あとがき そして明は・・・  その3


「俺はここの病院がとても綺麗で中はどうなっているのか見てみたかっただけです。」

彼はゆっくり顔を上げると看護師を睨みつけ今度は怒鳴るように

「なのにここの職員はひどい。みんなが見ている前で俺を捕まえて連行したじゃないですか!あれじゃ俺はさらけもんだ。ひどすぎる。」

と看護師に言い返した。すると看護師は彼から目を背けることなく

「あなたが、逃げなければこんな事にはならなかったのよ!なぜ、あの時逃げたりした訳?」

と机の上に両手を組ながら彼の反応を伺った。すると彼は少し言葉に詰まりながらも始めは小さな声で段々とまた叫んだ。

「俺はただ誰とも話したくなかったから、なんか話すのが面倒くさくて関わらないで欲しかったから。なのにあなたは無理やり俺の肩を掴み、逃げられないように攻撃して来たじゃないですか。俺は何にも悪い事をしてないのにそんな事されたら誰だって振り切って逃げるのは当たり前だろう!」

彼の体は話しを終える少し前から震えだしていたが、それを見ていた看護師は彼の震えを無視するかのようにまた話しかけてた。

「攻撃だなんて…。あなたを一瞬見た時からなんか胸騒ぎを感じたわ。あなたを見ているとまともな人間には見えない。まして平日の昼間からウロウロしていたらなおさらでしょう。篠崎さん、あなたさっき誰とも話したくないって言ったけど、どうしてなの?友人やご家族にもそうしてる訳?あなたは働かないで何時までもそうやってブラブラして行く訳?就職難は分かるけど、ちゃんと職を探しているの?もう46歳でしょう!」

看護師は厳しい質問をしながらも彼の心の中を探っていた。篠崎 明はまた黙ったまま下を向いてしまった。彼の横で立っていた二人の警備員もだんだんイライラし始め、とうとう一人の若い警備員が口を挟んできた。

「篠崎さん、帰りたくないんですか?素直にあやまってお開きにしましょっ!」

すると明は

「なぜ、俺が謝らなくちゃいけないんですか?何も悪いことしてないのに・・・。俺はあなた方を訴えますよ!」

と言い、立ち上がると目の前の机の上にある電話を受話器ごと取り、電話をかけ始めた。

「ちょっと、あなた!?何をしているの?」

年配の看護師は彼から受話器を取り上げようとしたが強引に彼は身体をまるめ受話器を抱えたまま話さなかった。

「おい、こら!」

年配の警備員が彼の服を掴むと、

「今、警察に電話しています。あなたがたの強引な態度の音と強引な声が向こうに伝わっています。助けて下さい!ここは、・・・」

彼は話している最中にいきなり年配の警備員に電話を切られた。すると看護師が

「分かったは、もう帰ってもいいわ」

って言って彼を返した。

 

明は病院を出ると何事も無かったかの素振りで人波へと消えていった。

一方、警備委員と看護師は警察が来た時の良い訳を考えていたが、結局警察の方は誰もこなかった。そしてはじめて篠崎さんの演技だったことに気が付いたのである。

 

その病院こそが菅野 海と晃が生まれた病院だった。そこの心療内科は海のお母さんとお父さんが掛かっていた内科で、その当時の担当医は今も健在している。

明が取り押さえられる1時間前に菅野 海は婦人科に行って診察を受けていた。海が帰る時に明はエスカレーターで彼女とすれ違っていたが、お互い気づくことはなかった。



おわり

 

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あとがき そして明は・・・  その2



明は訳の分からないまま二人の警備員に両腕を抑えられ、そのまま連行された。みんなが彼を見ている。

――俺がここで反抗をすれば騒ぎがもっと大きくなり、今、気付かない人までもが捕らわれた俺に気付くだろう…。

明はそう思いながら警備員に従い寄り添いながら歩いた。



警備員室に入り、明は

「俺が何をしたって言うんですか?」

と呟くと彼らは明を警備室の奥へと連れて行き、折りたたみの椅子を広げて

「ここへ座れ」

と突き放した。

明はおもわず着地を失敗し椅子の端にお尻をぶつけ椅子ごと転げ落ちた。

「いてて」

明は二人の警備員を睨みつけ、そのまま黙って椅子を起こし座り直した。警備員の一人が机の中から書類を出し、明の前に広げボールペンを置いて

「ここに記入するんだ!」

と腕を組み明を上から見下ろしながら言った。明はその用紙に目をやるとしばらくして書き始めた。

彼が書いている間にもう一人の警備員はどこかに電話をし始めた。

「なんだお前は無職か!」

見下ろしていた警備員がそう呟くと明は彼を無視し黙って書類の書けるところだけを書続けた。

しばらくすると明を取り押さえようとした年配の看護師が警備員室に入って来た。明は

――さっきの電話は彼女を呼んでいたのか…

と思い

――なら、警備員を呼んだのもこの看護師か…

明は中年の看護師を睨み付け

「俺が何をしたって言うんですか!」

と怒鳴った。すると警備員の一人が机を叩き、

「静かにしろ!警察を呼んでもいいだぞ!」

と脅してきた。看護師は明の書いた書類を取り上げては彼の顔を見つめ

「篠崎 明さん、あなた46歳なの?仕事は?」

と尋ねたらすぐに

「今、働いてないのね。」

と書類を彼に返しながら呟くと、看護師は彼にどうして捕らえたかを説明し始めた。二人の警備員は彼の年齢を聞いて驚いたが、すぐに彼の横に行き立ったまま逃げ出さないよう彼を見張った。年配の看護師は彼の前に座り下を向いている彼を見ながら話し始めた。

「篠崎 明さん、まずあなたは何も悪い事はしてないと思うわ。でもね、ここは病院なの。分かるでしょ!病人でもない人が院内をウロウロしていたらおかしくない?もしかしたら何か事件を起こすかも知れないじゃない。最近は物騒だからこちらとしてもおかしな人を見かけたらとりあえず声を掛け確認しなくてはならないの。分かるでしょ!でも、あなたは私を振り切り逃げたわよね?逃げればやっぱり何かあると思うでしょ!だから、私が警備員を呼んで取り押さえてもらったの。」

看護師はずーっと篠崎 明を見ながらそう話すと、彼は黙ったまま顔を上げることなくシカトした。

すると看護師は

「篠崎さんが応えないのは構わない。でもそうしたらあなたはずーっと疑われたままになるのよ!それでも良いわけ?」

明はそれでもしばらく黙っていたが小さな声で呟き始めた。



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あとがき

 

そして、明は・・・  

 

 朝の通勤ラッシュ。人の波に紛れながら今日も当てもなく歩いている人がいる。見た目は20代後半から30代前半といった感じの男だ。

都会の朝をイキイキとして歩いている人達もいれば、下を向いて空を見上げることの出来ない人もいる。そんな中、彼は立ち止まりビルとビルの隙間から差し出す日差しを見上げ、彼はどうする事も出来なかった時間を思い浮かべていた。それは今日に始まった事ではなく、毎日に近いほど物思いに更けている時間で、ときおり空を見上げては涙を流していた。

 生きていれば誰もが平等に持つ事のできる時間も使い方しだいで変わっていくが、彼には生きていてもけっして動かせない時間が24年間もあった。時間にしてみればどの位の時間になるんだろうか。彼だけの時代(とき)が止まるって事が世間に着いていけなくなったという理由だけに過ぎないのか。そんな思いが毎日のように彼にかぶさってくるのだ。

全てが結果に過ぎず、誰もがこうなることを想像出来ただろうか。家族を含め彼の周りの人達は誰もが彼に失った24年間の事を話さず、意識が戻らなかったとしか知らされていない。ただ、時間と日数が過ぎて行く日々を彼と送っていた。

 今の彼には生きるという事の意味までもが分からなくなっている。なぜ彼に真実を告げないかったかというと、当時の菅野 海からの依頼で熊田 美奈子と幸せになってほしいという願いがあったからだ。

彼は毎日思い出せない時間のことで苦しんでいた。魂が彼の体に戻る事によって彼の脳にスイッチが入った。21歳で止まっていた回線に電気が流れ、記憶の扉を開ける事になるが、それと同時に魂に残っている記憶を消されてしまったのだ。
 彼は去年、市原の総合病院で目を覚ますが、なぜ自分がここにいることさえ分からず、伊豆でのバイク事故の記憶だけががスローモーションのように頭に浮かんでくるのであった。

 

人の波は歩くにつれ少しずつ自分の職場に入るなりして減って行く。そしてまた彼は取り残され、ただただ歩いていた。

彼にとって御茶ノ水の風景は昔とあまり変わっていないことから、唯一心が落ち着かせられる街でもあった。そして、古本屋をはじめ沢山の書店を一軒一軒巡り歩いて暇をつぶしている。

午後になって彼はJRの線路を挟み書店側とは反対側の街を歩き始めた。オフィス街の間に某大学病院があり、彼はとてつもない建物の偉大差に圧倒されフラフラ病院の中に入った。天井の高い吹き抜のロビーはまるでホテルを思わせるかのような作りになっており、正面にエスカレーターが設置されていた。彼は自分が市原で入院していたころを思い出し、都会と田舎の病院の作りの違いにあっけにとられていた。

彼はエスカレーターを登り高い天井を見上げるとまた涙が出て来た。

――なんでだろう…、俺は上を向くと悲しくなり涙が出てくる。彼は涙を手で拭きながらボケっと歩いていたら1人の年配の看護師とぶつかってつまづいた。

彼は振り返り

「すみません」

と小さな声で謝った。すると年配の看護師は

「どうかなされたんですか?」

と彼の涙と姿に疑問を持ったのか聞いてきた。彼は立ち止まり

「ちょっと考えごとをしていました。すみません。」

とまた軽くお辞儀をし当てもなく病院の中を歩き始めた。年配の看護師はそのまま彼をおいてその場から離れた。

彼は2階の心療内科の前で立ち止まり、その看板を見上げた。看板の左側には受け付けがあり、事務員とみられる若い女性が彼を見ている。彼は彼女に気がつくとその場から離れ、また長いローカを奥へと歩き始めた。病院の通路は途中で4つに分かれており、彼は右手側を見て婦人科の看板をみるとその方向に何気なく歩き始めた。途中、新生児室があり生まれたばかりの赤ちゃんの姿が見えた。

しばらくそこで赤ちゃんを眺めていた彼はまた歩きだそうとした時、さっきの年配の看護師と対面した。

「あなたのお子さんですか?」

と看護師は彼に尋ねると彼は看護師に目を背けて「いいえ…。」

と言ってその場を離れようとした。すると看護師は

「ちょっと待って下さい」

と彼の行く先にたって彼の肩に手をかけ道をふさいだ。すると彼は下を向き

「すみません」

と意味もなく謝って看護師から離れようとしたが、看護師は

「あなたここに(病院)に何しに来たんですか?

どの科に係っているんですか?」

と質問してきた。彼は下を向いたまま

「いいえ、ただブラブラと歩いているだけですから」

と応え、また彼女から離れようとしたが年配の看護師はしっかり彼の肩を押さえていたため動けなかった。彼はその手を力づくで払いのけ、歩いて来た方向へと戻って行った。

年配の看護師はすぐさま警備員に連絡し彼を捕まえるよう指示を出した。

彼がエスカレーターで降りている時にはもうすでに警備員が待ち伏せをしており、彼は警備員に捕まった。

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第5話 さよなら晃

 

 

一年


 菅野は雲の上から雲海を眺めていた。ここは標高2000メートルの蓼科スカイラインの頂上です。菅野はバイクの中型オートマ限定免許を取って、ビックスクーターを購入し、晃の歩んで来た人生を歩んでみたくなった。
さわやかな風にマイナスイオンの少し冷たい空気がとても美味しく感じていた。こういう風に景色の綺麗な所に来ると、晃が写真を撮りたくなる気持ちが分かるような気がした。
菅野はバックから携帯を取り出し、カメラモードにして雲海の所々に顔を出す山々を写真に収めていた。

 明さんは魂が戻って直ぐに待機していた救急車で市原の総合病院に運ばれたが、その後の事は菅野は知らない。あえて知ろうともしなかったし、月崎にも足を入れようとはしなかった。

 立花先輩や美穂先輩は
「明さんと結婚出来るね」
って言ってくれたけど、菅野の心の中にいるのは晃さんであり、存在する明さんではなかったという複雑な気持ちがまとわりついて、一歩たりと踏み出せないでいた。そんな気持ちを振り切りたく、現在存在する明さんと晃のたどってきた道と気持ちを知りたかった。

――晃に会いたい
  明さんじゃない…
  幽霊の晃に会いたい…
  私の分身は晃だから…

  いつか明さんが私を訪ねて来るかも知れない。           

・・・私からは絶対に訪ねない。

  そして、ま私を守ってくれるなら…
  今までの晃の心が少しでも残っているのなら…

と雲海を見ながら思っていた。

菅野 海にとって晃と月崎は恋の物語として胸の奥へと封印され、二度と行く事はなかった。

 

 

 


                    おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







第4話ごめんね晃 その3

 菅野達が話している最中に黒色の大きなベンツが駅前広場に一台入って来た。その車が止まると直ぐにスタッフ全員が車の前に集合し、車から霊媒師らしき人が降りて来ると、みんながお辞儀をした。白と黒の袴姿で降りてきたのは誰もが知っている有名な某霊媒師であった。辺りからはカメラのシャッター音が響きわたる中、霊媒師はスタッフに誘われスタッフ専用のバスに案内し、中へ入っていった。

しばらくするとスタッフの1人が菅野の所に来て
「某霊媒師さんが菅野さんにお話しがあるそうです。さぁ、どうぞこちらへ」
とスタッフは手のひらを上にしてバスの方に向けた。菅野はまたオロオロし、先輩方の顔を見た。先輩方は菅野に目で合図をし、
「さぁ、行きなさい!」
と立花先輩が声を掛けた。菅野はスタッフの後を付いて行き、某有名な霊媒師の乗っているバスの中へと入って行った。
「立花さん、今頃菅野は凄い人と会話しているんでしょうね!あんな有名な人が来るなんて私、ビックリしました。」
美穂は菅野がバスに乗り込むと立花さんに思っている事を伝えた。すると立花は
「本当ねぇー、あの菅野がねぇー。あの子大丈夫かしら?きっと緊張しまくっているわね!」
っと言った時、スタッフの1人がバスから降りて来て立花と中里の所にかけてきた。
「あの~、お二人共バスに来て頂けませんでしょうか?」
すると立花は
「うちの菅野がテンパりました?」
と尋ねるとスタッフは
はい
と言ってバスに案内した。
「立花さん、ビンゴです。」
美穂はそう言うとスタッフの後に着いて行きバスに乗り込み、続いて立花も乗り込んだ。そこで立花や中里が見たものは楽しそうにお茶をしている霊媒師と菅野の姿だった。 

 

「あんたね~!……。」
立花は何も言えなく
「さぁ、お二人共こちらへ」
と霊媒師は私達を霊媒師の前に座らせた。霊媒師は何やら呪文みたいなものを言い始め、私達のおでこをめがけて片手で親指と人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばし、薬指と小指は軽く曲げ「えぃ!」と切ってお辞儀をした。立花も中里もお辞儀をし、
「これは?」
と立花が某霊媒師に声をかけた。すると霊媒師は
「悪霊が取り付かないように、あなた方の魂に気を送りました」
と言って
「さぁ、あなた方もお茶を」
というとスタッフは立花と中里 美穂にもお茶と和菓子を出した。4人はお茶をしながら菅野の過去と晃の繋がりを話していた。
 一方、月崎駅の待合室では照明も付き、スタッフが掃除を始めていた。どうやら駅の待合室で霊を呼び戻すらしい。スタッフの1人は小道具の入ったトラックに行き、畳を持ち運び駅に向かった。それを見ていた他のスタッフも畳を持って駅に向かった。時間も迫ってきたせいか、関係者の動きも慌ただしくなって来た。そんな中、踏み切りが鳴り始めた。スタッフはお客様に迷惑のかからないよう、列車から降りて来る人達を誘導出来る準備体制を調えていた。周りで見ていた人達もスタッフの動きにはビックリしていた。
テレビ番組で1時間なものでも、まる1日かけて撮影をしている様子に感動していた。そんな中、有名人はゆっくりお茶をしながら出番を待っているんだろうなぁ。と、スタッフの動きを見ていた見物客は思っているに違いない。ディレクターらしき人が
「本番、1時間前!」
と大きな声を出して言った。観客も手に汗を書き始めていた。この月崎駅前が緊張の嵐に巻き込まれていた。
広場に組み建てられていた神棚らしき物を3人のスタッフが待合室へと運び始めた。しばらくするとスタッフの1人が菅野達が乗っているバスに向かって走って行った。
「すみません、準備が出来ました!」
と言うとお茶をしていた4人はバスから降りて待合室へと向かった。辺りからはまたシャッター音が響き渡った。スタッフは明さんのお母さんと熊田さんと校長先生を呼んで待合室に案内した。待合室では主役達も集まり最終確認を行っていた。カメラの位置や照明の位置なども実際に人が居る中で微調整され、音声の確認も行われた。
「座布団も人数分用意して!」

と辺りを見渡しながら某霊媒師が言うと、スタッフは
「はい、只今お持ちします」
と言ってトラックに向かった。
座布団が届くと座る位置を確認しながら某霊媒師は
「良いわ」
と言ってバスに戻った。その他のスタッフは時間が来るまで自由となった。菅野達は明さんに会いにワゴン車の方へ行った。
熊田さんと校長先生は明さんの関係者の所に行って今までの事情を説明していた。

「本番30分前!」
との声が聞こえた。
菅野はスタッフに呼び出され、またバスに乗ることになった。そのバスに若い女性スタッフも乗り込み、菅野のメイクとセットアップに入った。立花と美穂は緊張するなかウロウロしていた。
サイレンもなく一台の救急車が月崎駅前広場に入って来た。

「本番15分前!」
大きな声がすると、観客に1人のスタッフが
「良いですか、皆さん!本番5分前になったら大声を出すのは止めて下さいね~!それと、今から言う物は身から外して下さい。ネックレス、ピアスまたはイヤリング、腕時計その他、磁気を通すものは外してカバンに閉まって下さい~!悪霊が付くこともありますので…」
と言うと、1人の観客が
「カメラは良いですか?」
と声をかけてきた。するとスタッフは
「ストロボを焚かなければ良いです」
と言って現場に戻った。

「本番10分前!」
とうとう来た。バスからは某霊媒師と菅野が待合室へと向かって歩いていた。校長先生と熊田さんは明さんをベットごとゆっくり持ち運び出した。その直ぐ後ろにドクターが点滴を持ちながら待合室へと向かった。それを見ていた救急車の隊員が点滴掛けを持ってドクターの所に走って行った。
明さんは待合室のちょうど真ん中にベットごと置かれた。

「本番5分前!」
さっきまでザワザワしていた月崎駅前も一瞬に静かになった。時々、子供の叫ぶ声が聞こえるけど、親に怒られたせいか静かになっていた。
月崎駅前ではテレビカメラの前で待つアナウンサーが時間を気にしていた。
「3カメ良いかなぁ…!本番1分前」
「本番30秒前」
「5、4、3、… … 」
3カメのランプが付きアナウンサーが話始めた。
立花と美穂も両手を握りしめ成功を祈っていた。

 

 

 

第4話 ごめんね晃 その2


 月崎の駅前はテレビ局のスタッフでいっぱいだった。撮影のための照明や音声の確認もされていた。菅野 海は立花先輩と中里 美穂先輩とで月崎駅前に10時ごろ来ていた。
菅野はスタッフの所に行って挨拶を済ませると、スタッフは
「菅野さんにもテレビに出てもらいたいのですが大丈夫ですか?」
と言って来た。菅野は先輩方の所に戻り
「どうしよう…私もテレビに出て下さいって」
すると、立花先輩は
「私は初めからあなたがテレビに出ると思ったわ。」
と言うと美穂先輩も
「勿論そういう事じゃない!菅野はもうスターよ!」
菅野だけがテレビ参加に気付いていなかった。
「どうして、私がテレビに出る訳?」
菅野は二人の顔を見ながら言うと
「インタビューよ!だって晃の26年間を知っているのはあなただけよ!」
立花先輩が言うと
「そんな事テレビ局の人は電話で言わなかったもん」
と菅野が言うと美穂は
「直接テレビ局から電話が来たんでしょ!だったらそういう事じゃない!普通なら。」
菅野はオロオロしながら
「どうしよう…何を話したら良いのかなぁ…?」
と二人に質問すると立花は
「スタッフに聞いて来たら? 多分、打ち合わせで言われるんじゃないかなぁ…?私もこういう経験がないから解らないわ!
ほら、スタッフの方が待ってるわよ!」
と言って菅野の背中を叩いた。
菅野はオロオロスタッフの所に戻り、
「私は何を話せば良いんですか?」
と質問すると
「こちらからタイミングをみて質問するから、それに答えて頂ければ良いですよ!打ち合わせになったらまた呼びますので、近くに居て下さいね!」
とスタッフの人は言って菅野から離れた。

 撮影の準備はどんどん進められ、広場の一角に神棚らしきものも用意され始めた。当然、この大掛かりの様子を見にくる人達で賑わっていた。普段の鉄道マニアの人達も、今日は列車を写すのは辞めて、カメラを持ったまま撮影準備を見ていた。中には脚立を出して写真を撮る準備をしている鉄道マニアの方もいた。
今回の撮影とは関係ないモデルさんも雑誌の撮影で月崎駅に来ていたが、撮影を済ませるとカメラマンと一緒に撮影準備を眺めていた。どこで聞いてきたか知らないが、今日の撮影で誰が来るかも知っている人もいた。
「何が始まるんです?」
と若い鉄道マニアのカメラマンが菅野に聞いて来た。菅野はそのカメラマンに
「なんか有名な霊媒師さんが来て霊を元の身体に戻すんですって」
菅野はその霊媒師が誰なのかも知らないが、そう言った。すると若いカメラマンは
「除霊じゃなく霊を戻すんですか?そんなの今までに観たことないです。これは凄い事ですね!今日は来て良かった」
と言って青年は軽く頭を下げ撮影現場の写真を撮り始めた。
 しばらくするとバスが一台と大きなワゴン車が月崎駅前に入って来た。バスから校長先生をはじめ、明さんに関係する人達が次から次へと降りて来た。ワゴン車からは熊田さんと明さんのお母さんが降りて来て、スタッフの所に行って挨拶をしていた。
しばらくしてワゴン車から白衣を来たおじいさんが降りて来た。聴診器をぶら下げているところを見ると、現在掛かり付けの明さんの主治医だった。
3人がスタッフに挨拶を済ませると、私達の所に来て深く頭を下げ、
「この度は本当にありがとうございました。ここまでこれたのは皆さんのお陰です。」
と言った。菅野は溜まっていたこと言い返そうとしたが、先輩方に止められた。3人が私達から離れていくと菅野は
「なんで止めるんですか?私はただ、相談もなく事を進めていた事を謝って欲しいと言いたかっただけなのに…」
と言うと立花先輩は
「だから止めたのよ!いい菅野、今更言ってもしょうがないでしょ!それよりも、晃さんが元の身体に戻ったら、あなたにもチャンスがあるのよ!」
横から美穂先輩も
「そうよ菅野!絶対にあり得なかった事が起きる可能性もあるのよ!」
菅野は二人の言葉を聞いてやっと何を言っているか理解が出来た。
「わかった!何私は考えていたんだろう!そうですよね!もしかしたら晃と結婚も出来るんですよね!」
菅野は急に明るくなり何時もの菅野 海に戻った。


第4話 ごめんね晃 その1

 


1ヶ月後

 晩ご飯を食べている時、某テレビ局の男性から菅野 海宛てに電話が来た。内容は霊媒師を使って晃を自分の身体に戻すことだった。
「桜台中学校の校長先生からのご依頼で、某テレビ局に相談がありました。あの有名な霊媒師を呼んで魂を戻して下さいとの事で私達はそれを承知しました。それで、菅野 海さんにも当日来て頂けないでしょうか?」
との内容だった。
菅野は自分の知らない所で事が運んでいた事に腹にきていた。
「あの、すみません。少し考えさして頂けませんでしょうか?」
と言うと某テレビ局の男性は実行日の場所と日程と時間を言って電話を切った。
2週間後に月崎駅前に11時からだった。打ち合わせをしてから12時に開始予定だ。


 翌日、菅野は会社で立花先輩や美穂先輩に相談をしたが、結局二人共この件に関しては何も言う事が出来なかった。実際、幽霊はこの世での存在感は認めてもらえず、菅野は止めてほしいとは言ったが受け入れてもらえなかった。受け入れが出来るのは菅野ではなく、実際に存在する明さんと明さんのお母さんに所有権があった。

――もうどうにもならない…、晃、ごめんね…私が晃の過去を調べたからこんな風になっちゃって…晃は戻りたくないんだよねぇ…
なのに私は…

晃、今度こそ本当にサヨナラなんだね…
私、自分のしたことが悔しくて悔しくてしょうがないよ…
わたし、死にたい!
死んで晃にお詫びしたい!
そして、晃の代わりに市原の森を守って行きたい!
菅野は夜遅く、無意識に家を出て行った。

 雨の降る夜中はもう誰も歩いていない。菅野はぼんやり駅に向かって歩き続けていた。
気がつけば駅前のマンションの最上階に来ていてぼんやり遠くを眺めていた。
菅野の瞳には涙で潤み、また雨のしずくで街の明かりが滲んで見えた。
菅野は最上階から身を乗り出しマンションの真下をボケーッと見ている時、その階の住民に声をかけられ、我に帰った。
――私、何やっているんだろう。
「すみませんでした。ここから見る街がとても綺麗だったから…」
と住民に言って帰った。
 雨の中、傘も持たずに家を出た記憶が全くなく、我に帰った菅野を恐怖が襲いかかってきた。家に戻るなりお母さんに
「あんた傘も持たないで何処へ行ってたの?」
と何時もの口調で言って来た。
――現実だ。
菅野は何も応えず黙って自分の部屋に戻り、我に帰って受け入れる事にした。

――この世では時間が進んでいる。誰も時間を止めたり戻すことなんて出来ない。明さんが蘇る事も現実で、それをずっーと待っていた人がいた事も現実。現実では幽霊の存在は認められない。幽霊の言い訳はこの世では通用しない。生きている人が優先されてしまう。そんな世の中に私も生きているんだから、流れに逆らえない。受け入れるしかないんだよね。

菅野は自分に言い聞かせ、熊田さんを晃にあわせる事を決意したあの時の自分を思い出していた。ただ、あの時は菅野の心の隅に
――晃が他人であることを願っていたのと、晃は戻らないだろうなぁ…
という気持ちが隠れていたんだと思った。

第4章 最終章 
第3話 揺れる思い その2


部屋に戻った海は立花先輩と美穂先輩にメールで今日の事を伝えようと携帯を手にしたらメールが届いている事に気がついた。宛名は熊田 美奈子さんからだった。
そのメールには
「今日はありがとうございました。あれから私は明さん宅を訪れ明さんの様子を見に行きました。しかし、明さんの意識は戻っていませんでした。以前、菅野さんが晃さんは戻り方を知らないって言っていましたよね。きっと、自分の過去を思い出しても戻れないで困っているんじゃないですか?菅野さんはあの後、晃さんと会話したんですか?」
との内容でした。
菅野はベットの上に座りながら熊田 美奈子さんに返信を出した。
「熊田さん、明さんは目覚めなかったんですか?」
菅野はメールを打ちながら少し安心し始めていた。気分が少し楽になって行く自分を感じながらメールを打ち続けた。
「あれから私は晃の声も気配も聞こえなかったし、感じなかったです。それじゃ、晃は何処へ行ってしまったんでしょうか?もうこうなったら私じゃどうしようもないです。もう一度、私が月崎に行って晃を捕まえてみますね。それまで熊田さん、待って頂けますか?」
菅野は何故か嬉しくなり、自分がやっている事と心の中の不一致に気付き始めた。

――やっぱり私は晃を誰にも渡したくない!晃は私の大切な兄だもん。ううん、恋人だもん。私の晃だもん。 

 

一週間後、菅野はもう一度月崎に行って晃と会話をしに行ったが、まる半日経っても晃と会う事は出来なかった。晃がこの辺りに居るのか居ないのかも解らないまま帰宅した。
――晃、何処へ行っちゃったの?
…それとも私が晃の声を聴けなくなったの?
あの時以来晃の声を聴く事は出来ないまま月日は流れていった。

第4章 最終章 
第3話 揺れる思い その1

 

 

自宅に帰った私は料理中のお母さんに晃が戻ったかも知れないと告げると、お母さんは
「良いんじゃないの」
とあっけない返事で返ってきた。普段ならここでお母さんと言い争うくらいの言葉だったのに、私にはそんな力がもうなかった。お母さんは
「今日の料理はハンバーグよ!あなた好きでしょう!今から10分でハンバーグとソースを作るから見てなさいね!」
と言ってきたがお母さんに返事はしないでボンヤリ眺めていた。
お母さんはハンバーグの具をビニール袋に入れもみ始め、それを床に置いたと思いきや足で軽く踏み始めた。まるでうどんを作る要領で袋はハンバーグの具と一緒にペタンコになった。さすがに私もそれを見ていたら
「お母さん、何やっているのよ!汚いなぁ…」
と言って母を見つめた。するとお母さんは
「どこが汚いのよ!ちゃんと袋に入っているから汚くないでしょ!こうするとね、一気にハンバーグの空気が抜けるのよ!ハンバーグで空気が入っているとパサパサにバラけてしまうんだから!わかった?」
菅野はテーブルに両肘をつきながら
「理屈は解ったけど、見ていると汚く見えるよ…」
お母さんは蓋の大きな空き瓶に八丁味噌を少し入れ、インスタントコーヒーを少々とケチャップを沢山入れ、そこに水を100程入れて蓋をし、シェークし始めた。
「なにそれ? なんかまずそう~。私、食べたくない!それになんだか食欲湧かないんだもん。お母さんは晃が消えても良い訳?」
母は袋の角をはさみで大きめに切ってフライパンにハンバーグを絞り出し、焼き始めた。
「晃さんのお話しはご飯食べながら聞くから私の料理を見てて頂戴!」
と言って、適当に切った人参をレンジで加熱しながら、ハンバーグをひっくり返し、味噌とコーヒーの入ったものを入れ蓋をした。
「この料理はね短時間で美味しいハンバーグが作れるのよ!さっきのソースはデミグラスソースに早変わりしちゃうんだから!昨日、テレビでやってたのよ!でも、家にはヤカンがないから足で軽く踏んだげど、テレビではヤカンでハンバーグのガス抜きをしたのよ。」
って自慢げにお母さんは話した。レンジがチーンと鳴ると人参を取り出し、ハンバーグの入ったフライパン中に入れて一緒に煮込んだ。
「はい、出来たわよ!お皿の用意してくれる?」
菅野はノロノロ動き出し、大きめなお皿をテーブルに置いた。そこへお母さんはフライパンを持ってきてハンバーグを移した。すると香ばしい良い香りがした。
「なんか美味しそうじゃない!」
菅野はそう言うとハンバーグを一口食べてみた。
「何これ、美味しい!お母さんの料理じゃないみたい!ソースも美味しい!味噌で味付けしたなんて解らないよ!レストランのハンバーグみたいだよ!」
お母さんもエプロンを外し 
「で、晃さんが戻ったかもって何処へ?」
お母さんは食べながら私に言って来た。私もハンバーグを食べながら
「今日、晃は昔を思い出したみたい…。そうしたら晃の声が聴こえなくなったの。きっと今頃、晃は松戸の実家で目を開けたんじゃないかなぁ…。」
話しながら食べていた海は静かにフォークとナイフを置き、お母さんを見た。お母さんはいっこうに食べるのを止めず、
「そう、良かったじゃない!きっとあんたに感謝してるわよ!」
と言った。
「お母さん、お母さんは平気なの?」
海が言うとお母さんは
「何が?」
と返事した。
私はハンバーグを一口食べるとまたシルバーセットを置いて
「だって晃はお母さんの子でもあるんだよ!」
母もシルバーセットを置いて
「どうして?」
と言って水を一口飲んだ。
「だって晃は私と一緒にお母さんのお腹の中から産まれたんだよ!だから晃は私の兄妹でもあるんだよ」
するとお母さんは
「姿形もない幽霊が産まれたって誰が親子と認める訳?戸籍もないし母子手帳もないのよ!」
私はまた食べるのを止めて
「もう良い、お母さんは冷たすぎる!晃が消える前にね、お母さんの事を本当のお母さんのように言ったのよ!私と晃は同じお腹から産まれた兄妹だよ!って」
海が話をし始めるとお母さんは自分の作った料理を食べ始め、関心度が少なすぎる母を冷たい視線で見つめ
「もう、良い!ご馳走様。ねぇお母さん!お母さんは余りモテなかったでしょう?私良かった、お母さんに似ないで。もし、お母さんに似ていたら友達いなくなっちゃうもん!」
と言って立ち上がり、椅子を元に戻し自分の部屋へと上がって言った。
お母さんは食べ残したあの子のお皿を自分のところに持って来て、独り食べ残しハンバーグを食べていた。

第4章 最終回 
第2話 菅野 海と熊田美奈子 その3



「ふたりで走った海の側を

打ち寄せる波に追われ
夕陽が沈む海を染めて
私を包むように

静けさ戻した白浜に涼風が
焼けた砂を優しく包む
浜を冷やし
私を包むように

夜空に輝く銀の星よ
手に余る星に溢れ
誓った愛の素晴らしさ
私と語ってくれた

あなたの肩に頬を寄せて
見つめる夜空はロマンの入り口熱く燃える
口づけを交わして

ふたりで走った海の側を
打ち寄せる波に追われ
思い出残そう愛の島よ
私の青春の島」

菅野は熊田さんの歌を聞いて胸が苦しくなってきた。熊田は菅野の顔を見ることなく、次の歌を歌い始めた。

「さわやかな日差しを浴びて
吐く息が白く消える
キラキラ輝く白馬の山にも
また少し雪が増えたね

君のいないこの白馬にも
また冬が近付くよ
2年が過ぎて心に残る
君の面影が
目に浮かぶ

サヨナラなんか言いたくないよ
君が悲しむから
いつまでも

木枯らしが枯れ葉を包み
舞い上がる夕陽の中へ
真っ赤な日差しが白馬の山へと
また今日も君を連れ去り

あの夜空に輝く星は
君の姿かも知れない
星と星を僕の指先で
結べば君の横顔
届かない

2年が過ぎて心に残る
君の面影は
届かない

サヨナラなんか言いたくないよ
君を悲しませるから
いつまでも

サヨナラなんか言いたくないよ
君を愛しているから
いつまでも
いつまでも」


熊田が歌い終え、月崎の駅から晃自体が消えていたのであった。
 しばらく沈黙が続く中、菅野は晃の返事を静かに待っていたが、晃は姿を消したまま帰って来なかった。熊田はベンチに並べた写真を取ろうとした時、急に風が吹いてそれらの写真を舞い上げた。その時、菅野も熊田も一瞬晃を感じとることが出来たが、それ以降晃からの応答はなかった。菅野は胸が苦しくなり急にしゃがみこんでしまった。
「菅野さん、菅野さん、大丈夫!?」
熊田は心配そうに菅野の体を揺すった。しばらくして菅野に意識が戻って来て
「晃が明さんだった!この胸の痛みと意識がなくなる感じは、私が初めてここに来た時と同じものでした。晃に会った時と…
なら今のは晃とのお別れかも知れない」
菅野はそれから言葉をなくし、かろうじて熊田さんに
「良かったですね。熊田さんの歌と写真で晃は思い出したみたいですよ…。今の歌は明さんが作った詩なの…?」
と言って目を瞑った。すると熊田美奈子は
「あの詩は明さんのオリジナルなんです。明さんが中学生の時に授業中に作った歌で何時も口づさんでいました。
始めの詩が『青春の島』で、もう一つが『君のいない白馬』です。
私もイヤとなる程聴かされてましたから、その歌を全て覚えてしまいました。」
菅野は
「良い詩ですね。もう、私には晃の声は聴こえないかも知れない。たぶん晃が思い出したに違いありません。晃は明さんの身体に戻ったかも知れない。私、ここで独りになりたいです。すみませんが熊田さん、先に帰って頂けないでしょうか?きっと明さんが目覚めているかも知れません。」
熊田は
「えぇ、わかったわ。菅野さん、本当にありがとうございました。私、早速明さんのお母さんに連絡取ってみます。」
菅野は
「お母さんに良かったですね。と伝えて下さい」
と言ってその場を離れ独り月崎の線路を歩き始めた。   

熊田が帰ってからしばらく月崎に残った菅野 海は、姿を消した晃が戻って来るような気もしたが、その日はあれ以来晃の声を聞くことはなかった。