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2004-10-31

松井とミスター

テーマ:僕の生活
皆から「ミスター」と呼ばれる野球好きの仲間がいる。
そのミスターが、くやしそうに古い新聞を握り締めていた。
なんでも、松井がいるヤンキースが
ワールドシリーズに行けなかったというのだ。

ミスターは生粋の巨人ファンだが、
野球そのものが好きな野球狂でもある。
松井が元巨人という事とも相俟って、
松井の活躍には一喜一憂してたほどだ。

「松井は世界でだって活躍できます!」

といつも息巻いてたミスターは、
この公園の誰よりも松井の活躍を確信していた。

私もそんなに詳しい方じゃなかったが、
ミスターの野球熱にあてられたらしく、
以前より自然と詳しくなった。

野球素人の私でも残念だと思ったほどだから、
ミスターは余程くやしかったのだろう。

我々は、世界の松井とは程遠い世界にいるが、
それでも松井と同じ世界で生きている。
我々の生活はギリギリだけど、
松井だってギリギリで頑張っていると思う。

「来年は巨人も松井のヤンキースも優勝してダブルハッピー」

と、ミスターは来年の野球に夢を馳せていた。
2004-10-31

親分

テーマ:僕の生活
また雨だ。屋根のあるところへ移動しなければ。
新潟モ雨なんだろうか。
人様の心配をするような身分では無い事は重々承知だが、
やはり被災者の方々の生活が気になる。

山ちゃんと一緒に毛布を担いで移動していると、

「お前ら、どこ行くんだよ!」

と、一人の男に声をかけられた。
雰囲気で同業者だと解るが、
見た目はこざっぱりとしており、
ガッチリとした体格と面構えに威圧感を感じる。
少し脅えながらも山ちゃんが

「あ、雨降って来たからよう、しのげるとこまで行くんだよ…」

と言うと、

「お前ら、公園の連中だろ?雨が止んだらすぐ戻るんだぞ」

とだけ言い捨ててまたどこかへ行ってしまった。

「あいつ、親分つって、この辺の顔役なんだよ。
面倒だから逆らわん方がいいよ」

と山ちゃんがホッとした様子で教えてくれた。
話には聞いていたが、噂に違わぬ男だな、と思った。

落ち着けそうな場所を見つけ、山ちゃんと一緒に寝床を準備した。
疲れたので早く眠ってしまいたかった。
2004-10-30

ミツコのとこ

テーマ:今日の食事
早朝に開店する飲み屋がある。
店の名前はないが、みんな「ミツコのトコ」と呼んでいる。
店主である女将の名前がミツコというからだ。
ミツコも同じホームレス仲間だ。
昔は水商売をやっていたらしい。

ミツコのトコは、毎週土曜の6時前に開店する。
開店といっても、クーラーボックスと、
組み立て式のテーブルがふたつあるだけの簡易店舗だ。
ここで飲む酒で一番高い酒は、常連だけが知っている、

「ビールの焼酎割り」

昔でいうところのホッピーみたいな飲み物だが、
ホッピーはビールの代用品だった訳で、
本当のビールにアルコール度を増すための焼酎を入れると
ホッピーより味わいがあって美味い。
そしてビールより良く酔えるのも魅力的だ。

注文は、ミツコに「ビールのアレ」と言えば通じる。
たまに焼酎を多めに入れてくれるのも嬉しい。

アルミ缶集めを終えた人たちが、憩いの場として利用する飲み屋。
「ビールの空き缶を山ほどあつめて、コレ飲めるの一杯なんだよな」
と、山ちゃんはちびちびと焼酎のお湯割りを飲みながら言った。

一般の人が動き出す、朝7時には看板の「ミツコのトコ」。
日本で一番営業時間の短い飲み屋なのかもしれない。
2004-10-29

破られた雑誌の謎(後編)

テーマ:僕の生活
駅に捨てられている雑誌が破られている理由。
キンさんが駅でサラリーマンと喧嘩をしたことでわかった。

なんでも、雑誌を捨てるサラリーマンがいたらしく、
キンさんは近くで雑誌を捨てるのを待っていたらしい。
ところが、サラリーマンがキンさんに気づいたとたん、
急にキンさんの方を向きながら、雑誌を破りはじめたそうだ。
驚いたキンさんは、

「ちょ、ちょっと待てよ!捨てるなら、そのまま捨ててくれよ!」

と止めたそうだ。
そうしたら、そのサラリーマンは、

「はぁ?俺が買った雑誌を俺がどう捨てようが勝手だろうがぁ!」

と、怒鳴った後に、

「俺は前々から俺が汗水流して働いた金で買った雑誌で、
小銭を稼いでるオメェらが気に食わないの!わかる?」

と悪態をついてきたそうだ。
この一言にキンさんがキレて、
そのサラリーマンに掴みかかったが
逆に殴られて逃げてきたそうだ。

キンさんは、殴られて腫れた顔をして、公園に帰ってきた。

ノリさんがボソリと言う。

「やっぱり雑誌はもうダメだなあ。
その筋の人たちに吸い上げられちゃって、
もうおいしくないし…
やっぱりビッグイシューやろうかなあ…」

ドキリとした。
2004-10-29

破られた雑誌の謎(前編)

テーマ:僕の生活
温厚なノリさんが途方にくれていた。
なんでも、拾う雑誌、拾う雑誌がことごとく表紙やら、
中表紙やらが破られているというのだ。

「これじゃあ、売り物にならないよう」

古雑誌は、僕たちホームレスにとって、
数少ない現金収入源だ。

昔は、入場券で電車に乗って、各駅各駅のゴミ箱から、
雑誌をこまめに集めては、駅前で売っていたみたいだが、
近頃は駅のホームに設置されていたゴミ箱が、
テロ対策とかで撤去され、
売り物になるような雑誌をうまく拾うのは
とてもむずかしくなっている。

そんな状態でやっと拾った雑誌がことごとく破られている。
これじゃあ、流石に売り物にはならない。

捨てる雑誌の表紙を破る理由が全くわからない。
捨てるなら、そのままポイッっと捨ててくれればいいのに。

その理由は、その日のうちにわかった。

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