天の墓標 / second | Marionetto

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オリジナル小説と二次創作を書いています。

俺は整備班の様子を確認した後、フライトスーツのまま周囲をふらついた。今のところは穏やかに時間が過ぎている。めずらしい事だった。まだスクランブルはない。


地球と惑星フェアリィを結ぶ超空間通路を中心に6つの基地が円状に展開し、その地下には居住区を含む地下都市が広がる。俺が配属されているのはそこから離れた16ある前線基地の1つ、TAB(Tactical Air Base)-13。入れ替わり立ち代わり隊が出撃し、ジャムの前線基地と交戦状態にあった。穏やかとは無縁の戦地。それでも時折訪れる穏やかな時間は、前線である事を忘れさせる。


整備された滑走路から先は金属光沢を放つ深緑の森が広がる。密林を圧縮したような高密度の森。FAFが空軍に特化せざる負えなかったのはジャムに合わせた結果でもあるが、フェアリィを覆う森のせいで地上を移動する戦車などの兵装が使えなかった事もある。森には原住生物が住み、撃墜されようものなら運よく爆発から逃れる事が出来たとしても生物たちの餌食になる事も多い。機体の破片を回収するのが精いっぱいでパイロットの遺体回収が出来ずに終わる事もある。ぼんやりと森を眺めていたが、背後からこちらへ近づく靴音がして振り返った。



「橘少尉。李少尉からカードで巻き上げたって本当ですか?あの人、ものすごく意気込んでましたよ!今日こそ貴方から巻き上げ返してやるって」


「懲りない人だな。俺はいい加減カードには飽きたよ...それとあまり大きな声で言うな。聞かれたら処分ものだぞ。まぁ、公然の秘密ってやつだが」



俺に声をかけてきたのは同じ日本人である新藤少尉だった。彼は俺とは違って軍属からFAFへ志願してきた男だ。俺が犯罪者上がりだと言う事も知っているがその態度は崩さない。人懐っこい性格から可愛がられている。このTABー13には日本人が少ない事もあり、同じ隊所属の縁もあって俺たちは良くつるんでいた。


新藤少尉の声は近くの整備班の連中に聞こえてしまっていたらしく「ほどほどにしておけよ」と苦笑を浮かべていた。そう言う連中も賭け事には目が無い。しょっちゅう酒を賭けて勝負をしているのを俺は知っていた。お互い様だ。



「今日は、穏やかに過ごせそうですね」


「だと良いがな。ヤツラに定休日だなんてありえないんだ、気を抜くなよ」



分かっていますよ、と新藤少尉は肩をすくめた。軍属だったと言う割にはどこか気の抜けた奴だ。ふと軍人として務めた年月はさほどないと言っていたのを思い出す。気質が合わなかったのかもしれない。堅苦しいよりはやりやすいと思うが心配に思う時もある。そろそろ整備も終わるころだろうと新藤少尉は自らの愛機へ向かった。俺も自機に向かう。整備班が手早く最終点検をしている所だった。機体のブルーグレーが陽射しを受けて白む。


俺の所属隊は戦術戦闘飛行隊"ガルーダ" 搭乗機はFA-2 FERNⅡ<ファーンⅡ>。こいつは他の機種よりも高機動性能をもつ主力機だ。ジャムと直接ドッグファイトするのが役目になる。従来の主力であった<ファーンⅠ>とは全体的な形状からして変わっていた。後退翼と前進翼をもち、正面から見ると翼の配置がXに見える。


下ろされていた折り畳み式タラップを昇り始めたところで緊急出撃命令がアナウンスされる。激戦区に位置するTAB-14から飛んだ部隊から支援要請が来ているとの事だ。座席に着くとキャノピがクローズされる。マスク、ハーネスを取り付け、身を座席に沈めた。ヘルメットバイザー、キャノピ越しに見るフェアリィの空はエメラルドグリーンに染め上げらえれ、どこまでも高く澄んでいる。エンジン始動。エンジンの回転数が上がっていく。この瞬間、俺は生きているのだと実感する。