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 雑煮もお汁粉もいいですが、ホントは きな粉餅がいいんです(←力説w)

 

↓以下本文

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 長次郎は寝室のベッドの上で亡くなっていた。

 周囲の布団やシーツは捲れ、苦しんだ様子がうかがえる。

 若い頃は陸上選手として体を鍛え、健康そのものだったらしいが、

 最近はほとんど寝たきりの生活だったようだ。

 部屋の隅にはかつての称号として、トロフィーがいくつも並んでいた。

 時刻はちょうど正午。晴天のこの日、彼は湿気た匂いのする

 この部屋の中、人生の終わりを迎えたのだ――

 

 

 

 

のどに詰まらせて

 

 

 

 

 救急隊員として俺が現場に足を踏み入れた時には、

 一瞬何事かと思った。ベッドの周囲には茶色い液体が広く

 散らばっていて、彼は片手で首を押さえ、他方の手を振り上げて

 まるで踊っているような格好でこと切れていたからだ。

 傍らに落ちていた御椀や箸を見て、ようやく合点がいった。

 別室にいたという妻のナエも、彼が昼食中であったと確認できた。

 老夫婦。普段はもう共に食事をすることもないという。

 

 

 

 

 新年早々大変よねえ。

 本当に、私のところなんて昨日まで孫が来てたもんだから

 そりゃあもう大変でね。いや、私も会いたいとは

 言ってたんだけど……まあねえ、可愛いのは可愛いのよ。

 こんなに小っちゃくてねえ。

 そうそう……あの子の小さい頃にそっくりなのよ!

 目がこんなに丸くてね。もうクリクリしてて……

 

 ああ、いや、そうじゃなくてね。

 持田さんのところでしょう? 仲良くてね。

 いつもいつも一緒だったのよ。散歩とか、よく顔合わせてたから

 私知ってんのよ。こうやって寄り添ってね。

 旦那さんも男前じゃないの。ねえ? 優しくて……

 本当よ。おしどり夫婦ってやつよ。いいわよねえ。

 なあに、うちの人は駄目よ。無駄に腹だけ膨れちゃって、

 ヤダ、もう、止して止して! 本当よ。あの狸親父。

 一緒に居るだけで恥ずかしいんだから――

 

 

 

 

 妻のナエは、居間でテレビを見ていたらしい。

 トーストだろうか。食べかけのパンがまだ皿にのっている。

 やかましい笑い声がテレビから聞こえる。ちょうど

 手近なところにリモコンがあったので、誰に断るわけでもなく消した。

 

 同僚がナエに事情を訊き、メモを取っている。

 夫が亡くなったのだ。簡単な確認程度で済ませるだろう。

 長次郎は食べ物をのどに詰まらせて死んでいた。

 確認も済んでいる。死因について不自然なことは何も無かった。

 

 

 

 

 ああ、それならそうよ。

 体壊して、もう今は半分寝たきりみたいになってるらしいのよ。

 そう、ベッドでね。ヘルパーさんとかはまだ呼ぶほどじゃ

 ないみたいだけど。……だから最近は散歩に行っても

 会わないのよ。そうだ。この前なんて道であってね、私ったら

 ほら、おっちょこちょいっていうか、そういうところがあるもんだから

 旦那さん、最近いかが? だなんて聞いちゃったのよ。

 もうすっかり忘れてて……わざとじゃないのよ。

 ねえ、そういうことってあるじゃない? 

 

 でもね。私気付いちゃったのよ。持田さんの顔……

 やつれた感じで大丈夫かしらなんて見てたら、痣よ。そう、こうやって

 青くね、痣。あれは見間違えじゃないわ。本人は化粧とかで

 隠そうとしてるみたいだったんだけどね、ほら、わかるじゃない。

 違う感じがしてね。本当に嫌よね。普段のんびりしてるくせに、

 私ってそういうところばっかり、すぐに気付くから――

 

 

 

 

 新年とはいえ、正月は過ぎていた。

 子どもたちであれば新学期の準備をする時期だった。

 老夫婦のこの家には、そんなある種のせわしなさはない。

 静かだが生活感は溢れている。懐かしさを感じさせるような雑貨、

 調度品、電話の近くにはカレンダー。台所には、

 鍋が置かれたままだ。冷蔵庫の横に、瓶や

 常温保存の食糧が置かれているところなんて、うちの

 実家にそっくりだ。そんな風に思っていると、

 そのスーパーの袋の中がちらと見えた。

 

 目一杯膨らんだその袋の中には、パック詰めの餅が

 大量に入っていた。雑煮にでもするのかはわからないが、

 正月に夫婦で食べるとしても、その量は多すぎるように感じた。

 雑煮やお汁粉なんて、正月の時期にしか家族で

 食べた記憶がない。親戚に雑煮を振る舞った余りなのだと

 思った。しかし、夫婦には子どもがいないらしい。

 

 向こうの部屋を見ると、聞き取りを終えた妻のナエが

 椅子に座っていた。目の周りが赤い。泣いているのかもしれない。

 ただ、手で顔を覆うこともせず、まっすぐにベッドを見ている。

 俺には彼女が、手で顔を覆うことさえ忘れ、放心しているように見えた。

 人生の伴侶を失ったときの気持ちは、俺にはまだわからない。

 

 

 

 

 そうなの。近所の人が聞いたって言うのよ。

 旦那さんが叫ぶ声を。あんなに優しそうな人が怒鳴ったり

 するんだと思って怖くなってね。でも、ほら、

 ただの噂かもしれないでしょう。そういうのってすぐに

 信じるのもどうかと思うのよ。大げさに言ってるだけかも

 しれないし、好き勝手言うのも悪いし。

 

 でもね……長いのよ。そういう話が出てから、

 ずっとそういうことがあるらしいのよ。最初は本当かしらって

 疑ってたけれど、近所の方がね、聞いたって言うもんだから。

 それだけ言うなら本当かもしれないって、思うのよ。

 それに、あの痣……あれは本当だもの。

 これはね、ただの私の想像になっちゃうんだけど、

 持田さん、旦那さんに暴力振られてるんじゃないかしら。

 旦那さんだって、もうね。相当歳だし。もしかしたらね……。

 

 いや、違うのよ。聞いたわけじゃないけど。

 ほら、そういうのって他の人に言い出せないっていうでしょう?

 持田さん静かな方だし、隠してるのかなって思うのよ。

 うちなんて、そんなことされようもんならすぐに引っ叩いて

 やるけど……でしょ? 何よそれ。妙に納得しちゃって

 失礼じゃないの。もう笑わないでよ――

 

 

 

 

 食事は自分でとれるという。

 長次郎氏は餅が好きで、正月からしばらくは、三食雑煮にして

 欲しいと言ってきかない。だから、この頃は殆ど毎食

 ベッドで雑煮を食べていた。食事はもともと別々に静かに

 するのが習慣で、半寝たきりの生活になってからは

 言われたタイミングで妻のナエが食事を用意し、

 彼のもとに運んでいっていた。

 餅の事故が多発している時期に心配ではあったが、

 一人でも十分に食事は出来るようであるし、彼に言われるまま

 雑煮を出し続けた。まさかこんな事になるなんて。

 

 ――そう、妻のナエは語っていた。

 歳を重ねて皺の増えた手を重ね、細い声を震わせながら。

 

 

 

 

 雑煮が原因だったんでしょう?

 聞いたわよ。いやね、何で亡くなったんだろうって

 気にしていたもんだから……いや、違うのよ。私じゃなくて、

 ほら、近所の皆さんが言っていたの。

 雑煮でしょう。何だかねえ。嫌だわ。

 うちだって、正月は親戚が集まって雑煮を出したのよ。

 餅のどに詰まらせて死ぬなよ、とかうちの人も

 ふざけて言ってたんだから。私、思わずつまらないこと

 言わないで頂戴って、怒鳴ったのよ。そうよ。洒落じゃなくね。

 ほら、最近多いんでしょう? 餅の事故。

 ニュースでもやってたから、ねえ。気を付けなきゃよね。

 

 ……え、そうなの?

 嫌だ、何よ。私てっきりそう思ってたんだけど、

 勘違いだったのね。だって、あなたの話聞いてたら

 そう思っちゃうじゃないの。

 

 のどに詰まらせたのって、餅じゃないのね。

 だって、ねえ……雑煮を食べてって言ったから、

 当然餅だと思ってたけれど、違うのね。じゃあ何なの?

 サトイモ? え、嘘、本当に?

 サトイモって、あの普通の芋よね?

 何よもう、早く言ってよね、本当に。あっはっは――

 

―――――――――――――――――――――――――――――
<完>

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