ピッ!


ターミナル駅の自動改札に携帯電話をかざすようにして次々と人が降りてくる。


若い女性の間では、腕時計みたいなタイプが流行っていて、それをかざしている人も何人もいた。


あらかじめチャージしておいたポイントそのものが乗車券なんだ。



一足先に着いていた僕も、入国する前にあらかじめポイントホルダーをレンタルしておいた。


チャージしてある20万サンクスで、これから数日楽しむつもりだ。



駅地下駐車場からレンタカーを借りて海沿いの町までハイウェイを行こう。


料金の精算はあとから乗った分だけ支払う。


1日何十万人が乗り降りするこの駅の床全体が発電装置になっていて、


その足踏み電力みたいなものと屋上のソーラーで充電完了したレンタカーが並んでいる。


僕が選んだのは黄色いカブリオレ。これで海ノ中道を走るんだ。



いいことに、このクルマにはダウンロードジャックが付いている。


ここにUSBを差し込んでワンセグ局からの音楽を聴きながらダウンロードもできてしまう。


帰国してからも聴くことができる。


ダウンロード代金は1曲1サンクスと手頃だ。


さっき駅で連絡を待っているときに、車椅子の少女が急いでいる風だったのでちょっと手伝ってあげたら


ありがとう って1サンクス送ってくれたんだ。


こっちはそんなつもりで手伝ったわけでもないけど、赤外線でピピッと送ってくれて


ニコッて微笑んで行ってしまった。



知人に頼まれて日曜学校のクリスマス劇のストーリーを脚本にしたら1万サンクスもくれたこともあった。


1万サンクスあれば旨い酒が買えるぞ。



ものすごいチャンネル数があるんだけど僕がいつも聴いているのはチャンネル70’sだ。


海沿いを走るときの爽快な気分とよく合うからね!


(でも、最初に掛かった曲は、blue swedeのウガジャガウガウガだったけど)


次の曲は、ドゥービーだった。 china grove 1973 を聴きながら加速していく。


ちょっと肌寒いくらいだけど、あのカティングのリズムに乗っていきたいんだ。



ジュニアボナーってロゴ、紺色じゃなかったっけ? グリーンなの?


飛び去っていく景色とともに次々と思いが浮かんでは次から次へとめまぐるしく移り変わる。


チャンネル70’s から次々と飛び込んでくるナンバー、うつろう景色。


懐かしい西戸崎だ。



このあたりまで駐車場はすべてチャージステーションになっている。


大半はソーラーシステムを利用している。


話は変わるが、日本海に大量発生するエチゼンクラゲを砂漠化対策に活用している国もあるらしい。


なんでも数千万サンクスの経済効果が見込まれているとのことだ。



夏休みの子どもたちにラジオ体操の世話をしたり、近所の公園を掃除したりしていれば


この辺に住んでいる人たちはすぐにサンクスを送ってくれる。


わずか1サンクスでも ピッ ピッ ピピッ! と、


あっという間に1日の食費分くらいのサンクスが貯まる。


高校生くらいの若者たちは、街中のゴミを拾ったり壊れたベンチを直したりして小遣いを貯めている。


なかには、クラブの運営費にでも充てるのか、数人で公衆トイレを掃除しているグループもみる。



目的の場所に着いたのでクルマをそこで返す。


音楽ソフトのダウンロードも含めて5000サンクスで足りた。


懐かしい友人と再会するんだ。二人で海岸を歩きながら、きっといろんな話をしよう。


なんせ、もうずいぶん会っていなかったから。


散歩がてら海岸に流れ着いたゴミを拾いながら、二人でいろんな話をするんだ。


1時間も歩けば大きなポリ袋が10袋くらいはすぐだ。


海岸に当間隔に配置されたゴミ箱に設置されたポリ袋を1枚ちぎって、


次のゴミ箱の間に袋いっぱいのゴミを集める。


それを10回繰り返す頃には、二人で夕食を楽しむ程度のサンクスが貯まっているはずだ。



着いたよ、と連絡してからまもなく現れた彼女は少し歳を取った。


友達のお母さんが編んでくれたというカーディガンを5000サンクスでもらったらしい。


これから僕たちは25年分の話をしなくちゃ。


ドキドキも ワクワクもしない。 でも、とてもやさしい気持ちになっている自分がわかるんだ。


この気持ちは、何億万サンクスにも代えられない。



風が吹く。


海岸に寄せてはかえす波、


心地よい波音、


暑過ぎない日差し、


僕は心の中で呟いた、


thanks!