テーマ:セミショートストーリー
ここ、桜舞高校の一室で、私たちディベート部は活動している。
ディベートとは「討論する」という意味の英語である。
文字通り、私たちの活動はディベートだ。
世の行く末だったり、明日の献立について真剣に討論している。
討論している間だけ、私たちは世界の中心になる。
世界の中心は私たちになる。
「さて、今日の議題は“学校教育”だ」
議題は私たち個々人の希望を参考に、部長が決める。
現部長の立花さんは、誰かの提案の時、
「今日はだれそれの案でうんぬん」
と言うので、これは立花さんの発案なんだろう。
「はい議長!」
1本目の発言は、新入部員の新出くんだ。
元気で実直、小学生のような意見考え方をする子だ。
「学校なんていらないでしょ。だって学校無いほうが楽じゃん♪」
パッと場が和む。
新出くんが入部するまでは初っぱなから
「私はこうだと思います」
って硬っ固っっ堅っっっみたいな討論だったけど、今ではこういう笑いの中で始まる。
部員の中では新出くんのことをよく思ってない人もいるけど、私は好きだな。
あくまで、ディベート部員として、ね。
「新出に賛成するわけじゃありませんが、僕も学校教育には反対ですね」
眼鏡の慎重派、佐渡くん。
新出くんの同級生だけど全く正反対な子みたい。
「みんなで手をつないでゴールみたいに、一緒に何かをすることが度をすぎてる気がします。ある程度一人一人離れた教育をしても良いんじゃないでしょうか?」
「わたしは、その反対の意見」
次の発言は花平センパイだ。
ハナヒラ マドカ
名前からして漫画のお嬢様みたいだけど、そんな雰囲気をそのまま醸し出してるのが花平せんぱいだ。
落ち着いたお姉さんみたいな人で、ものすごく綺麗。
男女関わらず人気があるセンパイだ。
「ある意味じゃ甘ったるいそんな関係が良いんじゃない?集団生活の中で学ぶっていう」
「じゃおれも賛成っと」
と言ったのは高町だ。
私の同級生、花平せんぱいにほの字の男子。ついでにバカ。
「高町、お前、自分の意見で話せよ」
「何言ってんすかせんぱい。ちゃんと理由もありますよ」
理由なんてあと付けでどうにでもなる。
高町はディベートより花平せんぱいのほうが大事なんだ。
「学校教育のおかげで学芸会だの運動会だのできるわけでしょ?学校は嫌いだけど、そういうのが無くなるのは嫌だ」
それじゃただのお前の感情だって、みんな思ったけど言わなかった。
もうみんな言ったことがあるから、言っても無理なこと知ってんだ。
「ねぇ、ネコちゃんはどう思うの?」
断っておくが“ネコ”ちゃんは本名じゃない。
授業中にぐっすり眠ってばかりいるから、気がつくとみんな猫って呼んでたんだ。
いつの間にか、部活でもそう呼ばれている。
他ならぬ、花平せんぱいから言われると、なんだか悪い気はしなかったりする。
「私は、学校教育自体には賛成です。でも今の体制には反対ですね」
「体制って、ゆとり?」
「違うって。みんなが一緒に同じ教科を習う体制のこと。みんなに個性あるように勉強にももっと選択制があってもいいと思います」
「つまりもっとより専門的な内容を教えてもいいんじゃないかってことかな?」
「そうです。例えば家業の八百屋を継ぐ人には経営に特化した教育を、CAを目指す人にはよりグローバルな言語教育をすれば良いと思います」
「でもさ、やりたいことが見つからない子だっているじゃんか」
「そしたら総合科として今まで通りの勉強をさせれば良いんじゃないんですかね。それぞれ学ぶことは違うとしても、学校内での運動会などの行事は一緒にやれる。良いとこだらけですよ」
学校、学校、学校が終わると人はいきなり社会に放り出される。
それなのに、社会に活用できる勉強っていうのは大学、専門学校からでしかやらない。
もっと早くからそういう勉強の機会を与えても良いんじゃないか、ってのが私の考えだ。
ジリリリリ!
時計が鳴った。
ディベートって白熱するといつまでも続くから、常に制限時間を設けている。
中心に置かれた目覚まし時計がなったら白熱してようが討論終了だ。
「じゃ、僕の意見を言おうか」
制限時間終了後、部長が自分の意見を言って活動が終わる。
ディベート部発足当時から変わらない、うちの伝統だ。
「僕は今のまま、なにも変える必要ないと思う」
バッサリと私の意見を斬った。
斬られた...
「確かに変えるべきだとは思う。でも変えるのは大変なんだ。週休2日制しかり、ゆとり政策しかり、いつも苦しむのは子どもたちだ」
「確かに。俺なんか台形の面積の求め方なんか習ってないですもん」
部屋にまた一笑が起こる。
「それは新出が聞いてなかっただけだろ?」
「いやほんとっすよ!ゆとりで教えなくなって、それが問題視されたせいで俺の次の学年から教えるようになったんですよ」
そう言われてみると、学校の授業では教わらなかった、気がする。
「確かに、俺は塾で教わった気がする」
「あぁそっか。私もそうだったかも」
言ってはみたけど、あれほんとにそうだったっけ、ってまだ考え中だった。
「新出の件は別としても、実際に制度が変わった後とその前で、学校内でも違いが出てくる。だから全く新しい教育体型を作ってしまえば、それをギリギリ受けられない世代ができてしまう」
私の目にそう語って来る立花部長。
「子ども手当をギリギリもらえない、みたいな話ですね」
このたとえは思いの外分かりやすかったらしく、部屋全体から
「あぁ」「なるほどね」
って声が聞こえてくる。
なんだか良い気分。
「変化に生徒たちを苦しめるくらいなら、多少問題があろうと今のままで継続すべきじゃないかなって思うんだ。それに」
立花部長は花平せんぱいと高町を見た。
「二人が言ってくれたような利点も多いしね」
「こうしてディベート部が活動できてるのも学校教育の賜物だしね」
花平せんぱいの一言で、綺麗に今日の討論は終わった。
なかなか良いディベートだったんじゃないかな?
ここ、桜舞高校の一室で、私たちディベート部は活動している。
討論している間だけ、私たちは世界の中心になる。
世界の中心は私たちになる。
つづく...
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