作りごとだと分かっていても、読者にとって、その世界はリアル。
漫画を読む時は、映画館の上映開始時のように暗くはなりませんが、心のスイッチが入るハズ。
最初のコマに目が行った時には、物語の世界に引き込まれています。
まるで、マジックのように。

そのリアルな感情を担保するのは、細部に至るまで、きっちり描かれていること。
物語のフレームは、フィクションという大嘘ですが、その世界の中のモロモロは、実際にあるのです。
電柱一本、石ころひとつだって、そのリアルを支えているのです。
細部にこだわることによって、読者に見える世界も奥行きが増します。

小説なら、「背の高い男」で済む描写も、漫画では具体的に185センチとか決めて、服装もキャラクターに合ったものを考えなくてはなりません。
靴はお気に入りのブランドのスニーカーを履いているかも知れない。
ちょいとスニーカーにはうるさかったりして。

そうやって細部を詰めていけば、その男も、よりリアルな存在として、浮かび上がってくる。
靴一足といえども、おろそかには出来ません。
女の人ほどでないにせよ、靴やバッグにこだわりをもっている男は多いものです。
何のフェチかは、キャラ作りの上でも大事ですね。

二次元の紙の上の話なのに、画面から風を感じる時があります。
実際の風は吹いていないですから、その気にさせるテクニックが絵の中に施されているということですね。
作者が、画面の中に風を描いたのが、読み手に伝わったのかも。
いまキャラクターたちのいる辺りには、強い風が吹いているんです。
髪の毛が逆立っていますから。
辺りの木々も震えているし、木の葉もざわざわと音を立てて、風に吹かれている。
何かが始まる予感。

効果音もないですから、擬音や描写で勝負です。
モノクロだって、音や匂いがなくったって、気温が分からなくったって、丁寧に細部を描き込むことによって、情報は伝わります。
要は、本気で、そう描こうとしているかでしょう。

読者の想像力を信じ、それを刺激することです。

ここではないどこかなのに、臨場感たっぷり。
起きていることはリアル。
登場人物も実在しているかのよう。
フィクションなのに。

そうありたいものですね。