぬ終焉もあれば、予期していながら迎える終焉もある。

愛の終焉は、お互いの想いが根本的にズレていることに気づいた時から、加速し始める。

「こんな筈じゃなかった。。。なぜなんだ?..あれほど愛し合っていたのに。...」

「こうなる事は分かっていた。...今まで、一緒に暮していたこと自体、無理があったんだ」

男女の数だけ、発せられる言葉は様々であろう。

どんなに短い間でも、本気で相手を愛した記憶が、心に感触として刻み込まれている以上、そう簡単に割り切れるものではない。


別れ。...それは、愛すること以上に強い決意がいる。だから人は、何とかして関係を修復しようともがき、時に深く傷つくのだろう。


様々な想いを胸に秘め、今日も、この街の人々は、それぞれの愛を心のどこかで探し求めている。。。


暑い陽射しが、夏の訪れを感じさせる6月。

昭和50年代初頭に建てられたアパートの二階隅に、祐造は住んでいた。アパートの脇を流れる川は、祐造の故郷を流れている川とは似ても似つかないコンクリート護岸の濁った川。

その川を見る度、祐造は溜め息をついては、空を見上げていた。

入道雲が西の空に浮かんでいる。。。夕刻、雨が降り始める前に、祐造には行かなければならない場所があった。

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二両編成の路面電車が、カタコトと音を立てながら大通りの交差点を通り過ぎてゆく。その光景を見つめている幸枝の瞳には、もうすぐ訪れる別れの哀しさが滲んでいた。


二人が、よく通ったこの喫茶店で、二人は、「さよなら」をする。幸枝には、それがあたかも出会った時から決まっていた運命のような気がしていた。


「俺ね...幸枝の笑顔を見ている時が、一番幸せなんだ。...だから、これからも、その笑顔がたくさん溢れるように幸枝を喜ばせてあげたい。...」

以前、コーヒーの湯気の向こうで、子供のように目を輝かせ、そう言った祐造の姿が、誰もいない向かいの席に、おぼろげに浮かんでは消えていった。。。


さっきまで晴れ渡っていた空が、徐々に暗くなり始め、所々に出来た水溜りのように青空が狭まってゆく。

幸枝が腕時計に目を落すと、祐造と約束した時刻である午後3時30分を指していた。

「最後のデートも遅刻か....祐造らしいわ。..でも、今日はデートとは違う。..」


やがて窓に水滴が付き始め、雨脚は次第に激しさを増していった。傘を持たない人達が、歩道を小走りに駆け抜けてゆく。店の前で雨宿りをしている人。雨に打たれながら交差点を渡る人。一つの傘に肩を寄せ合い入る恋人や夫婦たち。。。


そんな様々な人々の光景が、幸枝の心を揺り動かしていた。

約束の時刻から10分が過ぎ、喫茶店のドアが開いた。幸枝が目を向けると、そこには、ずぶ濡れになった祐造の姿があった。


チノパンのポケットからハンカチを取り出し、濡れた髪と首筋を手早く拭いているその姿に、幸枝は、なぜか笑いそうになった。


「相変わらず、ムードのない人。...」

心の中で幸枝は、そう呟いていた。しかし、それは祐造を卑下しているのではなく、愛にも似た温かな感情が伴っていた。


「まだ、愛している。...きっと、まだ...」

祐造への想いを完全に断ち切れないでいる自分に気づいた幸枝は、リフレインのように、そう自問していた。


幸枝の向いに立った祐造が、真面目な表情で一言、「遅れて、ごめんな...」と言った。

今まで、デートに遅刻する度、何度も聞かされてきたその言葉が、今日は、なぜか新鮮に聞こえた。


「ううん。...私..待ってなんかいない。..ただ、待たされているだけ。...」

幸枝は、そう答えた自分に驚いていた。それは幸枝の潜在意識の中にあった核心のような想いが、言葉になって現れた瞬間でもあった。



「今まで、あなたを待ったことなど、一度もない。....恋愛という名のお芝居の中で、私は、いつも待たされ役を演じていただけよ。...」

幸枝は、そう続けようとしたが、祐造の濡れたシャツを見て思いとどまった。


「俺には、この街が性に合わなかった。...そんな街の中でも、幸枝に出会えたおかげで、俺は今日まで、やってこれた気がする。..」


煙草に火をつけて、苦い煙を天井に吐きながら、祐造は、そう言った。


「幸せにするとか....」幸枝が視線を窓に向けながら、小さな声でそう呟いた。


「え?...」聞き返す祐造。


幸枝は息を静かに吐いた後、やや声を大きくして続けた。


「これから..ほかの女性と付き合う時は、幸せにするとか..たやすく口にしないほうがいいよ。...未完成で終わった時、すごく無様だから...」


そう言い終えると、幸枝は祐造の目を鋭く見つめ、やがて微笑んだ。祐造は、そんな幸枝に返す言葉さえ、見つけられずにいた。。。


幸枝は、隣の椅子に置いたバッグから一冊のペーパーバックを取り出すと、テーブルに置いて祐造に差し出した。


「はい。...あなたから、ずっと借りていた本。..二度も三度も読み返していたから、遅くなってごめんね。....」

幸枝は、真面目な顔でそう言うと、祐造の濡れた睫毛を見つめた。


「遅くなって、ごめんね..か。..俺の常套句を、最後に幸枝の口から聞くとはね」

祐造が素直に発したその言葉に、幸枝は微笑んだ。打算も画策もない祐造の性格を知っているからこそ、幸枝は微笑むことが出来たのだった。


やがて、最後のデートが終わり、喫茶店から出た二人が、別々の方向へと歩き始めた時、暗くなり始めた夕暮れの空に、まばゆい光を放ちながら流星が横切っていった。


涼風が頬を優しく撫でると、幸枝は流星が消えていった空を見上げ、思った。

「遅くなって、ごめんね。...出来ることなら、あなたと、もう少し早く出会いたかった。...」


その言葉の真意は、幸枝と祐造にしか分からない。。。
見えない大きな時の流れが、止められない心の変化を生み、二人を離していったのかもしれない。。。。








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