旦那は深夜に帰宅したが口はきかないままお互い出社した。



いつもの通り階段を上がり降りして託児所を目指し、また上がり降りして会社に行く。




職場でも小さなミスをしたりとにかくツイテいない。



12時になり社員さんに言って休憩させてもらった。



8階へ上がるとイタリアンのレストランの前で母が待っているのが見えた。




また涙が溢れてくる。



泣くわけにいかないからこらえる。



でももたなくて持っていたハンカチで涙を拭いた。



『お疲れ様ー。どうしたのよ?』



母はいつもと変わらない笑顔で私を迎えてくれた。



ありがたくてせつなくて…




本当ならまだ一緒に暮らしていた歳だ。




自分から出ていったのに…



いっちょまえに家庭を持ったのに




やっぱり子ども…



『ほら!休憩1時間でしょ?ご飯食べよう!』



母とお店に入った。



『なに食べるの?パスタ?サラダ?飲み物は?』




そうだ…私は今までお金の苦労を一切したことがなかった。



レストランにいけばに行けば好きなものを食べ



学校は自分が行きたかった美術科のある私立の高校に入れてくれて



その学校に通うための定期は3ヶ月で10万円だったけど必ず休み明け前までに用意されていた。




なのに私は…




『お母さん…ごめんね…』



『子ども持って気付いたでしょ?』



『うん…』




パスタを食べながらこぼれる涙を目をつぶってさえぎった。




『でも頑張りなさい。もう1人じゃないんだからね?』



『うん。』



お母さんは封筒を私に渡した。



『困ったら使いな。』



封筒には10万円が入っていた。




『ダメだよ!悪いよ!』



『持っときなさい。お父さんには内緒だからね。』



『ありがとう…』



休憩時間はあっという間に過ぎた。




仕事が終わって息子を迎えに行った。お兄ちゃんお姉ちゃんに可愛がってもらってご機嫌にしていた。




だんだんとハイハイが上手に出来るようになってきた息子は私を見つけると

『だぁーーーー!!!!』とか言いながらハイハイしてくる。




私が息子を抱っこすると、周りにお兄ちゃんお姉ちゃんも寄ってきた。



『仲良くしてくれてありがとうね。またね。』




みんなにバイバイしてまた階段を上がり降り。




電車に乗りながら外を眺めた。



窓からは学生が自転車に乗って楽しそうに話す姿が見えた。




『みんな元気かな…』




でも私はこの道を選んだんだ。



息子を産んだんだ。





絶対に幸せになるんだ…





毎日毎日毎日毎日…




『幸せになること』が、私の希望だった。