第7章 相談体制の確立
第1節 専門家との連携
ここは2問出題されています。
第1項 相談できる公共機関
1.行政機関とその役割
各事業場が行政と接するのは、労働行政としては、各都道府県労働局、労働基準監督署や地方社会保険事務局、保健行政では自治体の保健所、保健センターとなります。
各都道府県労働局、労働基準監督署は心の健康づくり、メンタルヘルス対策の基本的な情報発信、指導、相談窓口などです。
一方、保健所は地域住民の精神保健の相談対応、訪問指導を実施しています。労働者も地域住民ですので、こうした保健所のサービスを受けることができます。
2・労働安全衛生分野の公的機関
a)中央労働災害防止協会
事業主などが行う自主的な労働災害防止活動の促進を通じて、安全衛生の向上を図り、労働災害を絶滅することを目的としています。
メンタルヘルスに関わる部分では、THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)の担当者を育成し、中小企業における健康づくりの普及を図るため中小企業を直接支援する「THPデモンストレーション事業」を行っています。
また、事業場メンタルヘルス対策の入門的支援、現状チェック、心の健康づくり計画の支援、意識向上・方策指定、仕組みづくり、教育・研修、ストレスチェックとセルフケア援助などの様々な支援を行っています。
b)労働者健康福祉機構と産業保健推進センターなど
労働者健康福祉機構は、労働者の健康と福祉の増進を目指し、勤労者医療、産業保健活動、未払賃金立替払事業を行っています。
全国47都道府県に設置されている産業保健推進センターは、産業保健関係者を支援、事業主などに対して職場の健康管理への啓発を行うことを目的としています。
研修事業、情報提供事業、窓口・実地相談、地域産業保健センターへの支援、広報啓発活動を行っています。
メンタルヘルスでは、職場のメンタルヘルスや職場のカウンセリングの進め方の事業場からの相談に対応するほか、定期的な研修会が実施されている箇所もあります。
c) 地域産業保健センター
労働者数50人未満の小規模事業の事業場の産業保健活動や健康管理を担うために、全国の労働基準監督署の単位ごとに設置されています。
健康相談窓口の設置、産業保健指導や産業保健の情報提供などを行い、費用は公費で賄われます。
メンタルヘルスに関しては、セミナーやメンタルヘルス相談を含めた「働き盛り層のメンタルヘルスケア支援事業」を実施しています。
d)その他の機関
産業医額の振興と職場における労働者の健康管理の充実に役立つことを目的として、産業医や産業保健職の研修、産業医学に関する調査研究の助成などを行っている産業医額振興財団、産業医などの養成と産業医額の研究を行っている産業医科大学、労働者の健康の保持増進及び職業性疾病の総合的な調査研究を行う独立行政法人労働安全衛生総合研究所などがあります。
3.メンタルヘルス対策の役割を担った公的機関
a) 精神保健福祉センター
各県、政令指定都市にあり、精神障害をもつ人の指導・援助に加え、心の健康の保持と向上を目的とした精神保健福祉相談、広報普及活動、社会復帰の指導と援助、研修、連携や技術協力・援助などを行っています。
b)勤労者メンタルヘルスセンターと勤労者心の電話相談
勤労者メンタルヘルスセンターは労災病院にあります。メンタルヘルスセンターでは、ストレス関連疾患の診療・相談、メンタルヘルスに関する研究、勤労者・医療従事者などを対象とした講習・研修、ストレスドック・リラクゼーション部門の開設などを行っています。
勤労者心の電話相談は、労働者自身、上司など職場の関係者に、仕事上のストレスによる精神的な悩み、職場の対人関係の悩みなどの職場生活を通しての悩みに関する相談に対応しています。無料です。
c)障害者職業センター
各都道府県にあります。ジョブコーチ事業では職場にジョブコーチ(職場適応援助者)を派遣して、障害者の直接支援や、事業主や職場の従業員に対しても、障害者の職場適応に必要な助言を行い、必要に応じて職務や職場の改善を提案しています。職場復帰支援(リワーク支援)事業では、休職者の精神障害者に職場復帰支援の実施などを行います。
第2項 健康保険組合
1.健康保険組合の役割
保険給付だけでなく、健康の保持増進のために予防に関わる事業も行うように努めます。
2.健康保険組合連合会
健康保険組合活動の支援、昨日強化を行います。健康づくり施策を支援する健康開発共同事業などを行うほか、研修会、講演会を実施したり、病院情報を提供したりしています。
3.健康保険組合のサービス
各健康保険組合でサービスは異なります。
第3項 専門医療機関(精神神経科、心療内科)
1.診療科の特徴
心に関わる疾患のうち、症状が主に身体の症状・疾患(心身症)として現れるものを扱うかが心療内科であり、精神の症状・疾患(精神疾患)として現れるものを扱うかが精神神経科(精神科、神経科)です。
2.専門スタッフの種類と役割
a)精神保健指定医・精神科医・心療内科医
精神保健指定医は「措置入院(本人の同意がなくても入院させることができる)」などを行うために必要な資格です。精神科医・心療内科医については上の通りです。
b)精神保健福祉士
精神保健福祉領域のソーシャルワーカーのことです(国家資格)。精神障害者の抱える生活問題や社会問題の解決のための援助や、社会参加・復帰に向けての支援活動を行っています。
c)臨床心理士
臨床心理学の知識や技術(心理療法、サイコセラピー)を用いて心の問題を取り扱う専門家です。
d)カウンセラー
カウンセリングを行います。いくつかの団体がそれぞれカウンセラーの認定を行います。事業場と関連が深いのは産業カウンセラーです。
e)精神科認定看護師
精神科の専門分野において、水準の高い看護を実践できる看護師と認定されます。
3.専門医療施設の特徴と役割
精神疾患の入院に関しては「精神病床」の許可をとらなくてはならないことになっています。精神病院によって力を入れている分野が異なります。
第4項 専門相談機関(外部EAPなど)
1.外部EAP機関
☆特徴
EAPはEmployee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略称です。
内部と外部があり、外部EAP機関は企業に対しては、職場組織が生産性に関連する問題を定義することを援助し、社員に対しては、仕事上のパフォーマンスに影響を与えるさまざまな個人的な問題(健康・結婚・家族・経済問題、アルコール・ドラッグ中毒、法的問題、対人関係、ストレスなど)を見つけ、解決する手助けをします。外部EAP機関を利用することで事業場内産業保健スタッフが不十分な場合でもメンタルヘルスに関する体制を整えることができます。
☆機能と役割
対象となるのは、労働者、家族、組織のリーダー、組織全体です。
a)労働者の心の健康問題評価
b)組織に対する職業性ストレスの評価・コンサルテーション
c)労働者の抱える問題に対する適切な医療機関や相談機関への紹介とフォロー
d)管理監督者や人事労務管理スタッフへの問題対処方法やEAPの適切な利用に関するコンサルテーション
e)従業員やその家族、管理監督者、人事労務管理スタッフに対するメンタルヘルス教育、EAP利用方法の教育
f)短期的カウンセリング
h)健康問題を生じる可能性がある危機への介入
i)EAP機関と連携する事業内メンタルヘルス担当者の育成
j)事業場内産業保健スタッフへのメンタルヘルス対策の教育
k)EAPサービスの効果評価
2.いのちの電話などその他の民間相談窓口
民間で個人向けに相談に応じてくれる「いのちの電話」や「ハートナビゲーション」といった相談窓口です。「いのちの電話」は電話・FAX(一部)相談などを無料で実施しています。「ハートナビゲーション」は社団法人日本産業カウンセラー協会が厚生労働者から委託を受けて実施している勤労青少年向けの相談窓口です。
第5項 その他の事業場外資源
1.労働安全衛生機関、健康保持サービス機関
ストレス調査など、事業場のメンタルヘルス対策の支援をしてくれます。
2.さまざまな専門家団体
産業精神保健学会、日本産業ストレス学会、日本EAP協会、日本産業カウンセラー協会、日本産業カウンセラー学会、心理相談会、財団法人社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所といった団体があります。
3.復職支援のための資源
前述の地域障害者職業センターのほか、EAP機関や労働衛生機関の一部がプログラムを提供しています。
4.患者の会など
様々な疾患に関して、当事者や家族による支援グループがあります。主なものはアルコール依存症における断酒会、AA、統合失調の患者会、家族会などです。
全国組織として全国精神障害者団体連合会、家族に精神障害者がいる家族同士が集まったNPO法人である全国精神保健福祉会連合会があります。
第2節 事業場外資源活用のポイント
ここは2問出ています。第3節の出題が多いようです。
第1項 連携の必要性の判断
1.事業場内のニーズの確認
事業場のメンタルヘルス体制の現状把握と従業員のメンタルヘルス状況によってニーズは異なってきます。体制の現状把握をする際に役立つのが「事業場における心の健康づくりの実施状況チェックリスト」です。「メンタルヘルスの相談先」「心の健康問題を持つ従業員の服飾や職場適応の支援」の2つに分類されています。
その他、心の健康づくり計画の作成や職場環境などの改善、教育研修、緊急時の心のケアなどの面も含めて外部資源との連携の必要性を考えていきます。
a)相談先(場所)・担当者と利用者のプライバシーの保護
b)全ての従業員・管理監督者に対する相談利用のための教育研修の実施
c)管理監督者による相談対応
d)人事労務管理スタッフや産業保健スタッフの相談先(専門家)・紹介先の確保
e)心の健康問題を持つ従業員への継続的な支援のあり方
2.事業場内資源との相補性
事業場内にスタッフがいない場合や、いても人員上十分でない場合は、相談窓口の運営そのものに外部資源を活用したり、教育研修など一部を外部に委託したりすることが考えられます。
外部機関に任せる場合でも、会社としての「心の健康に関する考え方」や「相談体制」などは外部機関に十分理解してもらい、一部は内部スタッフが実施するなど協力しながら進める必要があります。
内部スタッフがいても、メンタルヘルスの専門性に乏しい、あるいは困難な事例に出会うことはよくあることです。こうした場合のスーパーバイザー的な役割や、より専門的な相談窓口(二次的な窓口)の設定を外部資源に求めることも考えられます。事業場に専門家がいない場合には、事業場としての相談先(専門家)を検討する必要があります。非常勤の嘱託精神科医、臨床心理士を確保したり、EAP機関と契約する際に産業保健スタッフに対する支援内容を盛り込んだりして対応できます。
一方、ある一定の資格を満たしていれば就業しながらでも相談担当の技術を習得、資格を得ることも可能です。
中・長期的な心の健康づくり計画の中で相談担当者の育成を考えながら、現在不足している部分を補う形で外部資源との連携を考えます。
第2項 専門機関の選び方
☆メンタルヘルス相談体制の目的
a)疾病者あるいは問題となる従業員への対応
b)復職者の対応
c)早期発見
d)従業員セルフケアなど早期対応
e)環境改善など予防的措置
f)従業員のモチベーション向上やキャリア開発
EAPも医療系、心理系、コンサル系という得意分野があるため、現在の事業場内でどの分野に力を入れるのか検討し、目的は何かを明確にしたうえで事業場内のスタッフで対応が不十分なものを外部に委託するということで、連携をとる機関を選定していく必要があります。
第3項 連携方法の確認とプライバシーの配慮
1.連携方法の確認と従業員への周知
連携に当たっては、連携先との事業場内担当者(連携担当者)を明確にしておきます。EAP機関を利用するのであれば、どのようなサービスを利用するのかを明らかにしたうえで契約を行います。
利用にあたっての必要な情報は従業員に繰り返し周知します。
専門医療機関や精神科医、カウンセラーなどを連携先とする場合、どのような形で連携をとるのか明らかにしておく必要があります。
単発や期間限定の教育研修などの場合にも、外部資源担当者と打ち合わせをし、事業場のメンタルヘルス方針や体制、事業場の特徴などを理解してもらう必要があります。
2.プライバシーへの配慮と従業員への周知
メンタルヘルス対策やその他の健康管理の中でも個人情報の保護は十分に確保される必要があります。また、労働者が相談窓口を利用したことが例え分かったとしても、それを理由に不利益に扱ってはなりません。
労働者にとって事業場外資源を利用した相談体制の運用はプライバシーを保護されているという安心感を与えます。一方で、会社と事業場外資源の規定があいまいだと、必要な環境調整や職場での配慮が行われず、相談者の不信につながる、事業者は安全配慮義務を果たせなくなる可能性があります。
このため事業場と事業場外資源の連携に際して、プライバシーの保護の規定を契約の中に盛り込み、その内容を利用者に周知しておく必要があります。以下のような内容は規定しておく必要があります。
a)個別の相談事例内容を事業場へ知らせる場合は、情報開示の内容、開示する相手を利用者本人との間で合意しておくこと。
b)事業場への利用状況として件数、性別、年代などの基本情報を報告する際には個人が特定できないように匿名性を確保すること
c)相談者自身や第三者の生命・身体・財産などを脅かすような可能性のある危機的状況に関しては、必要最低限の部署などに情報を開示すること
第3節 職場復帰支援プログラム
ここも2問です。2,3節がやや多めに出題されているようです。
第1項 職場復帰支援プログラムの必要性
精神疾患により休業した労働者の職場復帰支援には、身体疾患の場合とは違ったいくつかの難しさがあります。精神症状や業務遂行能力の評価が確立されていない、直接の原因や今後の見通しが分からない、情報交換を行えないまま職場復帰支援を進めざるをえない、などです。
このような問題に対してまず準備すべきは、事業場において職場復帰支援に関するプログラムやルールを策定することです。新たなプログラムやルールを策定することは事業場にとって大変な作業ですが、本来、復職という人事に関わる制度についての社内ルールが明文化されていないこと自体が大きな問題であり、これは企業のリスクマネジメントのためにも決して欠かすことのできない作業です。
第2項 職場復帰支援の基本的な流れ
厚生労働省の職場復帰支援の手引きの目的は、個々の事業場でそれぞれ独自の職場復帰支援プログラムを策定し、それを職場復帰支援に関する規定として整備することにあります。あくまで個々の事業場の人的資源や他の実態に即した形でなければなりません。
第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア
1.病気休業開始時の労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出(人事労務管理スタッフ、産業保健スタッフにも連絡)
2.管理監督者によるケア及び事業場内産業保健スタッフなどによるケア
3.病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応(病状によって連絡を取る頻度を決める)
4.その他
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
1.労働者からの職場復帰の意思表示と職場復帰可能の判断が記された診断書の提出(管理監督者が対応)
2.産業医などによる精査
3.主治医への情報提供
第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
1.情報の収集と評価
a)労働者の職場復帰に対する明確な意思の確認
b)産業医などによる主治医からの意見収集
c)労働者の状態などの評価(通勤時間帯に一人で安全に通勤できるか、必要な時間、会社で勤務できる程度に精神的・身体的な力が回復しているかを確認する必要がある。試し出勤制度(リハビリ出勤制度)、図書館での一定時間以上の自習なども有効)
d)職場環境などの評価(職場の作業管理、作業管理、特に仕事の質や量、作業時間の管理方法、配置転換、移動、役割の変化の影響、職場の人間関係などの情報を収集)
e)その他
2.職場復帰の可否に対する判断(病状の評価、職場環境の評価との組み合わせで判断。労働者、管理監督者、人事労務管理スタッフ、産業保健スタッフなどが共に情報交換を行い、十分連携しながら総合的に判断する)
3.職場復帰支援プランの作成(管理監督者、産業保健スタッフなどが作成)
a)職場復帰日
b)管理監督者による就業上の配慮
c)人事労務管理上の対応
d)産業医などによる医学的見地からみた意見
e)フォローアップ
f)その他
第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
1.労働者の状態の最終確認
2.就業上の配慮などに対する意見書の作成
3.事業者による最終的な職場復帰の決定
↓
職場復帰
↓
第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ(一番効果的)
1.疾患の再燃・再発、新しい問題の発生などの有無の確認
2.勤務状況及び業務遂行能力の評価
3.職場復帰支援プランの実施状況の確認
4.治療状況の確認
5.職場復帰支援プランの評価と見直し
6.職場環境などの改善など
7.管理監督者、同僚などへの配慮など
第3項 プライバシーの保護
復職に関する情報のほとんどは、労働者のプライバシーに深く関わるものであるため、取り扱う労働者の健康情報などの内容は必要最小限とし、労働者の個人情報については原則として常に本人の同意を得た上で扱うよう配慮しなければなりません。
産業医が選任されている事業場においては、産業医が安全(健康)配慮上必要と判断した情報を集約・整理したうえで他の関係者に伝えられる体制が望ましいでしょう。健康情報などの取り扱いに関して、衛生委員会などの審議を踏まえて一定のルールを策定する必要があり、労働者の健康情報などの漏えいなどの防止措置を厳重に講ずる必要があります。
また、健康情報などを取り扱う者に対して、健康情報などの保護措置のための必要な教育及び研修を行うことが必要です。
第4項 職場復帰支援に関して検討すべき事項
1.職場復帰可否の判断基準
・労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示している
・通勤時間帯に一人で安全に通勤できる
・会社が設定している勤務時間の就労が可能である
・業務に必要な作業をこなすことができる
・作業などによる疲労が翌日までに十分回復している
・適切な睡眠覚醒リズムが整っていて昼間の眠気がない
・業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
これに作業管理の状況やきちんとした受け入れ準備が行われているかなど職場側の要因についての評価も加えて十分検討しなければなりません。運転作業や危険作業に従事する可能性がある場合には特に慎重な検討が必要です。
2.試し出勤制度
試し出勤制度を設けている事業場では、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができるため、より実際的な職場復帰の可否の判断や早期の職場復帰に結び付けることが可能になります。
試し出勤制度を実施する場合には、ルールを明確にした運用することが不可欠であり、できるだけ正式な復職手続きを経た上で就業上の配慮として実施することが望ましいでしょう。
3.「まずは元の職場への復帰」の原則
一般的に、配置転換や異動といった労働者のキャリアにとって重要な決定は、精神状態がかなり安定してから行うことが望ましいといえます。新しい環境への適応には新たな心理的負担が生じる可能性があるため、特別な問題がない場合には、現職で業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動の必要性について考慮した方がよいと思われます。
しかし、移動や配置転換が明らかなきっかけになっているケースや、職場不適応が原因の場合には、最初から配置転換などを考慮した方がよいケースもあります。その判断については産業保健スタッフや人事労務管理スタッフも交えながら関係者間で十分に検討したうえで行う必要があります。
4.職場復帰に関する判定委員会(いわゆる復職判定委員会など)の設置
職場復帰支援においては、管理監督者、人事労務管理スタッフ、産業保健スタッフなどが十分な連携をとることが必要であり、そのために関係者が一堂に会して話し合う復職判定委員会の設置は非常に有効な仕組みです。委員会の運用については、委員会決議についての責任の所在の明確化、迅速な委員会開催のための工夫などについて十分に検討しておく必要があります。
5.中小企業規模事業場における事業場外資源の活用
特に50人未満の小規模事業場では、事業場内に十分な人材が確保できない場合が多いことから、地域産業保健センター、労災病院勤労者メンタルヘルスセンターなどの事業場外資源を活用することが有効であり、衛生推進者または安全衛生推進者は、事業場内の窓口としての役割を果たすよう努めることが必要となります。
6.職場復帰支援に関する体制の整備と教育活動
事業者は各事業場の実態に即したかたちで職場復帰支援プログラムを策定し、それが円滑に実施されるよう社内の規定や体制の整備を図らなければいけません。同時に事業者は、社内教育や広報活動を行って、職場復帰支援プログラムの目的や具体的な内容、運用方法やプライバシー保護に関することがすべての労働者や関係者に周知されるよう努めなければなりません。
第4節 緊急事態への対応
ここも2問出ています。そして、注目すべきは記述式の第9回で出ているということです。
第1項 突然の失踪(遁走)の場合
1.基本的な考え方
強いストレスにより、記憶を一部なくして思い出せなかったり(解離性健忘)、その場から姿を消してしまうことがあります(解離性遁走)。発見された時には全ての記憶をなくし、自分が誰か分からないこともあります。その時には、家族や職場への罪悪感から聞死念慮が生じていることも多く、注意が必要です。
解離性遁走は、真面目、几帳面、内向的な人に、仕事の多忙、心理的拘束、対人葛藤などのストレスが加わり生じる例が多くみられます。対応としても個人へのアプローチ、ストレス因子への介入、その両者を行う場合などを考える必要があります。
2.対応や予防
解離性遁走は表面上、無断欠勤となります。無断欠勤については可能な限り速やかにその事情を把握することが早期対応策として重要となります。
解離性遁走が疑われた場合、家族と協力して本人の発見と安全確保が優先されます。その上で、人事、労務上の問題として配慮するのか、疾病として治療に導入するのか、その両者の連携をとるのかを決めます。
事情聴取は、本人が耐えられる内容を探りながら慎重に行う必要があります。
解離性遁走を呈するほどの状態では、内面激しい葛藤が存在すると考えられます。似た病態もあるので、それらも考慮する必要があります。
解離性遁走は病気の状態ですから、できるだけ専門医と連携し時間をかけて対応してください。そして、性格が主要因なら医学的治療と、労務軽減など職場環境の改善を含めた対応が必要となります。
職場において特定の個人に仕事量、責任などが集中していないかについて普段から配慮し、それが個人にとって負担が強く、特に不眠などの症状を認める場合については積極的に介入してください。
第2項 希死念慮(自殺したい気持ち)を上司に打ち明けた場合
1.基本的な考え方
突然「死にたい」と打ち明けられることはあまり多くはないかもしれません。しかし、対応を誤ると自殺等の事故につながり、丁寧な対応が必要となります。「死にたい」という気持ちの多くは過度の気分的落ち込みをともなっています。知らず下図のうちにうつ病にかかっている人もいると思われます。
2.対応や予防
「死にたい」と言われたら気が動転するかもしれませんが、相手としては心を許し、助けて欲しい気持ちがあると考えてください。信頼されているのですからその訴えを真剣に受け取り、ともかく話を聴き、「死にたいほどつらい思いがある」ことに共感を示してください。自殺を考える人の多くは「うつ状態」にあることが多く、他人の考えを受け入れられません。そのため、相手の話を否定せずに傾聴することが大切です。
うつ病は精神疾患であり、治療が必要で、改善します。しかし、具体的な問題がその根底にあり、その結果うつ状態を呈していることも多く、この場合はこれらの問題への介入が必要となります。あなたが心配していることを伝え、できれば家族に連絡を取り、専門医受診などの対応を相談するよう誘導してください。もし、その解決にさまざまな部署との連携が必要なら、そのことを丁寧に説明し、本人の同意を得た上で必要最小限の部署と連携を取ります。本人の同意を得られない場合は、安全配慮義務の観点から家族など本人の権利擁護者に連絡を取り、事情を説明の上、協力して対応してください。
☆自殺の危険がある場合
・うつ病の症状
・原因不明の身体の不調が長引く
・酒量が増す
・安全や健康が保てない
・仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
・職場や家庭でサポートが得られない
・本人にとって価値あるものを失う
・重症の身体の病気にかかる
・自殺を口にする
・自殺未遂に及ぶ
第3項 独身寮の自室に閉じこもってしまった場合
1.基本的な考え方
a)ステューデント・アパシー
これは自分の本業(勉学)に対する無関心が特徴で、自分が何をしたいのか、何になりたいのか分からないのです。それ以外にも統合失調症、うつ病、パニック障害、アルコール関連障害などの疾患が原因となります。
b)急に閉じこもり、昼夜逆転し、人との接触を極端に避ける
統合失調症などの精神障害の疑いがあります。周りに人がいないのに悪口が聞こえてきて怖くて外に出られない、さまざまな命令が聞こえて自分のしたい行動ができない、などの症状が認められ、これらの異常体験により、話しかけても答えない、意味不明の答えをする、などと対人交流が障害されます。被害妄想が強いと暴力事件に発展することもあります。具体的な実際のトラブルが原因のこともあります。
3.対応や予防
a)ステューデント・アパシー
ある程度の経過を経て生じた場合は、事情を聴くことができることもあります。事情に応じた対応を行います。若者独特の心性を踏まえて十分に話を聴いてください。心理的介入が必要であれば専門医と、職場の環境調整が必要であれば該当部署と、本人の同意を取った上で連携してください。立場の同じ同世代間での交流を促すことが望まれます。
b)急に閉じこもり、昼夜逆転し、人との接触を極端に避ける
突然に閉じこもり連絡も取れない場合には人権を配慮した対応が必要になります。寮の自室は本人のプライベート空間とも言えます。そのため、仕事の遂行に対し障害を与えている事実を念頭に入れた対応を行います。具体的な問題点を可能な限り証拠を含めて収集し、電話、FAX、内容証明付きの手紙などで連絡を取り、事情説明を求めます。これらを拒否(無視)する場合や(著名な問題行動などにより)時間的余裕のない場合は本人の権利擁護者である家族などに連絡を取り、事例性を中心に説明し、家族からの働き掛けや協力を依頼します。本人がそれでも閉じこもりを続け、精神障害が強く疑われる場合には保健所からの往診を依頼したり、精神障害に起因すると思われる衝動行為が顕著な場合には警察を呼び、強制的に医療に結び付ける場合もあります。このようなときには、客観的で十分な証拠を保全しておきましょう。
第4項 常軌を逸した言動が見られた場合(躁状態)
1. 基本的な考え方
気分は連続性を持っていますが、極端な落ち込みや紅葉館が長く続くことは通常ありません。気分が高揚する躁状態は、生きるエネルギーに満ちあふれ万能感があり、自分にできないことは感じます。自分にとっては気分の良い状態ですから、病気であるという自覚はありません。その結果、社会的に大きなトラブルが生じます。躁状態とうつ状態を繰り返す場合(双極性障害、いわゆる躁うつ病)が多いのですが、躁状態だけの場合はあります。躁あるいはうつ病相は周期的に生じますが、各病相間は正常な状態に回復することが多いようです。気分高揚にともないアルコールの摂取量も増え、アルコール依存症も同時に認めることがあります。双極性障害は主に気分安定薬などの薬物療法によって治療できるので、速やかに医療機関と連携を取りましょう。
2.対応や予防
気分は連続性を持っており、量的異常(元気すぎるなど)です。そのため躁状態にあっても、病気としての理解がありません。注意をした人は悪者にされます。本人になぜそのようなことを行うのかを確認し、仕事上の問題が生じる場合にはその事実を伝えます。そして、自分の気分が正しく制御できずに仕事に影響を与えていると理解が得られれば、専門医を受診するように説得します。逆に全く理解が得られず、仕事上の問題が増加する場合には、具体的な問題点を可能な限り証拠を集めて収集し、本人の権利擁護者である家族などに連絡を取り、事例性を中心に説明し、働きかけや協力を依頼します。病気理解が全くなく、本人にとっての不利益が生じる場合には、保護者の同意の下、入院治療に至ることもあります。躁状態では副y区の自己中断に至ることが多く、注意が必要です。
第5項 客先で不穏な言動を起こしたと連絡が入った場合
1. 基本的な考え方
幻覚などの不思議な体験を認める代表的な疾患に統合失調症があります。生涯有病率0.1%~1.7%ともいわれ、決してまれな病気ではなく、幅広い年代で見られます。統合失調症の症状は服薬を中心とした治療で改善するので、医療への結び付けが必要です。また器質性精神障害、症候性精神障害、物質関連障害など、多くの原因でも同じような症状は起こります。問題行動はその理由を確認し、病的体験など精神症状がその原因である可能性があれば、識別と治療のために速やかに専門医と連携してください。
2.対応や予防
客先で不穏な言動を起こした場合、まずは本人と相手の安全確保が第一になります。連絡を受けた時にある程度の事情を把握し、精神障害による可能性が強いと思われた場合は、相手への断りとともに速やかに本人を連れ帰り、面談と事情の確認を行います。客先で話し合うと危険です。本人には「病気であるという認識(病識)」がありあません。精神障害と扱うと問題が生じます。怒った事態を冷静に考え、分析し、慎重に対応を進める必要があります。まずは、できるだけ多くの客観的事実を集めて積み重ね、本人の困っていることを明らかにし、改善するための対策(医療の受診など)をともに考えていくようにします。担当者は利害関係がある上司よりも、産業保健スタッフが望まれます。また、病識が不十分な事例については家族にキーパーソンを作っておくことが大切です。家族の協力も得られない場合は、就業の適否判断の困難性を理由に専門医の診断を求める業務命令を出し、受診させることも考えられます。
精神症状は表面化しにくいため、些細な事例性を上司が把握し、そこから産業保健スタッフに結び付ける体制が必要です。そのためにも管理監督者や人事労務管理スタッフに対する精神疾患の正しい情報提供が必要となります。また、回復した統合失調症の場合、周囲が本人に対し批判的であったり、過度に巻き込まれている場合に再発しやすいため、職場の理解と支援は第一次予防から第三次予防まで深く関連します。
最後の節は私も初めて知るようなことばかりでした。自殺は考えましたけど、口には出したことはなかったですし。統合失調症の方と会ったことはないですけど、大変そうですね…。
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