気になる本・気になる記事(19)
車 啓一郎の随想から
「旗のはなし」(1)星条旗
私がアメリカにいた先輩と親友にアメリカの国旗つまり星条旗のことについて聞いたのは、もう30年も前のことでした。某メーカーのアメリカ法人の社長をしていたMさんに尋ねました。「アメリカという国はさまざまな人種、さまざまな宗教の人達が住んで暮らしていますが、一体アメリカにはナショナリズムというものはあるのでしょうか。もしあればそれはどんなものですか?」
Mさんはしばらく考えていましたが、「それは旗ですよ」と一言こたえてくれました。それからしばらくして、やはり別のアメリカ法人の代表を務めていた学生時代からの親友のS君に全く同じ質問をしたところ、彼も少し考えて「うむ、それは星条旗だな」と一言つぶやきました。
多様な価値観や背景を持っている多数の人々を「星条旗」だけで統括するのは凄いことだと思いますが、別の見方をすれば、旗のほかに精神的な統合の方法を持っていない厳しい国だということが出来るでしょう。
S君は言葉をつづけて「アメリカのことを知りたいなら司馬遼太郎の<アメリカ素描>を読んでみろ」と云うのです。私は「司馬遼太郎は好きだが、ただの旅行者だろう。アメリカ在住の人達とは違うのではないのか」と疑問を呈したが「まあ読んで見ろよ。正鵠を射ているよ」と云われ帰国してその本を手に入れました。
司馬遼太郎はその作品の中で、アメリカは世界で唯一の人工国家だと評しています。つまり普遍性のない地域文化の中に自然発生的に生まれた国ではなく、合理的な文明と云うものが人工的に作りあげた契約社会だということです。
旗の必要度は長い歴史を持った国よりもさらに大きいと云えるでしょう。その点は島国根性で地域文化の因習に染まりきってはいても、日の丸だけに頼らなくてよい日本はとても幸せな国なのかも知れません。
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